ここでは日本や韓国、ベトナムやタイなどのアジア諸国をはじめ、
アルゼンチン、カザフスタン、ジョージア、メキシコ、イタリア、フランスなどの世界各国の屋台が夏の季節限定で日曜日の朝に出ているのだ。
ここへ散歩がてらのおまりーも連れてやってきた。
トラムとバスで家から30分ほどの距離である。
お腹も満たされたので、公園内を散歩してから帰ろうとしたその時であった。
おまりーが信じられないほどの甲高い声で鳴いてうずくまってしまった。
鳴く声は止まらず、激しく鳴きながら後ろ足を庇いつつ倒れ込んだ。
ひよこよさんは動転してしまい、咄嗟におまりーを抱いて一緒に座り込んでしまった。
こんなに鳴くおまりーは見たことがない。
あまりの鳴き声に人が集まってきてしまった中、1人のおばあさんが話しかけてきた。
だがその中のポーランド語が何も聞き取れずに
『分からなくてごめんなさい』
と謝るひよこよさんに、2人の若い女性がおばあさんに話しかけると
『近くに病院があるんよ。
一緒に行くからついてきてって言うとるよ』
と教えてくれた。
ひよこよさんは痛がりながら震えるおまりーを抱えて、藁にもすがる思いで道案内をお願いした。
『大丈夫や。
ついておいでな』
と彼女たちと一緒に歩き出した。
おばあさんと2人の若い女性も知り合いではない。
ただ、話しかけてくれた時に居合わせてただけである。
自分の予定があってあの公園にいたのに、
知らない外国人のために動物病院へ一緒に行ってくれるという。
本当に感謝してもしきれない。
5分ほど歩いて着いた先は、
偶然にもおまりーがペットパスポートを作った動物病院であった。
『この病院、かかりつけの病院や!』
と3人に言うと
『それは良かったな!
付き添わないで大丈夫なんか?
一緒に行こうか?』
と言ってくださったのだが、もうお時間を取ることは出来ない。
自分の時間を割いて見知らぬアジア人を助けてくれたことに感動したことと、
この病院に来たことがあるという安心感で泣いてしまった。
心から、言えうるだけの感謝を伝えて病院へ入った。
ペットパスポートを1ヶ月前にこの病院で発行してもらったことと、
何があったのかを伝えて待合室で先生を待つこととなった。
少し落ち着きを取り戻した。
あの時おまりーは、
どこかから飛び降りたとか
誰かとぶつかったとか
何かに当たったとか
そういうことは全くなく、ただ普通に歩いていたら突然鳴いて座り込んでしまった。
咄嗟に足を触ったが、骨が折れたとかそういう様子もなかった。
しばらくして呼ばれると、診察台におまりーを乗せる。
いつも診察台に乗ると抱っこして欲しくてジャンプさえしかねないおまりーが、文字通りぺしゃんこである。
先生が触診し、レントゲン室へおまりーを連れて行った。
レントゲン室から痛がるおまりーの声が聞こえてくる。
おまりーは警戒時くらいしか吠えない子だ。
そのおまりーがずっと痛そうに吠えているのだから余程痛いのだろう。
先生から呼ばれてレントゲンを一緒に見た。
『おしりを痛がってるんよ。
骨折はしてないから安心してな。
見たところ…そやな、靭帯やろな。
靭帯損傷してるから今日中に手術した方がええ。
うちに整形外科医がおるんやけどな、
今バケーションで手術出来る整形外科医がおらんねん。』
絶望である。
知っている病院に来て安心感を得たと思いきや、
また知らない病院へ行かねばならない。
整形外科医がバケーションでいないのなら、なぜ他の外科医を置いておかないのだ。
病院を紹介してもらえないかとお願いすると、
24時間やっている病院のリストをくれた。
受付のお姉さんに
『英語もポーランドもあかんくて電話予約が難しいんよ。
本当に…本当に忙しいところ申し訳ないんやけど、電話で手術出来るところを聞いてもらえへんやろか?』
とダメ元でお願いしてみた。
すると
『ええよ!』
と電話をかけ始めてくれた。
言ってみるものである。
ほんとにありがたい、お姉さんを菩薩と思うが一心で手を合わせた。
それから待つこと1時間。
菩薩と崇めるが反面、
一体何待ちなのか少し不透明になってきた。
もう一度菩薩姉さんに聞いてみると、
『今日これから手術を出来るか病院からの返答を待っているんや』
菩薩姉さん、大変失礼いたしました。
それからまたしばらくして
『ここがこれから手術出来るって言っとる。
手術代が1,500ズロチ(約55,000円)+初診料とか診察代な。』
と教えてくれた。
『あとこれ、レントゲン写真入っとる。
先方の病院にはおまりーの情報をメールで送るからな。
レントゲン写真を向こうの先生に渡してな。
おまりーには鎮痛剤の注射を打ったから、
痛がることはないと思うで。』
とCD-Rをくれた。
診察とレントゲン、鎮痛剤処置で407ズロチ
(約15,000円)であった。
もっと目玉が飛び出るような法外な治療費が掛かると思っていたので、少しほっとした。
これから行く病院の手術代も事前に知らせてくれたのも透明性がある。
こういう時に限って夫不在のなか、
英語もポーランド語もおちょんちょん主婦代表のひよこよさんは、大きく手を上げてタクシーを捕まえて病院へ向かったのである。
続く。
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