乳癌と飲酒について書きましたが、次は質問にもあった乳癌と食事についてです。
乳製品の摂取に関して乳癌診療ガイドラインでは、
罹患リスクについては「低減させる可能性がある」。
罹患後については「乳癌患者の再発リスクが増加する可能性は否定できないが,乳癌死亡リスクや全死亡リスクが増加する可能性は低い」です。
最近の知見ではどうでしょうか。
Breast Cancer Research and Treatment (2020) 179:743–753
デンマークの研究です。
まず食事と乳癌の関連ですが、
食物繊維の多い食事は胆汁酸の量やエストロゲンの脱抱合を減らし、
再吸収や排出を増やすことで体内のエストロゲンレベルを下げる。
また乳製品はカルシウムやビタミンDが乳癌の発生を抑える一方で、
insulin-like growth factor Ⅰ(IGF-Ⅰ)や脂肪が乳癌発生を増やすと報告されています。
そこでこの論文ですが、デンマークの約80000人に、
過去1年の食事の傾向と、5年目と約15年目に再度食事のアンケートを取り、
その中で乳癌に罹患した人を調査し、乳癌と食事の関係を見ています。
調べている食事ですが、
全粒穀物としてライムギパン(お国柄でしょうね)、全粒パン、オートミール。
乳製品として牛乳(低脂肪やスキムミルクなんでも)、ヨーグルト(低脂肪やフルーツの有無問わず)、チーズ(種類問わず)が上がっています。
量としては全粒穀物は50g増えるごと、
乳製品は牛乳、ヨーグルトは200g増えるごと、チーズは50g増えるごとのリスク増加を示しています。
ちなみにパンの50gは8枚切り食パン1枚。
牛乳はコップ1杯、ヨーグルトはカップ1つが200g。
チーズは6ピースチーズの半分が50gになります。
統計学的な手法は論文にお任せします…ちゃんとしたジャーナルなのでちゃんとしてるでしょう…
交絡因子として年齢やBMI、喫煙、飲酒、癌の性質などもいれてくれてます。
さて結果です。
80000人中1965人が乳癌に罹患。多いと思ったけど40人に1人なのでそんなもんですかね。
そのうち309人が再発し301人が乳癌で亡くなっています。
まず罹患前にしていた食事と乳癌再発との関係です。
若干見にくい表なので乳癌再発についてだけ載せています。
とりあえずModel 2を見ておけばよいと思います。
いろんな因子で調整してくれた数字です。
食事の横の数字が1.0を下回っていればリスク低減。1.0を上回っていればリスク増加です。
しかし()の数字が1をまたいでいれば有意な差ではありません。(多分これであってる)
見てみるとチーズが若干リスク増加に傾いていますが、()の数字が1をまたいでいるので有意ではなさそうです。
続いて乳癌罹患後に摂っていた食事と乳癌再発との関係です。
アンケート結果があるのが977人で、そのうち152人が乳癌再発をしています。
こちらもやはりチーズがあまり良い数字ではないですが、有意な数字ではないようです。
次に診断前と診断後の食事量の変化で再発リスクがどう変わるかをみた表です。
唯一チーズだけが診断前後で食事量を変えなかった場合有意に再発リスクが上がるという結果でした。
ライムギパンもギリギリですが、他はあまり差がありませんでした。
ちなみに考察で、デンマークの人はライムギパンにバターやらチーズやら加工肉やら挟んで食ってるみたいなんで、
それが原因ではと書いてありました。
なんだそりゃ。
チーズは高脂肪乳製品と考えてよいと思いますが、もともと言われていますが高脂肪な食事は乳癌には悪影響なようです。
とはいえ有意である数字は少なく、日本の生活において毎日50gチーズ取るかと言われればあまりとらない気がします。
Nutrients 2020, 12, 2345
で書かれているレビューでも、
西洋食はリスクを上げる可能性があるけど特に乳製品が乳癌リスクを上げるわけではないので、
これを避けさせる必要はないと結論付けています。
いつも私も外来で言っているのですが、
よほど偏った食事をとらない限り、別に何を食べてもよいでしょう。
というのが結論です。
他アイスクリームなども高脂肪乳製品にあたりますが、これも過度でなければいいのではないでしょうか。
よくブログなんかで、
「乳製品は毒!牛乳なんて飲んだら乳癌になる!」
なんて無責任に書いている人がいますが、
1人の意見と、数万人単位で調査して導き出した結論どっちが大事かはわかるかと思います。
荒ぶりました。
結論です。
よほど偏った高脂肪食は避けた方がいいかもしれませんが、
乳製品摂取が乳癌再発に関連のあるとは言えないと考えます。