例えば、新幹線に乗って、出張であれ自前であれ、どこかに旅に出なければならない時、あるいは、通勤の電車で読むべき本を自宅に忘れてきてしまった時、「あ~、退屈しそうだから、本でも読もうかなぁ」と思う。そんなときに、東海林さだお氏以上の素晴らしい本を知らない。
まずこのように、時間つぶしの時間であるのであるからして、中身が七面倒くさいものでは困る。まして、古典や哲学書など読もうとも思わない。そして厚さという問題もある。もちろんミステリーもこのような時間つぶしには持って来いではあるが、長編を選ぶと厚さが問題になる。できれば、2時間半の移動時間内に読み終えたい。読み終えたら、到着駅で捨ててもいい。荷物になるのは嫌だ。すると最適なページ数は250~300ページ程度となるか。普通に僕が、リラックスして読むときのスピードで2時間から2時間半なら300ページまでだろう。
東海林さんの本は、ずばり!これらの条件に合っているのである。ページ数はいつも250-260ページ前後。長編ではなく短編すぎるくらいの短編がごちゃまんと詰め込まれて、内容は実にくだらなく、どうでもいいことを、どうしてここまで面白おかしくかけるのか、どうしてこうも真面目に考えられるのかと疑いたくなるような気持ちで、知らず知らずに笑っている自分がいる。腹を抱えて爆笑するのではなく、ビール片手に「グフッ!」って感じでちょっと噴出したビールを口元でぬぐうような感じ。その軽量感が素晴らしい。
別に電車の旅をしなくても、僕は東海林さんの新作が出ると、一目散に買ってしまう。そして、電車に乗らないときには、自宅のお風呂の中で読んでしまう。
今回は、東海林さんが西荻窪でいつもいい匂いを発している立ち食い蕎麦「富士そば」に心を引かれ、外から看板メニューを見ながら「このメニュー、全種類食べて制覇したら、一大記録になるだろうな!」と思い込むことから始まる。そして、1日1蕎麦と心に決めて、毎日「富士そば」に通っては、メニューを順番にこなしていくのだ。通っても通っても、立ち食い蕎麦屋では、常連にもなれないし、親しみのある言葉をかけてもらえるわけでもない。ただただ淡々と、注文された蕎麦を客にだすだけだ。そこにまた美学を見出す東海林さん。
なんとくだらない!馬鹿じゃないか!
なんで立ち食い蕎麦のメニューを全部食べようなんて思いつくかな!よっぽど暇なんだろうなぁと思うと同時に、その発想と筆力で、知らず知らずに読まされているし、読み終わった後は、「よ~し、俺も挑戦しよう。俺は富士そばではなく、「小諸そば」で勝負しやる!」と決意させられてしまうようなパワーがある。
また、北陸の駅弁を2日で24個食べるというツアーに、編集者と駅弁研究家女史を引き連れて旅にでるというのもある。これなぞ、ご丁寧に駅弁の写真が一枚ずつ掲載されており、実にイメージがわくようになっている。温泉旅館に泊まってみたり、通勤客が通るホームのベンチで食べたりしながら、秋田、岩手を回る旅である。
こういうの読むと、作家はいいなと思う。取材と称して、このような小旅行に駅弁食べ放題までついて、ちょろりと駄文(失礼、エッセーか)を書けばお金がもらえるのであるからな。
ニンニク注射の話では、僕も注射を打ちたくなってしまったし、まったく影響力の大きな作家さんである。
が!買ってきた翌日には、ブックオフに20円で買われることになるのであった。ナンマンダブ・・・・