『雲の墓標』(19) | 樋浦明夫のブログ

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日々の出来事(家族や私的なことに触れるのは苦手なので、主としてグローバルな事)、歴史的な過去の出来事、浮世のことについて思ったこと、感じたことを思いつくままに写真や文で紹介したい。

 コロナが感染症法の5類に移行してから患者数は減少しているように見える。7回目のワクチン接種を2023年10月末に受けたが、2月の中旬にコロナに感染した。この頃、福島は全国的にも感染者が多かった。大勢が集まる場所ではまだマスクを外せない状態が続いている。油断は禁物。こんな中で、政府は新型コロナワクチン約9億3千万回を製薬会社と契約したが、一部をキャンセルしたにもかかわらず、廃棄した量は計約2億4千万円分に上ったという。5類に移行してもワクチンを接種したいと思っている人は多いはずだ。どぶに捨てるようならなぜ希望者に接種しないのか不可解。

 コロナに感染したかどうかの検査も無料から有料になり、だいたい病院ではよっぽどでないと検査してくれなくなった。結局、薬局で高い検査キット買って自分で検査しなくてはならない。国民目線でないから、日本政府のやることはいつもどこか頓珍漢だ。
 

 『雲の墓標』の日付けをちょっと戻って9月8日の日記から。ここには次のような海軍批判が書かれている。真珠湾の奇襲攻撃の戦果は日本に仇(あだ)となった。一つは「リメンバー・パール・ハーバー(真珠湾を忘れるな)」を合言葉に敵(米国)を団結させたこと。もう一つは海軍に夜郎自大の風を生ぜしめて、「沈黙の海軍」は消滅したこと。「討ちてし止まん」、「見敵必殺」、「鬼畜米英」等、内容空疎な言葉の安売りの新聞の狂態を中央の海軍が扇動しているとも。サイレント・ネイヴィをチャタリング・ネイヴィに置き換えたら良いと言っている。”サイレント・ネイヴィ”は”沈黙の海軍”、”チャタリング・ネイヴィ”は”おしゃべりな海軍”ということ。
 

 海軍の良き伝統は、ただその形骸の旧套墨守となって、その精神は失われた。こんにちの帝国海軍に対し、数々の批判と不満を自分は持たずにはいられない、と嘆いている。その後に、海軍兵学校出身者と予備学生、予備士官に対する差別に憤っている。海軍兵学校出身者が白人種なら、下士官兵に対する気持ちは黒人にたいするごとくで、予備学生にたいしては黄色人種を見るに等しいと言って、海軍の因襲的な貴族趣味を批判している。海軍では兵学校出身者がエリートで優遇されていたことが分かる。
 

 『雲の墓標③』で戦中において英語は敵性語だということで使用を制限されたと書いた。プラットホームは乗車廊、パーマネントは電髪、ビラは伝単、スキーは雪艇(せってい)、などなど無理やり日本語に直して使っていた。内務省は芸名にまで干渉した。例えば、歌手のディック・ミネは三根耕一、中村メイコのメイは敵性語だからけしからんということでメイコにさせられた。新興行取締規則が公布されて、芸能人は技芸証を内務省から発行されることになった。思想、素行、経歴その他不適当と認められる者には技芸証を許可されないので活動できず、干された。日常用語、芸能人にまで監視の網が張り巡らされた。こうした細々した統制が国民に課せられたのにかかわらず戦局は悪くなる一方だった。ここまで精神主義が徹底されるとばかばかしさを越えて滑稽となる。
 しかし、海軍では士官も下士官も風呂はバス、ブリキ缶はチンケース、道具箱はギヤボックス等などの横文字を日常語として使っていたので、「敵性国語廃止」の声が高くなっても、海軍は英語の廃止などできなかった、と『海軍こぼれ話』(阿川弘之著、知恵の森文庫)にある。この本も読んで、阿川の海軍びいきについても適宜に話してみたい。