懐に棒一つ    俳句80+2句【2024年_冬・新年】

 

         *_棍棒と渇く一物懐手  

   *_懐中をハミ出す一瞬棒棒鶏

 

 

001

下腹に一物もって年賀客

相棒はおとこかおんなかシクラメン

綿入れのねんねこ抱いて懐古する

ちゃんと見て渡辺ちゃんのちゃんちゃんこ

焦げ臭きチャカの匂いを懐手

トローチの穴ばかり舐め風邪をひく

懐かしい未来が塵に冬銀河

鳥籠に烏龍かける日向ぼこ

凍蝶開(あ)くロールシャッハテスト閉づ

ほふほふもはふはふもあり大根焚

 

002

松の木の下に生えない茸(きのこ)あり

木枯しを能登の先から出したまま

鞍馬口出(いで)て時雨れる鞍馬山

前触れもなく前戯がおわる冬紅葉

石蕗咲いて故郷を棄てた人といる

初日の出拝むや棒のような棒

ロンジン製懐中時計の年賀客

膏薬も懐炉も貼って寝ないふり

一斉に一声啼くや冽の鶴

俗名を明かせぬ人と冬支度

 

003

一匹の銀狼追って蒙古斑

ヴィ―ガンを辞めぬ一族紅葉鍋

鞍馬口出でて時雨れぬ鞍馬山

ふるさとを知らず背高泡立草

立冬の朝からビンビン馬の耳

前触れも前戯もなくて冬紅葉

鈴付けて歩けば山毛欅(ぶな)の森に冬

軽井沢暖炉があって懐炉なし

竜の玉転がす一芸もつ土竜

一本の棒立てたまま暮れる年

 

004

懐に手も足も入れ炬燵猫

冬紅葉ぼっけえきょうてえ犬神家

晩節の歳晩穢す棒擬

夜明けまでランコノパーティHalloween 

または Hallowe'en

冬青空路面電車と走る馬

冬青空仕事を休む理由なし

北斗もて掬いがたきや寒昴

波ゆれて埠頭にのぼる月をみる

山科の浪士アツアツ二八蕎麦

 

005

山科の浪士と啜る年越蕎麦

官房の策士溺れる神の留守

神の留守国士無双の単騎待ち

懐寒し聖なる夜のマッチ売り

船宿の蟹すきてっさマヨネーズ

幾つかの曲がり角あり石蕗の花

曲がり角幾つかあって石蕗の花

女王も雪竜巻の渦のなか

上賀茂のすぐき畑でつかむまた

命日は誕生日なの寒昴スバル

 

006

王女A雪竜巻の渦のなか

バスキアもピカソも売って寒の月

決断が早すぎ双子座流星群

決断の流れて双子座流星群

裏金のオウンゴールや鎌鼬

冬鴎岸辺にアルバム捨てに行く

数え日や変な絵になる変な家

鍵穴をのぞくと兎になるアリス

帰さない頂き女子たちと聖夜

初雪の運河に降れば積もらぬを

 

007

百八つ数え柚子湯の義理親子

幾百の千両万両赤具え

根深ぬめぬめぬめぬまのあたりぬめ

二ン月の八百屋に古代魚の化石

ほぼ蟹とほぼほぼ蟹と北帰行

書初めの「唸佛」間違え百万遍

寒明けの踊り念佛百万遍

かくれんぼ炬燵のなかに蜜柑五個

節操と節度をもって「鬼は外」

寒風に負けない豆や洗濯鬼

 

008

鬼の首落ちて椿のはるみ節

「鬼は外」一節うなる浪花節

その二月密猟されて水に罠

如月の女のあたりがざわざわと

皇國の赫子男女子建國日

皇国の赤子百歳建国日

チョコレート早めに貰う建国日

如月の女の口と月のもの

鍵穴を覗く(のぞく)ゾクゾク細雪

如月を水のはじまる微弱音