🌸 僭越ながらお先です。 ―― 2018年新春俳句100句より
001
吉兆のトランプのババ雑煮食う
吉兆の札がそろって参鶏湯
劇薬の首を抱えこむ雪婆
雑煮食う天気予想は無条件
雑煮食う白みそアンコロまんきんたん
劇場の幕が開くごと淑気満つ
宙高くミサイル嗤う雑煮かな
寒昴人生いまだ語りえず
冬青空セレマのセから爪を切る
初御空歌舞音曲の戒厳令
002
チェロを弾く寒夜の底の湧水路
赤なまこケツのあたりのプラグ抜く
ソプラノの声張りつめて初御空
花道を譲ってもらって猛吹雪
スナックのママに叱られ枇杷の花
筆つくる姉妹工房冬至粥
立春を曲がって曲がって赤ポスト
鮟鱇の肝のあたりに勝手口
放物線越えられぬまま冬の蝶
婉曲に言ったつもりがヤブコウジ
003
ゆるゆるゆるむずむずむずる探梅行
シンフォニー始まっている寒昴
三日月のバロック凍てて粗食かな
いつせいに寒崩れをり抱枕
寒の明け曲者もしくは獣道
待春や光まみれの帰り道
如月の函にかくれる不能犯
花八手にんべんおんなのパスポート
白鳥の脚のさびしきチチカカ湖
寒鴉オレの死体を捨てに行く
004
烏丸の鳥丸々と細雪
インバウンド表は厳寒顔の跡
曲芸は玉転がしのみヤブコウジ
筆跡のわからぬ悲劇ひめはじめ
鼻曲がる薬塗られて抱き炬燵
熊穴に仮眠をとって三交替
楽になる薬を飲んで結氷期
狐火や夜どおし瞑想心理学
初恵比寿熊手は大にして小を
安全は安心より出で鎌鼬
005
熊の胆を飲んで躰に春を待つ
心配は心外ですよ鬼は外
落葉にはならないように立って寝る
インスタのジドリに囲まれ梅ふふむ
水仙のつぼみにかかる夢声かな
曲者が石仏になる大寒夜
ひめはじめ僭越ですがお先です
セロリ噛む母心なき水心
冬晴れやピョンチャンまでの線を引く
借腹の命の重き寒のあけ
006
たん熊の鍋をつついて猪を出す
ハーディはテスより凍てて寒梅館
裸椅子に身体を縛り細雪
雪催いあざとくなりすましてゆく
ブロッコリ畑のなかから金正恩
朱欒剥く母ちゃんきらい大きらい
銀幕に夕幕降りきて冬銀河
人殺め三日三晩の冬の月
永遠を排除しませう冬銀河
鍵盤に銀盤おどる銀世界
007
バックする海鼠のケツにあるアタマ
探梅のもう始まっている先斗町
お水でも水には流さぬ枇杷の花
初春の核弾頭をつけて犬
熊眠る森の匂いを閉じ込めて森
椿おつ判決を待つ被告席
冬桜裏取引は空手形
椿おつ裏書手形を回収す
寒の明け否認被疑者を仮釈放
指先を舌先を切り春を呼ぶ
008
春が来るだるまさんが屁をこいて
寒行やちんこちぢんで青ちんこ
梅ふふむどこの部局のどの局部
焦げ臭きチャカの匂いを懐手
ミートゥはユートゥよりも春彼岸
葬列の木々静寂に冬の晴れ
最果ての果てを越えゆく逃避行
なまはげに喰われてよい子だけの朝
えりあしのかなしき人と雪の朝
ほんものの鮫がゆっくり泳ぐ家
009
あやまちを何度してでも春の雷
厄年のおんなと遊ぶ仏の座
北風をベッドに入れて抱いて寝る
あやまちは何度でもよし春の雷
いっせいに火柱あがる火宅かな
寒鴉天金の書を破り棄て
われ思うされどわれなし綿布団
卓上に牡丹がそろう佳き日かな
少年はカフカの門で日向ぼこ
日向ぼこゆっくりしたら人は死ぬ
010
冬木立友はあの世で手をあげる
立ち尽くす父の海辺の海鼠かな
冬青空シャバは見知らぬ人ばかり
うしろから刺客がふいに踊りだす
二丁目の凍て蝶かわく処刑台
たてがみを切って訃報を愛撫する
三日月や閉めても閉めても部屋のそと
鳥落ちて血塗れになる建国日
如月を二月にまぜる影法師
如月の喉赤々と母の逝く