当たり前の治療所での一コマ
今回ご紹介するのは、先日ご来院された「外傷性散瞳」の患者さんのお話です。
この方は仕事中の事故でまぶたの上から目に飛来物が当たり、眼球内にも内出血を負ったそうです。
視力や傷は癒えたものの、この時に衝撃により「外傷性散瞳」を発症されました。
散瞳とは瞳孔が開いた状態のことで、通常は自動的に大きさが変わる瞳孔の調整が出来ない為、瞳孔が開きっぱなしの状態になってしまいました。
瞳孔は周囲が明るい時には小さく、暗い時には大きくなり目に入る光の量を調整していますが、この患者さんのように散瞳の状態になると常に光が多く入る為、明るい時には目が非常に眩しく感じます。
病院では瞳孔を小さくするための筋肉(瞳孔括約筋)は傷付いていない為、後は自然回復を待つしかないと言われたそうです。
瞳孔が光の強さに応じて大きさを変える為には、幾つかのプロセスがあります。
このプロセスのどこで支障が生じているかを知ることで、鍼灸治療が適応であるかどうかが変わります。
今回のような外傷性散瞳では、大きなポイントとして瞳孔自体に損傷があるかないかが重要です。
この患者さんは予め眼科で瞳孔括約筋の損傷がないことを確認していた為、後は瞳孔括約筋に指令を出している動眼神経さえ無事なら一応の適応ではあるように考えました。
また「サンピロ」というムスカリン受容体刺激薬を点眼すると縮瞳が見られることからも、瞳孔括約筋は無事だと考えられます。
更に動眼神経を損傷すると、瞳孔括約筋の麻痺だけでなく外斜視や眼瞼下垂が現れますが、そうした症状もありませんでした。
ただ可能性としては、動眼神経の神経終末から瞳孔括約筋に対して上手くアセチルコリンが分泌されていない可能性は残りました。
鍼灸治療が効果を挙げるとしたら、この動眼神経の働きを復活させることが出来るかにかかっています。
まだ施術を始めたばかりですが、事故から時間が経過していることは少々気掛かりですが、期間を定めた(2~3か月)上で施術を開始することにしました。
当然ながらこうした説明は患者さんにもしっかりした上で、納得して頂いて期間限定の施術を開始しました。
当院では、何よりも説明と同意はとても重要だと思っているからです。