映画#24,25 ラストマイル | なんのこっちゃホイ!

なんのこっちゃホイ!

世の中の、これでいいのか、こんなことでいいのかを描くブログ。そんなにしょっちゅう怒っていられないので、ほどほどに色々な話題も混ぜていきましょう。

ラストマイルという言葉は、僕の前職で通信機器事業に携わっていた時によく使った言葉だ。「最寄りの基地局からユーザーの建物までを結ぶ通信線の最後の部分」という意味。WiFiが発達し、無線が当たり前になった今、この言葉は通信業者から物流業者のものに変わった。「配送センターから受取人までの最後の1マイル」という意味。ピンポンして配達してくれる人達のことだ。

この映画では、アマゾンを想定したネット販売大手Daily Fast社の配送センターから配送業者のセンターを通じて、配達された荷物が爆発するという事件が連続して起こる。犯人の目的はなにか。Daily Fastを狙ったテロなのか、配送業者がターゲットなのか、あるいは無差別のテロなのか。

警察が介入し、市民の安全を確保するため、センターからの配送をすべて止めるよう命令する。しかし、1時間止めると1億円の損害になるデリファスにしてみると、とんでもない横暴である。しかし新任センター長の舟渡エレナ(満島ひかり)は一計を案じて、これを逆手に取って対応する。頭の良い女性だ。

 

この映画が提示している問題は、おそらく「格差」だろう。

  1. 大企業と派遣の格差
    デリファスのセンターには700-800人の派遣社員が、ピッキングと配送に従事している。彼らが首からさげているのは、「ブルーパス」。一方、エレナや梨本(岡田将生)等の正社員は「ホワイトパス」。冒頭のシーン、多くの派遣希望の社員が何台もの会社のバスに揺られて到着し、パス取得に右往左往するのに、エレナはタクシーでそのバスを追い抜いていく。大きな格差がここにある。しかも、このセンターでホワイトパスを持つものはわずかに9名。
  2. 大企業の中の格差
    「限界は自分が決める」という社是の元、ホワイトパス達も懸命に働いている。「働いて働いて働いて、おかしくなって、心療内科でコンサルを受けて薬を飲んで、それでも働いて働いて働いて、最後にドカン!」エレナのセリフ。決してベルトコンベヤーを止めるな。販売ノルマを達成せよ!これは絶対なんだ。それを上から見ている上級管理職。上る野心と守る地位。そのためには手段を選ばない。大きな格差が存在する。
    「脅しですか?脅しというのは、強いものが弱いものにすることです。私はあなたの下の人間。だからこれは交渉です!」エレナ。
  3. 配送業者と大企業の格差
    羊急便の売上の6割はデリファスに依存している。したがって、デリファスが言ってくる無理難題も「ごもっとも」と引き受ける。荷物を絶対に時間までに配送せよ!という電話のあとに、「荷物を全部止めろ」「配送中の荷物を中止して持ち帰れ」と、ころころ変わる指示。その都度、振り回される担当部長の八木(アベサダヲ)。不配の荷物の問い合わせが大量に押し寄せ、罵詈雑言を浴びせる利用者達。間にたつ業者の苦しみはいかほどか。
    「おたくのサービスセンターが電話にでないから、こっちのコールセンターにガンガン問い合わせが来てるんですよ。なんとかしてくださいよ!」とエレナが八木に言う。相互協力なんて微塵もない。上から下へ押し付けている。
  4. ラストマイル運転手と配送業者の格差
    荷物を一箱届けて¥150。もし受け取ってもらわなければ1円ももらえず、延々と再配達を繰り返す。昼食は10分で食べて、一日200個の箱を届け、挙げ句に死んでしまったドライバー。だれもドライバーのことなど、見向きもしていない。「ドライバーをなんだと思ってるんだ!」という佐野昭(火野正平)の言葉は胸を打つ。今日から配達の人には、「暑い中ありがとう」と声をかけよう!
  5. 大企業のマジックワード
    「Customer Centrics 顧客至上主義」というマジックワードを繰り返し唱えていると、それを信じ込んでしまう。700名の派遣を効率よくコマのように動かして、効率を下げた派遣にはペナルティーを課す。これもお客の手元に約束どおりに届けるという「顧客至上主義」。
    配送業者の配送費を徹底的に叩く。価格を抑えてお客様に満足していただくためだから、これも「顧客至上主義」。そのお題目のためには、すべてを置き去りにして、忘れてしまうもっと大切なこと。顧客も派遣も配送も、人間だということ。

 

満島ひかりがものすごくいい。明るく笑顔で、しかも頭のいい女性だ。時に湧き上がる強烈な怒りを、見事に自己鎮静させるアンガーマネージメントは見習いたい。劇中に登場する配送センターは、前のセンターを居抜きで買い取ったから、まだシステムが古いのだというセリフがあるが、今のアマゾンの配送センターは、もっと人も少なく、極限まで効率化されている。

人間の幸福、欲求を満足させるために、極限まで人間を減らして効率化する。それが果たして、人間にとって幸福なのか。とどまるところをしらない人間の欲求を食い物にする大企業。誰がそれを責めることができるのか。

自殺を計り、植物人間として5年も生きながらえている社員がロッカーに残した謎の数式。2.7 m/s → 0 70kg。これの意味に思いついた時、背中を伝わる冷たい汗。

一回目の鑑賞では、満島ひかりに見とれている内に映画が終わってしまったので、連続2日鑑賞。