「ねじ式」などシュールで前衛的な作品で知られる漫画家のつげ義春(本名・柘植義春〈つげ・よしはる〉)さんが去る3月3日、誤嚥(ごえん)性肺炎で死去した。88歳だったという。
葬儀は9日に親族で行ったという。
東京都生まれ。極度に内向的な性格で、小学校卒業後めっき工場などで働きながら、人とあまり関わらずに済む漫画家を志す。1954年に雑誌に初めて作品が載り、55年に貸本漫画「白面夜叉」で単行本デビュー。以来、主に貸本漫画を描くが不遇が続いた。
水木しげるさんのアシスタントなどをしながら、60年代後半、雑誌「ガロ」に「沼」「チーコ」「李さん一家」「紅い花」など、暗い叙情やユーモアをたたえた秀作を発表。
悪夢のような超現実世界を描いた68年の「ねじ式」は、新たな漫画表現として衝撃を与え、その芸術性が現在も高く評価されている。
不安神経症に悩み、70年代以降は寡作に。80年代に「無能の人」など私小説風の連作を残したが、87年の「別離」が最後の漫画となった。秘境のさびれた温泉への旅行を好み、「貧困旅行記」など旅もののエッセーも人気だった。
「ねじ式」「無能の人」などが映画化され、翻訳や作品集刊行も途切れず、何度も再評価のブームが起きた。20年から21年にかけ、全22巻の全集「つげ義春大全」(講談社)が刊行された。「海辺の叙景」と「ほんやら洞のべんさん」を原作とした三宅唱監督の映画「旅と日々」が昨年公開され、同作はスイスのロカルノ国際映画祭で最高賞の金豹賞を獲得した。
つげ義春の「ねじ式」(1968年)のストーリーを確認しておこう。
「メメクラゲ」(架空の生物)に腕を噛まれた男が、医者を探して奇妙な町を彷徨うシュールな短編漫画。夢の風景を基にした不条理な展開と強烈なイメージで、日本の漫画界に衝撃を与えた代表作です。
なお、本作は漫画史に残る名作として今なお高い評価を得ている。
★『ねじ式』の主な特徴と背景
・作品の誕生: 1967年、つげ義春がラーメン屋の屋根裏でうたた寝をした際に見た夢が元になって描かれた。
・あらすじ: 主人公の男が海でメメクラゲに左腕を噛まれ、医師を探して奔走する。しかし、町には怪しげな婦人科医や、奇妙な駅、風景が現れ、夢のように脈絡のない展開が続く。
・不条理とシュール: 血管を「ねじ」で止めるという独創的なアイデアや、不気味で夢幻的な世界観が最大の特徴。
・影響力: 1968年『月刊漫画ガロ』に掲載され、学生や文化人から熱狂的な支持を受け、文学的な評価も高い。
ところで、では、なぜ「ねじ式」というタイトルなのだろう?
おそらく、英国の作家ヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』(The Turn of the Screw;1898年発表)からインスパイアされているのではないだろうか? ーー というのが、小生の見立てである。
この小説は、古い屋敷、幽霊などゴシック小説の系譜を継ぐ作品であり、ホラー小説の先駆とも言われる。異常状況下における登場人物たちの心理的な駆け引きをテーマとした、心理小説の名作としても知られている。
ジェイムズがカンタベリー大主教から聞いた怪異譚(2人の幼い子どもが住む人里離れた屋敷に、元使用人の悪霊が現れる)が元になっているという。
原題にある「screw」(ねじ)は多義的な語で、「turn of the screw」にはねじを回す(ひねる)のほかに、ひどい状況下でさらに無理を強いる、事態を悪化させる行為、追い打ちといった意味がある、という。
ご冥福をお祈りいたします。
まとめの一句。
春暁の見知らぬなぎさメメクラゲ ひうち