2年連続年間女王に黄色信号
10月に入り、年間女王争いも熾烈になってきた。
独走と思われた山下美夢有だったが、全米・エビアン・全英と海外遠征に行っていたとはいえ、国内では6月のニチレイ以来勝利がなく、覚醒した岩井明愛にもかわされて、10月1週目の時点でランキングは3位。その海外遠征でポイントを伸ばしたのが申ジエだ。2位の明愛に約170ポイント差をつけて首位に立っている。
1週目の「スタンレーレディス」では森田遥が6年ぶりに優勝した。そして翌週の「富士通レディース」は今季5度目の競技短縮で櫻井心那が4勝目。最終日の荒天を睨んで、2日目の後半にラッシュをかけたと言っていた。心那、おそろしい子……。今の櫻井を今の山下が倒せるだろうか。
ココナッツ、おそろしい子……
「マスターズGC レディース」で、イ・ボミが国内ラストプレー。
“プロゴルファー、イ・ボミは私と日本のみなさまが一緒につくりあげました” の言葉を残して、実質日本でプレーを見られるのはこれが最後となった。これほど愛された外国人プレーヤーを私はしらない。
そんな中、マスターズを制したのは菅沼菜々だった。最終日若干ショットが乱れたがアプローチでしっかり回収、終始冷静な試合運びで軽井沢に続いて今季2勝目。「ナナチャン、オメデトー!」と観客席から大声でボミが祝福する姿が印象的だった。
いい意味で普通に強かった
10月最終週「樋口久子 三菱電機レディス」。首位の鈴木愛が最終日にクアドラプルボギーで崩れ去り、山下美夢有もパターが入らなかった。5打差8位Tから出たリ・ハナがプレーオフの末、大逆転でJLPGAツアー初優勝。
菊地絵理香選手はここで11位Tフィニッシュ。リコーカップへ視界良好だ。女子オープン以降1試合も休んでおらず、この先も休まず最終戦までの予定のようだ。これって、大丈夫なのか。界隈は少しざわざわし始める。
三菱電機レディス。サインもらって、チューハイ片手に絵理香選手のパター練をぼんやり眺めていた。これ以上の幸せがあるか。あるはずないよ
最後の4週 ラストスパート
「TOTOジャパンクラシック」で11月がスタート。初日首位はコースレコードタイを叩き出した岩井明愛、2日目、3日目は今大会の地元である茨城が世界に誇る畑岡奈紗と初優勝を狙う桑木志帆。
ずっとその3人の背後にピタリとついて、最終日に差し切ったのは、35戦目にしてようやく今季初優勝、稲見萌寧だった。この勝利で得た権利を行使し、来季の米ツアー参戦を決意した。
桑木、来季は爆発だ!
そして、またも惜しいところで敗れた桑木志帆。シルバーコレクターと言われた2年前の西郷真央を思い出さずにはいられない。西郷がそうだったように、来季は必ず飛躍の年となるだろう。
稲見萌寧の復活優勝に続き、翌週「伊藤園レディス」も西郷真央が1年半ぶりにトロフィーを掲げた。ウイニングパットで大きく天を仰ぎ、右手で顔を覆う。
長かったね、よかったね、せごどん。おめでとう。
昨年は開幕から10戦5勝と敵なしだったが、以降辛い日が続いていった。それらの日々が頭の中を駆け巡ったのは想像に難くない。これで思い残すことなく米ツアーに照準を絞ることができるだろう。
最終戦の「リコーカップ」が今季優勝者+ランキング上位者の40名による大会なので、実質ラストゲームとなるこの「大王製紙エリエールレディス」。
昨年は鈴木愛との名勝負の末、藤田さいきが11年ぶりの優勝を飾った大会だ。気になるのはやはり年間女王の行方。この時点でトップは山下美夢有だが、2位申ジエとの差はわずか9ポイント余り。3位岩井明愛とも約150ポイント程の差である。年間女王はこの3人に絞られた。
また、50位以内に与えられる来季出場権、いわゆるシード権争いは今大会で決着することになる。川崎春花や堀琴音ら、昨年の優勝者も50位付近で今大会を迎えた。
大会は3日目荒天により、今季6試合目の短縮競技試合となった。初日、2日目と首位に立っていた岩井千怜をかわして、青木瀬令奈が3月の「Tポイント×ENEOS」以来の今季2勝目をあげた。青木自身、年複数回優勝は初めて。
会見では「飛ばないプレーヤーたちにも勇気を与える存在になりたい」と。
3月と11月に優勝って本当にすごい。酒断ちの効果か
そしてシード権争いもついに決着。50位と51位の差がわずか0.35ポイントという稀に見る僅差だった。
それでも51〜55位までは来季前半戦の出場が約束される。
56位以下に沈んだ選手は、地獄のファイナルQTに参加することに……。
終わってみれば
2023年JLPGAツアーもいよいよ最終戦「リコーカップ」を迎えた。
2003年以降は毎年この宮崎カントリークラブで開催されており、この期間選手たちのSNSは、宮崎名物の美食写真で賑やかになる。
注目はもちろん年間女王を争う3人、山下美夢有、申ジエ、岩井明愛のプレーだ。初日から山下、ジエのツーサムはまるで最終日のような緊張感だった。2日目も同じ2人でまわり、山下は首位と1打差2位、ジエは4打差5位Tと好位置をキープ、明愛は20位と苦戦している。
2日目の首位には初日に続いて森田遥が立った。
初日+2と出遅れた菊地絵理香、2日目もなかなか流れをつかめずトータル+6は31位T、首位とは13打離れてしまった。優勝は正直厳しくなってきたが、1打1打大切に来季につながるプレーを。
3日目、ついに山下美夢有が森田の前に出た。8番のダボでスイッチが入り、後半3連続バーディを含んで4つ伸ばしてトータル-8で首位に。ジエとは6打、明愛とは13打の差をつけた。年間女王に王手をかけた格好だ。
最終日の山下、前半もたついている間に一時高橋彩華に首位を譲るシーンも見られたが、昨日と同じ8番で(今度はバーディ)スイッチオン。16番パー3のティーショットがベタピンで勝負アリとなった。
この時解説の福嶋晃子がつぶやいた。
「まるで不動さんをみているよう」
不動さんとはもちろん、不動裕理のことだ。
全盛期の不動のプレーを知る者が山下のプレーやそれらの振る舞いすべてが、通算50勝を誇るレジェンドにすでに比肩しているように見えたのだろう。
終わってみれば、山下美夢有が2年連続でこのリコーカップを制し、そして2年連続の年間女王を決めた。
おそらくこの“終わってみれば”という枕詞が今日明日のメディアに並ぶことになるだろう。
シーズン中盤に一度存在感を失くしたように見えた山下だったが、やはり最後はきっちり帳尻を合わせてきたのはさすが。
次回2023年総括。
2023.12.8.22:04 了