🌸 残酷な四月  70句  2022年

 

001

十八で大人買いする四月馬鹿

「荒地」読む頃を過ぎても来る四月   *T・Sエリオット詩集『荒地』

湯にひらく極楽ごくらく更紗木瓜(さらさぼけ)

黒海の出口入口春潮(はるうしお)

小夜啼きの鶯抱きぬ看護兵

地の果ての原発逃げ水溢れ出て

春の虹濡れた楽譜を胸に抱く

菜の花の地平水平火野正平

京都市左京区鞍馬本町山椒の芽

陽炎をルビンの壺と陰日向
 

002

紙風船すぐ楽にしてあげるから

原発をひとりじめして春一番

おろしやから愛こめすぎて斑雪

青空と菜の花だけの地平線

なにごとかありましたかな海の春

ほぐれない肩寄せ合って芹を摘む 

つぎつぎと舞台はまわる春みかん

つくづくとまなこ見つめて蜆汁

希にみる果報者なり花むしろ

特別な日だったけれど花は葉に

 

003

ドニエプル川を春荒遡上せり

黒海の彼岸につもる春落葉

白骨とルビンの壺を春の宵

髭ダンと島根県産シジミ汁

花は葉に余命三十古希祝う
希望とは若さの特権海市立つ
春昼の眠れぬ少年のせて舟
春はあけぼの川端三条まで下がる
恋の猫裏の裏側さぐりあう

晴鶯を追いて忘れし眠り傘
 

004

ぱっとその最北端を春がゆく
雛収め裏の裏まで愛でつくし

朧夜のゆるい情事の裏事情

誰か泣く何処かへ目借時なのか

啓蟄を赤ヘビ青ヘビヘイカモンわちにんこ

勿忘といえどもひたすら白き指

なつかしきつつみをふんで蓬灸

春めいてふとすれちがう環状線

人類の端緒につもる春落葉

人世の彼岸を超えたんぽぽぽぽぽ

 

005

裏窓のペダンティストや花の冷え

とんでとんで春虹の端までいこう

三枚のスタンドミラー夏兆す

忍び音をもらさず生きて不如帰

春眠の地球の裏の端へゴン

甘噛みの乳房に触れで桜貝

つまりあの胸の硬さに兆す夏

春愁い高梨沙羅似のAV嬢

いきいきと三月生まれ起立礼

咲き狂う桜三月谷のなか

 

006

初諸子喰らえ喰らえと座敷牢

啓蟄の穴あいてててころんじゃった

着やせして遠くへジャンプ雪の果て

ぱんぱかぱんザキヤマぱんの春まつり

名も知らぬ遠き国まで潮干狩り

まわれまわれそこは薄氷たたいてとおる

ブルースを弾きたくなる夜花の冷え

ユーラシアいつか見渡す麦の秋

見渡せぬ宇国の地平麦の秋

巾着切ってオリガルヒなるイソギンチャク

 

007

イソギンチャクに誘われているフラメンコ

純情の空気を変えるイソギンチャク

帰れない空気を醸す汐干狩り

愛スレド空気人形シャボン玉

花冷えや昏くなるまで待てないや 

春惜しむヘミングウェイを読みさしに

春雨じゃ傘の名前を消しておけ

プーちゃんはプーさんが好き春愁い

愛欲の速度制限風青し

はじまりにおわりがあって若葉雨