タイトルの通りですが、oncotype DXの結果が拡大解釈されているような風潮を感じ、検討してみることにしました。

もともと自分の意見としては臨床病理学的リスクももちろん大事で、

リスクが高いならRSを見ずとも化学療法をすべき。と考えています。

 

誤解の無いように書きますが、oncotype DXは素晴らしい検査で、

基本的にはその結果を基に治療方針を決めても良いと思います。

 

検討した結果を先に書くと、

「閉経前 or 50歳未満」なら臨床リスクはかなり大事。

「閉経後 or 50歳以上」なら臨床リスクはさほど大事でないが拡大解釈はいかん!

というマイナーチェンジになりました。

 

例えば

60歳(閉経後)、腫瘍径25mm、リンパ節転移1つ陽性、グレード3

ER+, PR+, HER2 0, ki67 40%

Oncotype DX RS 18

 

基本的に臨床病理学的だけを見たら間違いなく化学療法推奨です。

ただ閉経後でRS 18なら化学療法は効果が乏しいとして内分泌療法でいくということになります。

では本当にoncotype DXの結果のみを見て治療方針を決定していいのでしょうか。

 

リンパ節転移陽性なので見るべき試験はRxPONDER試験です。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2108873

閉経後のRS18は下の表にあたります

実数で見ると90.8%と93.2%で若干化学療法を施行した方が成績が良いように見えますが、

統計学的には有意差はありません。

同様に11-15では95.8%と93.5%、21-25では93.2%と84.8%であり、

むしろ化学療法をした方が数字的には良くないですが、

こちらも統計学的に差がないため、解釈としては

「化学療法をしてもしなくても差はない」という解釈で問題ありません。

 

ではここに臨床病理学的リスクを加えるとどうでしょうか。

RxPONDER試験では臨床病理学的リスクをhighとlowに分けています。

その分け方が超絶ざっくりしていて、

腫瘍径が2cm未満で組織グレードが1をlow riskとしています。

ということで85%くらいがhigh riskに分類されています。

また組織グレードは2が大半で、3は1割くらいです。

閉経後で見ても大体同じくらいの割合でエントリーされています。

 

この臨床病理学的リスクのhigh, lowで再発率について見てみると、

閉経後だとリスクが高かろうが低かろうが差がありません。

 

ちなみに閉経前だと特にhigh riskで差が出ています。

low riskは症例数とイベント数が少ないため何とも言えません。

 

実はリンパ節転移陽性例についてはこれ以上の検討がされていないのですが、

リンパ節転移陰性についてのTAILORx試験では検討がされています。

 

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa1904819

TAILORx試験自体はリンパ節転移陰性症例で中間リスク(RS11-25)となった場合に化学療法を省略できるかという試験で、

結果としては省略できるという結果でした。

メインの論文では臨床リスクを考慮せずに統計解析が行われていますが、

この論文では臨床リスクを考慮して検討がされています。

 

TAILORx試験では臨床病理学的リスクが少し弱めに設定されていて、

組織グレード3なら1cm以下、組織グレード2なら2cm以下、組織グレード1なら3cm以下をlow risk。

それ以外をhigh riskとしています。

 

確かですが某大病院もグレード+浸潤系(cm)が4以上ならhigh riskと定義していると聞きました。

全く同じですね。

さてそのリスクで見てみると、当然なんですがhigh riskの方が再発は多いです。

年齢別で分けても同様です。

 

ただ、じゃあ臨床リスクが高い場合に化学療法上乗せした方がいいのかと言われるとそんなことありません。

閉経後だと化学療法を上乗せした方が良いという結果にはなりませんでした。

ただ50歳未満ではともに化学療法が有効な傾向がありそうです。

RSを細分化してみると15以下だとほぼ化学療法の意義はなくなっていそうです。

 

これらの結果を見てみると以下のことが言えると思います。

「臨床的なリスクは再発の予測因子となるため当然無視は出来ない」

「ただ化学療法を使ってもリスクを下げることができるのは閉経前でRSがやや高い群のみである」

 

ASCOのガイドラインでは以下の通りです。

https://ascopubs.org/doi/10.1200/JCO.22.00069

・リンパ節転移陰性なら閉経状態にかかわらずoncotype DXを行うことを考慮し、RSが26以上なら化学療法を提案すべきである

・50歳以下でRSが16-25なら化学療法を提案すべきである

・閉経後でリンパ節転移陽性(1-3個)ならoncotype DXを考慮し、RSが26以上なら化学療法を提案すべきである

・閉経前でリンパ節転移陽性(1-3個)ならoncotyp DXは提案しないべきである

・リンパ節転移陽性(4個以上)ならoncotyp DXを使用するエビデンスに乏しい

 

3つめの推奨からは、

「閉経後でリンパ節転移陽性1-3個、RS25以下なら臨床的なリスクにかかわらず化学療法省略でよい」

と読み取れます。

 

ESMOではこんな表にしていました。

https://www.annalsofoncology.org/article/S0923-7534(21)02029-9/fulltext

 

 

閉経後:リンパ節転移の有無にかかわらずRS26以下なら内分泌療法

閉経前:リンパ節転移陽性なら化学療法

リンパ節転移陰性で臨床リスクが高く、RS21-25なら化学療法を考慮(卵巣抑制+アロマターゼ阻害剤も検討)

リンパ節転移陰性で臨床リスクが低く、RS16-25なら化学療法を考慮(卵巣抑制+アロマターゼ阻害剤も検討)

※ここでの臨床リスクはグレード+浸潤径(cm)が4以上

 

ちなみに下のMammaPrintはoncotype DXと似たような70遺伝子を見る多遺伝子アッセイで、

エビデンスレベルとしてはoncotype DXにやや劣り、日本では適応がありません。

 

つらつら書きましたが、じゃあ最初に出した症例

60歳(閉経後)、腫瘍径25mm、リンパ節転移1つ陽性、グレード3

ER+, PR+, HER2 0, ki67 40%

Oncotype DX RS 18

 

はどうするんだと考えたとき、そもそもリンパ節転移陽性のグレード3なんで、

術後ベージニオの適応になるくらいの高リスクです。

この症例を過小評価し、RSが26以下だから化学療法省略はいかがな物かと、と自分は思います。

臨床リスクとしてもグレード3の浸潤系2で5の高リスクにあたります。

てことで結局がっつり化学療法を推奨し、術後もベージニオを推奨します。

 

どうしても化学療法を避けたい場合にRS26以下で妥協するかどうかですかね…

でもそれならTS-1は絶対内服を推奨すると思います。

 

あと閉経前についてはリンパ節転移陽性なら化学療法とやや厳しめになっています。

基本、閉経前でリンパ節転移陽性であれば化学療法をするという意見に概ね同意します。

 

ただ世界的にはRSが低ければリンパ節転移陽性でも化学療法を省略できるのでは?という風潮も出てきています。

以前のブログでも少し触れました。

 

 

 

St Gallenというプロフェッショナルが集まって、

こういう場合どうしますか?という投票をする会議が定期的に行われています。

https://www.annalsofoncology.org/article/S0923-7534(23)00835-9/fulltext

 

2023年のSt Gallenでは閉経前でリンパ節転移陽性(ただし47歳でリンパ節転移は1個、16mmでグレード2)でも、

RSが11なら化学療法をしないという意見が7割を締めていました。

 

このRSを11と17と21に設定した基準がようわからんのですが、

RSが高ければ高いほど化学療法寄りになるという感じです。

これも以前ブログで書きましたが、ADAPT試験ではRSを11以下をlow riskとしています。

ここからとったんですかね?

 

 

St Gallenはエビデンスというよりはプロフェッショナルの感覚(豊富な知見を踏まえた上での)なので、

鵜呑みにしてはいけませんがRS11以下なら省略を検討しても良いかもしれません。

 

いろんなエビデンス出しましたけど結局はあんまりまとまらなかった…

ただ臨床リスクを過小評価する風潮は非常にまずいと思っています。

軸を持ってぶれないようにしていかねば…