🌸 夢の舞い咲く洲 【2023年秋:80句】
ーー 脈々と夢の舞い咲く洲(しま)の秋
001
小鳥来る右脳失くした海馬(かいば)にも
秋高し琵琶湖飛んでく淡路島
蚯蚓(ミミズ)鳴く公安別班外事五課
萩こぼれ聖徳太子の悩みきく
かなしいほどつながっている芋蔓
質問は二人で一回バッタンコ* *鹿威し(ししおどし)のこと
性質はいたって粗雑獺祭忌(だっさいき)
なぜ?という質問NG棄案山子(すてかがし)
兄嫁に言質(げんち)とられて衣被(きぬかつぎ)
002
潜入後散り散りになる渦銀河
“COSMOS”とケルト語族の発声法
暮れの秋しだいに厭きてゆく抱擁
あやかしの月華を宿す仮面劇 *月華(げっか)=月の光
散逸は免れがたきこの晩秋
臥待ちの変(へん)しい変(へん)しい抱き枕
分け入れば迷子をさらう芒原
花すすき揺らぐ二胡の音蘇州の夜
ちちろ鳴く安寿恋しや出雲崎
ガリレオの地球転回して月球
003
離散して別れ別れになる紅葉
まつろわぬ渓谷(たに)をめぐりて水の秋
揺れながら臘燭抱いて月の雨
小鳥来る似非(えせ)の王子の義眼まで
前線へ退路絶たれてバッタ飛ぶ
散々な散財あとの松茸椀
式神(しきがみ)を刺して雨月の夜を散らす
秋思ふと原潜艦隊浮上せり
鳥籠に散る散る満ちる萩の寺
十三夜貧しき屋根をぺろりっと
004
放流のあとは知らない鰯雲
菊の香や息苦しいほど抱(いだ)かれて
その道は満州国へと蚯蚓鳴く
散り散りに撤退してゆく鰯雲
金木犀まっすぐまがったら先生
その先は舞洲夢洲霧ん中
名月やネオンのなかのうさぎ跳び
生も死も大学病院枯れすすき
伊予路きて美人薄命芋の秋
005
秋うらら鼻より高い河馬の口
剥けぬなら剥かずにシャインマスカット
剝けぬなら剥かずに松茸丹波産
剥けぬなら剥かずに舐めよう夜の桃
夜鷹啼く帰る家路にパンはなし
桃剥いて指から舌から痒み止め
信州は信濃寂しき蕎麦の花
秘密裡に幽かに薫れ銀木犀
降りつもる金木犀の亡き骸(むくろ)
金銀の木犀あつめて星になる
006
十六夜や何処(いづこ)も白河夜船かな
白河に舟を浮かべん十三夜
散りぢりに白萩飛ぶや汝(な)が褥(しとね)
お迎えがそろそろきてる吾亦紅
究極の叛意は翻意乱れ萩
源氏名を戒名にして夜這星
決断は一瞬ダビデの星月夜
贋作の俳句を燃やす暮れの秋
塔の上のキャンドル燃やすハロウィーン
追いつめられて散弾となる鳳仙花
007
とりあえず雲丹だと思う虚栗(みなしぐり)
露にあれ露ときえにし運命線
徴税は国家の権利稲稔る
桃皮を剥いてゆるりと中指を
蟋蟀(こおろぎ)に涎(よだれ)を垂らす孫曾孫
桃いくつ剥くと京橋グランシャトー
鵙贄(もずにえ)を刺して神戸に芸能社
団栗をぐりぐりしたいギャランドゥー
身に入むや一献前の太田胃散
生前の思い出なくし菌山(きのこやま)
008
経典は禅宗にもあり吾亦紅
秋霖や腐海の底かここもまた
ジャニーズの名前を消して冬支度
おとめごは指から老いて冬近し
道化師も導師も纏う草虱
いもうとと遠く朝までゆく銀河
継母と顰蹙(ひんしゅく)買いに菌山
その前にポイント貯める冬仕度
前のあるヤツの凄みと三日月と
© hiuchi