エロ自由律俳句集『鼻を食べる時間』(加賀翔+白武ときお)の内容とは?

 

 お笑い芸人(コント師)「かが屋」*加賀翔さんと放送作家の白武ときおさんによるエロ自由律俳句集『鼻を食べる時間』が、今年の1月23日に太田出版から発売された。

 自由律俳句は、山頭火や放哉などのような、季語や韻律に縛られない自由な俳句のことである。山頭火や放哉は俳人としても一般の人気が高いにもかかわらず、いまの俳句界では、流儀としては非主流派である。

本作にはそこにエロティシズムのエッセンスを加えたエロ自由律俳句が、ゲストの寄稿も含めて300句も収蔵されているらしい。「らしい」というのは、まだ購入していないからだが、近々Amazonで買おうと思う。

 

 ちなみに、本書には、ライトヴァース歌人の走りとして有名な、穂村弘さんや東直子さんの句も入っているらしい【俵万智さんのものはないようだ。エロじゃないものねぇ】。

 

 加賀いわく「…… ふたりの俳句は衝撃でしたね。短歌の感覚というか、情景よりも内面や感じ方にフューチャーされていて影響を受けました」と。

 

 ネットに、著者の一人であるかが屋・加賀翔さんへのインタビュー記事が載っていた。これが結構おもしろい。

 

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 自由律俳句との出会いから、エロ自由律俳句をつくるに至った経緯、エロ自由律俳句とかが屋のコントとの関わりなどを聞かせてもらいました。

――加賀さんの自由律俳句との出会いを聞かせてもらえますか?

加賀翔さん(以下、加賀):出会いは17歳くらいです。僕は当時からお笑いが好きだったのですが、「キングオブコント」でピースのコントを見て、あまりの面白さに衝撃を受けたんです。

 そのピースの又吉(直樹)さんが自由律俳句の本を出版するとテレビ番組で紹介されていて、句を何本か読んで「なんでこんなことをわざわざ一行で書いたんだろう」と、再び衝撃を受けました。

 人に言うまでもない内容なのに、魅力を感じたんです。

――まるで又吉さんに導かれるかのように、自由律俳句にたどり着いたわけですね。

加賀: それからは又吉さんの本だけじゃなく、きむらけんじさんや他の作家さんの句集も探して読み漁りました。

自由律俳句は当時の自分がメモしたり書き溜めていたものに近かったのもあったんです。なんとなく「わかってくれそう」というか。

 僕は学校では面白い方ではなくて、ツッコんだりボケたりで人と思いを共有することが難しい人間でした。

 でも、自由律俳句なら僕も面白いことを表現できるかもと思ったんですね。

 

◆自由律俳句に「エロ」を追加した理由

 

――自由律俳句を始めたのは芸人になるよりもかなり前のことだったのですね。

加賀: 本当だ。お笑いよりも早いですね、そういえば。

――その自由律俳句になぜ「エロ」を追加したのでしょう。

加賀: これ、白武さんも僕も悩んだところなんですけど。

 正直なところ、自由律俳句の先輩たちにかぶらないようにするっていうのが一番に

――ネタかぶり防止ということですか。

加賀: はい。エロって僕たちが影響を受けてきた人たちがまだ触れていない部分だと思ったんです。

 自由律俳句って、定義がないからこそ「明らかにうまいよね」って思わせることが逆に難しいんですよね。

 そんな中で読者の方に「自分も自由律俳句を詠んでみたい」と思わせるにはどうしたらいいかと考えた時に……。

――「エロ」が最適ではないか、と。

加賀: この本に書かれた句は「エロ自由律俳句」と言わなければ、そんなにはエロの匂いがしないものも多いんです。

 でも「エロ」と公言することで、頭の中に浮かんでいる絵を共有しやすくできるのではないかと。読者に対して自由律俳句の読み方を誘導している感覚ですね。

 ポップでなおかつ未開という意味で付けた「エロ」です。

 

◆「エロ自由律俳句は、まだ僕が磨いていない部分」あったんですよね。

 

――私は加賀さんにあまりエロのイメージが結びついていなかったのですが、周囲からも驚かれたりはしましたか?

加賀: でも、昔から僕を知っている白武さんからは「加賀くんってスケベじゃない?」って言われたんですよね。

 かが屋はそこまでドギツいエロいネタはやってないし、世間的にもそういう印象は持たれてない。だからエロに関しては直接的に表現するよりも文章で見せる方が向いてるんじゃないか、と。

 エロ自由律俳句は、白武さんに見つけてもらった、まだ僕が磨いていない部分だったようにも思います。

――そのニュアンスは、本を読ませてもらうとすごく納得できます。

加賀: 実際に詠んだ句で白武さんを引かせてしまうことも度々ありました。「君はそんな人間だったのか」って(笑)

 

◆寄稿したゲストたちの俳句に成長させてもらった

 

――加賀さんをスケベだと言ってきた張本人がドン引き(笑)。でも、ゲストとして寄稿している芸人さんの俳句は、加賀さんの作品よりもド直球のエロが多かったように感じました。

加賀: 普段あまり自由律俳句に触れているわけではない芸人さんに「エロ自由律俳句」というお題を渡したら、どんな風に返ってくるのか楽しみなところではありました。

 ぐんぴぃさん(春とヒコーキ)なんか、キャラも相まって凄かったですよね。でも、なんだか入り組んでいる僕らの句の方がジメっとエロいような気はしました。

――わかる気がします(笑)

加賀: 歌人の東直子さん、穂村弘さんの句も衝撃でしたね。短歌の感覚というか、情景よりも内面や感じ方にフューチャーされていて影響を受けました。

僕も改めて新しい句を詠み直したいと思いましたもん。ゲストの方に成長させてもらってしまいました。

 

◆「この人のエロ自由律俳句がみたい」と思う人

 

――芸人仲間で他に「この人のエロ自由律俳句がみたい」と思う人はいますか?

加賀: シソンヌのじろうさんとかもめんたるのう大さんは、どんなことを詠まれるだろう?と思いますね。

 お二人とも、もともとセクシーなコントをされる方たちなのですが、コントではやれない部分をエロ自由律俳句として聞いてみたいです。

 逆にあまりイメージがつかない方も気になりますね。ラバーガールさんなんかはネタではエロを出したりもしていますけど、ご本人の印象にはないので興味深いです。

 

◆エロ自由律俳句を思いつくのはどんな時?

 

――加賀さんはエロ自由律俳句をどんな時に思いつくのでしょうか?

加賀: 思いつくことはないかもしれないです。書く姿勢にならないと絶対に出てこないのがエロ自由律俳句なんです。

 自由律俳句は出てくるんですよ。でも「エロ」ってなると、僕の日常の中にどうしてもない。物事をエロく見ようって思わないと無理。

 この辺りが僕のエロ自由律俳人としてのレベルの低さです(笑)

――普通の自由律俳句とは発想方法が違ったりするのですか?

加賀: 身を削るっていうところが全くもって違いますね。

 もちろん実体験だけじゃなくて、映画や小説から影響されたものもありますが……詠むのはしんどい。本当にしんどかったですね。

 今回、本を出版するにあたって句を増やすことになったのですが、まさに今インタビューしている、この太田出版の一室で7時間ぐるぐるぐるぐる歩き回って、もうだんだん変な気持ちになっていきましたもん。

――ここで句を考えたのですか?聖地ですね、この会議室(笑)。

加賀: こんなにエッチなこと考えてるのに、なんで僕がいるのはこんなに真っ白な会議室なんだろう、と。不思議な気持ちでしたね。

 すべての過去の体験や感じたことを振り返ったのでかなりハードな作業でしたよ。

 

◆加賀さんのお気に入りの一句

 

――エロ自由律俳句の生みの苦しみを聞かせてもらったところで、加賀さんのお気に入りの一句があれば教えてもらえますか?

加賀: 『くすぐりあって動物の目になる』 という句が僕は好きなんです。この情景、自分の姿で想像したらめちゃくちゃ恥ずかしいんですよね。

 それでも、エロ自由律俳句を始めた頃はもっともっと照れがあったから、こういう風に詠めるようになった時点で曝(さら)け出し方が変わったというか。

 僕、今すごく人間してるなって思えました。

――個人的には『手の大きさを比べたら絡(から)まっていった』がすごく好きなんです。おそらく誰でも共感できる句じゃないかと思います。

加賀: これ、よくそう言ってもらえるんです。

 Xのアカウントに投稿された時に、みんなこっそり「あぁ、あの感覚ね」みたいに反応してくれてるのを見て嬉しかったんですよ。

――加賀さんの句は、情景が思い描きやすいのに直接的な表現でないところが逆にエロいですよね。

加賀: 読者にとってどのくらいのとっかかりになれるのかを考えると、僕も表現にはすごく悩みましたよ。

 僕の中では少女漫画に出てくるセクシー匂わせくらいで、その先を想像させるくらいの表現に留まっています。

 僕は人間って裸になる前の方がセクシーだと思うんですよね。だから僕のエロ自由律俳句は名づけるとすると「着エロ自由律俳句」……すいません、一気に品がなくなりました(笑)

 

◆フェチズムが多大に織り込まれている、加賀さんの俳句

 

――つまり、加賀さんの句には本人の実際のフェチズムも多大に織り込まれていると(笑)。

加賀: だいぶ多いと思います。でも、カモフラージュも入ってるんですよ。

 自分が自発的にするエロいことと、自分が見る側の視点でエロいと思っていることが混ざっています。

 例えば 『映画につられてとがる唇』 という句は後者なんですよね。これはコントでも考えていたんです。映画のキスシーンを見ている男の子が自分も口がとがっちゃうっていうのが可愛いなぁと。

 でも、エロ自由律俳句でもいけるんじゃないかと思って詠んだ一句です。

 

◆エロ自由律俳句から発展してコントになったものも

 

――もしかして、これまでにエロ自由律俳句から発展してコントになったものもあるのでしょうか?

加賀: ありますよ。『抱かれたと思っていた』という句を考えたんですが、これは女性の先輩が男性の後輩に告白したけど付き合えなかった、というコントになっています。

 先輩が「じゃあ、なんであの時抱いたの?」と問い詰めるんだけど、後輩は「抱いたつもりはない」という。

 このコント、実は後輩は自分が先輩にむちゃくちゃにされたと思っているので「自分の方が抱かれた側」と認識しているズレがあるわけです。

 いろいろと難しい時代なので表現が大変ではありましたけど、がっつり5分くらいのコントとしてやりました。

――エロ自由律俳句発のコントが本当にあったとは驚きです!

加賀:あと、単独ライブでやったお寿司屋さんが舞台の『背徳感』というコントも、自由律俳句をやっていたからこそ生まれたネタだと思います。

――そう聞くとかが屋のネタ作りにおいても、自由律俳句は重要な位置を占めているような。

加賀: 芸人になる前から僕はずっと自由律俳句を毎日3句は絶対に詠んでいて、コントを書き始めてからは1本ネタを書くたびに、そのネタを自由律俳句にして書き溜めてもいたんですよ。

――エロではない自由律俳句は、本当に加賀さんにとって日常といえるんですね。

加賀: こうやってコツコツ頑張ってこまめにやることが僕は得意なのかもしれません。 

 

◆最終的な目的地は、自由律俳句人口の増加

 

――今後もエロ自由律俳句は続けていきたいですか?

加賀: はい。でも、最終的にはみんな自由律俳句の方に進んでもらいたいというのが本音です。

 エロ自由律俳句をきっかけにもっと詠み人が増えてくれたら嬉しいですね。

――最終的な目的地は、加賀少年にも多大なる影響を与えた、自由律俳句人口の増加ということですね。

加賀: 競技人口が圧倒的に少ない分野ですし、エロを受け入れられる人もごく少ないとは思います。

 それでも僕みたいな人がエロ自由律俳句に触れて「それ、それ!僕も書きたいやつ!」と思って始めてくれることが一番の理想なんです。

 同時にここからかが屋のネタも見てもらえるようになれば、と。

 実際にエロ自由律俳句からかが屋のコントに流れついた子もいるらしいんですよ。

――ちなみに、相方の賀屋(壮也)さんは本を読んでくれましたか?

加賀: 「よかったよー」とは言ってくれました。

 でも、前に別の自由律俳句の本を渡した時と全く同じリアクションだったので、本音はどうなのかわかりません(笑)

 

――では、エロ自由律俳句に興味を持った方にメッセージをお願いします。

加賀: 最初は「これは間違ってる」「うまくない」と思うかもしれませんが、とりあえず詠んで発表してみてください。

 自由律俳句は「それ正解」と言ってくれる人が必ずいるので、どんどん詠んでいきましょう。僕も絶対に「いいね!」っていいますよ!

 

――ありがとうございました!

 

        <文・構成/もちづき千代子>より一部引用 

 

 *「かが屋」のプロフィール https://www.maseki.co.jp/talent/kagaya 

 

   ★まとめの一句 

            おまえはすでに濡れている  ひうち

 

 【追記】

 

 読んでみての感想だが、言うほどの「エロ」、「エロティシズム」は感じられなかった(ほとんど無かった)ように思いました。

 これって、どうなんでしょう? 読み方が足りないのでしょうか?