銀座のクラブで働く可南子の元を、ある政治家の秘書が訪ねてくる。彼は外国人を1名ともない、お店にやってくる。アメリカの商社の人間だと紹介されたその外国人は、日本語を理解できない様子で、クラブの女性と片言の英語と、ボディーラングエッジで一晩過ごしてゆく。可南子は中でも英語は話せたので、彼は可南子を気に入った様子であった。再び可南子がその外国人と出会った時、その外国人は10年前に可南子を抱いた、あるアメリカ上院議員の話をし、その議員が可南子に会いたがっているという。その夜のことをよく覚えていた可南子は、懐かしさもあり、同意する。
約束の日、可南子が連れていかれたのは、迎賓館であった。厳重な警備の迎賓館には、アメリカ大統領であるバートン一行が宿泊していた。その時可南子は知る。あの上院議員が、米国大統領になっていたのだということを。懐かしさもあり、彼に抱かれた彼女は、夜中にふと目を覚ますと、バートンの姿がなかった。彼女は、懐かしい上院議員との記念写真でも撮影しようと、カメラと新しいフィルムを持っていた。厳重な警備ではあったが、元々、日本人の女性をもぐりこませるのだから、警備に隙がある。誰もカメラに気づかなかった。新しいフィルムをセットして、バートンを驚かそうと廊下に出た時、向こうから歩いてくる5人の姿が見えた。彼女は、何気なくカメラのシャッターを押す。もちろん、ばれないようにフラッシュは切った。数枚の写真を隠し撮りし、バートン大統領に別れを告げた可南子は、そのフィルムを町のDPで現像に回すことにした。
一方、迎賓館の掃除係が見つけた、大統領の寝室のごみ箱にあったフィルムのキャップ。厳重な警備の中、誰がフィルムを持ち込んだのか。関係者への執拗な聞き込みが開始されるが、何故かそれは、パタリと中断してしまった。
可南子が受け取った白黒の写真。そこには、バートン大統領ともう1名、驚くべき人物が写っていた。それは内閣総理大臣の姿であった。更に、おつきの3名が。2名の外国人、1名の日本人。外国人の1人は、自分をここに引き入れた、あのアメリカ人だった。日米首脳が深夜の3時に迎賓館で何をしていたのか。そして、その他の3名は誰なのか。金の臭いをかぎつけた可南子は、この写真をネタに、米国大統領に脅しをかける。
松本清張という作家の作品は、どうしてこうも古さを感じさせないのか。この小説のプロットは、ロッキード事件の発端となった、田中角栄、ニクソン会談であろうと思うが、現代の感覚で読んでも古さもなければ、色褪せてもいない。ひたすら引き込まれて、一気に読んでしまう。特に中盤から後半にかけての物語の展開のスピード感は圧巻だ。ヨーロッパのオランダ、ベルギー、スイス。各国を股にかけ、世界の最高権力者アメリカ大統領から大金を脅し取ろうとする恐るべき悪女である可南子。そして彼女を待つ、あまりに悲しい最後。
スイス銀行の番号口座の仕組み。戦後に消えたと噂された、マッカーサーの莫大な占領資金。政府の軍備調達とその裏の利権と言った、清張ならではの緻密な取材による社会派部分。
とにかくお薦めします。
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