面白い本を見つけた。タイトルから思いつくのは、ジャズの名曲、A列車で行こう!でも、ジャズとは何の関係もありません。
舞台は、広島だか、岡山だかの片田舎。総路線距離36キロ、一日12往復という、極めてローカルな電鉄会社、山花電鉄についての本です。でも、ドキュメンタリーやビジネス書ではありません。
ちょっと、ご紹介しましょう。
「鉄ちゃん」と呼ばれる鉄道ファンがいます。電車を撮影するのが好きな人を「撮り鉄」、電車にのって旅をするのは「乗り鉄」等と呼ぶそうです。そんな撮り鉄の田中博さんと、バイクが好きな河原崎慎平さんが、ひょんなことで、山花電鉄沿線で出会いました。田中さんは、山花電鉄が客集めに走らせるプレミア車両の試運転を撮影しようと踏切でカメラを構えています。河原崎さんは、田舎風景を満喫しながらバイクで踏切に通りかかります。その時、不幸な事故が発生してしまいます。その試運転の電車が、線路を歩いていた老婆をはねてしまうのです。二人は手助けにと、現場に駆けつけます。大したことができる訳でもないのですが、何故この老婆は線路を歩いていたのか、と疑問を抱きます。近所の人の話では、一日12往復する電車の時刻表は20年以上変わることもなく、みんな住民は頭に入っているから、絶対安全な近道として、線路を歩くことが常態化していたようです。しかし、時刻表にはない、試運転の電車が来てしまったので、事故にあってしまったようです。
それから二人は、東京で再会します。二人は、山花電鉄の事が忘れられません。田中さんは、実は某大手銀行の支店長さんです。小さな支店ですが、彼は中小企業を誠心誠意支援し、本当の「銀行」業務をやってきた人で、地域の人からも慕われ、尊敬されています。しかし、社内では・・・そんな田中さんは、山花電鉄の経営数値を持ってきました。資本金は僅かに2億円。ずーっと長年赤字ですが、損額は僅かに3000万円です。従業員は20名。どう考えても、コスト削減は厳しく実行されており、3000万円くらいの赤字なら、すぐに何とかできそうです。河原崎さんは、公務員、つまり官僚です。今は定年退職していますが、これまで3度の天下りをしています。退職金もガッポリ貰っていますが、それに罪悪感を感じている、正義感が少―し残っている、官僚でした。
二人は、何とか山花電鉄を立て直すことを考え始めます。鉄道は、利益も当然求めるべきですが、それ以前に、そこに住む人々の便宜が大切です。山花電鉄は田舎のローカル電車で、若者はどんどん都会に出て行き、子供と年寄りしか沿線にはいません。僅かな人数ではあっても、中学生や高校生は電車で通学するよりなく、老人も病院へ行くには、電車が必要です。しかし、大株主である山花町議会は、2年後に会社を潰す事を決議してしまっています。このままでは、後2年でこの鉄道は廃止されてしまうので。わずか年間3000万円の赤字というだけで・・・・
河原崎さんが言います。「僕は2億円なら出資できる。会社を作って、山花電鉄の経営に乗り込もう」と。天下りでもらった退職金。奥様も既に他界され、2億円の現金は彼には必要がありません。何よりそれは、国民の税金なのです。何か人の役に立てたいと。田中さんも、数100万円なら出資出来そうです。「よし!やろう!」と決意したのでした。
田中さんの支店には、総合職の頑張屋女子社員がいました。遊びたい盛りにも遊ばず、一生懸命に夜学で勉強をし、MBAを取得した女性です。頭は切れますし、男前な女子社員です。彼女は、恋愛感情ではなく、田中さんを上司として尊敬し、好きでした。ある夜、彼女を誘って焼き鳥を食べにいく田中さん。そこで、酔ったはずみか、彼女に山花電鉄のことを話してしまいます。数日後、男前の女子社員は田中さんを焼き鳥に誘います。その時には既に、山花電鉄の再建計画と、新会社の主意書、山花町議会へのプレゼンまで出来上がっていました。田中さんは人事から、転勤を打診されていました。新しい勤務先は、個人の債権を取り立てる会社でした。女子社員は、「田中さんは、そんな仕事は似合いません。焦げ付いた個人の債権を、むしり取るような仕事は、田中さんの仕事じゃありません。銀行を辞めましょう。私も辞めます。一緒に新会社、ドリームトレイン社をやりましょう!」と。
こうして男前女子社員の深田由希さんを加えた3名で、ドリームトレイン社は結成されたのでした。社長は、全員一致(と言っても3名ですが)で、深田由希さんに決定したのでした。
意気洋々と山花町議会に乗り込む3名でしたが・・・・
思わぬ障害が立ちふさがります。社長である町長が、この案を一蹴したのです。さぁ大変です。
会社の経営に参加できないのなら、会社の売上を外から増やして黒字化しようと、めげない3名は考えます。それから3人は、山花電鉄再建に向けて、あらゆる知恵を出して行くのでした。立ちふさがる国土交通省、山花町議会をものともせず、3名は爆走していくのであった!
本当に面白い小説です。
是非、お薦めです。
★★★★★
Android携帯からの投稿