とある理由でHER2陽性乳癌強化月間になります
まずこれから
Trastuzumab Emtansine for Residual Invasive HER2-Positive Breast Cancer
N Engl J Med 2019;380:617-28.
術前化学療法後に手術を行い、病理結果で完全に癌が消失(pathological complete response : pCR)していた場合、
予後が良好であるというのは周知の事実です。(ただしHER2陽性乳癌、トリプルネガティブ乳癌に限る)
そこで、もともとHER2陽性乳癌であれば術前に4回ハーセプチンがはいるので、
術後は残りの14回ハーセプチンを行いますが、
もし癌が消失していなかった場合(non-pCR)にハーセプチンをカドサイラに変えたらどうか。
というのがこの試験です。
カドサイラはハーセプチンに抗癌剤(DM1)をくっつけたもので、
HER2を発現している癌細胞に取り込まれた後に内部で抗癌剤をばらまくという薬です。
DM1はもともと副作用が強く世に出回っていない抗癌剤ですが、
こうすることで副作用はかなり軽減できます。
抗HER2薬特有の心毒性がありますが、
phase 2の試験でこれまた心毒性のあるアンスラサイクリンやった後にカドサイラを17コースやっても、
心毒性は強くならなかったという報告もあり、
じゃあ癌が残ってた場合、残り14回のハーセプチンをカドサイラに変えてみたらどうなる?!というものです。
抗癌剤は最低でも6サイクル入っているのが条件です。
またハーセプチンは最低3サイクル入っていなければいけません。
割付因子としては
局所進行乳癌(T4もしくはN2, 3)か早期乳癌か
ホルモン陽性か陰性か
リンパ節も完全に消失しているか否か、がありました。
Primary end pointはiDFS(浸潤癌での局所再発、遠隔転移、あらゆる死亡)
Secondary end pointはiDFS+二次癌、DFS、OS、DRFS(無遠隔転移再発生存)、安全性です。
さて結果です。
1486人が登録され、半数ずつ割り振られました。
局所進行が約25%、早期が約75%です。
ホルモン陽性(いわゆるトリプルポジティブ)が約7割。pure HER2が約3割。
アンスラサイクリンは約75%に入っており、
抗HER2薬はハーセプチンが8割、パージェタ使ってるのが約2割でした。
リンパ節転移が書いてない…?
結果ですが、
iDFSはHR 0.5と大差をもってカドサイラを使った方が有効でした。
3年iDFSで88.3%。
APHYNITY(HER2陽性乳癌の術後抗癌剤にパージェタを上乗せする試験)だと3年iDFS 93.2%
だいたい臨床的にリンパ節転移陽性が67%くらいだったので、
APHYNITY試験の62%とだいたい一緒ですが、
T4とかも入ってる分少し悪いのでしょうか。
患者背景は違えど、パージェタの力とするならパージェタおそるべし…5% gain…。
ちなみに遠隔転移再発もしっかりと抑えられています。
OSは傾向はありそうですが差が出るまではいっていません。
HER2陽性乳癌は5年以内の再発が多いので大きくは開かないでしょうがもう少し観察したら差が出そうです。
サブグループ解析すさまじいですね。
1またいでるのが5項目のみ。ほとんどの症例がカドサイラ有効です。
ちなみに症例数は多くないですが、パージェタが入っててもカドサイラは有効です。
安全性はというと、やはりカドサイラの方が有害事象は多いです。
試験が続けられなくなるレベルだと血小板減少が約6%。
それ以外はハーセプチンと大きくは変わりませんが、なぜか末梢神経障害、低K血症、貧血、疲労がちょこっとだけいます。
問題点としては、脳転移。
これは改善できませんでした。
以前から脳転移は他の臓器転移と異なり、なかなか制御ができないことがわかっています。
それどころか現在研究中の血中腫瘍由来DNAを測定して、他の転移は予測できるのに脳転移だけは予測ができません。
一生の課題でしょうねぇ。
この結果をもって、今後HER2陽性乳癌は基本的に術前化学療法+抗HER2療法。
レスポンスを見て術後HER2療法をカドサイラにする。になっていくと思っています。
唯一、腫瘍径が小さい時。
術前T1b(10㎜以下)N0の時はアンスラサイクリンが省略できる可能性があると個人的に思っているので、
手術先行にすると考えています。