神野紗希の第三句集が、この11月に出た。

 

神野については、以前にも紹介したが、現代仮名遣い+口語派の若手代表格の俳人である。

なかなか鋭い俳句評論もものする(夫くんの高柳克弘氏の影響もあるかもしれないが、その俳句路線は違う)。

 

彼女の俳句には、かつて短歌の俵万智が、ライトヴァース短歌とか短歌ニューウェーヴなどと呼ばれたようなことが、俳句の世界ではなかなか公認されない。現代仮名遣い+口語派が少数派であるということもある。

 

しかし、この古典世界に夢遊しないことこと、俳句の現代性(ないし世俗性)の根源があるのではないだろうか。


帯文などをもって、内容を紹介しよう。


若手俳人のトップランナーとして輝く神野紗希の待望の第三句集。
――結婚・妊娠・出産・子育てという女性としてもっとも変化に富む時期を切り取った作品は、30代の躍動感と、小さな命への祈りに溢れる一方で、寂寥感をも垣間見せ一層趣き深い。――

すみれそよぐ生後0日目の寝息 

 

⇐  この句から本書の書名がとられたのだが、彼女が出産を体験したことが、この句集の主旋律的テイストとなっているといえよう。それをあらわすような一文がある。


 「時代を案じながら命を見つめる怒濤の日々のただなか、俳句は今を生きる言葉だと、つくづく思う。どうか、生きよ。子に、蟻に、燕に、私に、呼びかけながら句を作る。」 (神野紗希)

作品のうち12句 を紹介しよう。


水脈も葉脈も春てのひらも
闇濡れる菫直径一光年
細胞の全部が私さくら咲く
透明なものさしわたむしとわたし
星空は無音の瀑布鯨飛ぶ
母乳ってたんぽぽの色雲は春
産み終えて涼しい切株の気持ち
西瓜切る少年兵のいない国
永遠とポップコーンと冬銀河
眠れない子と月へ吹くしゃぼん玉
檸檬切る記憶の輪郭はひかり
君生まれ此の世にぎやか竜の玉
 

※いずれも、ベタではない、平明で明るく軽い感覚がある。

結婚、出産という人生の幸福な上り坂にいるからかも知れない。

いまの彼女の句には、素直さがあり安心感がある。

それは、鴇田智哉にくらべチャレンジがないという意味で物足りなさを感じるところでもある。

 

最後に、著者の簡単な紹介をしておこう。

 

【著者紹介】   神野紗希(こうの さき)
1983年、愛媛県松山市生まれ。
高校時代(松山東高校)、俳句甲子園をきっかけに俳句を始める。
2002年、第1回芝不器男俳句新人賞 坪内稔典奨励賞受賞。

※早稲田大学文学部 ➡ お茶の水大学大学院文学研究科 
2003年 第一句集『星の地図』(マルコボ.コム)刊。
2004年から6年間、NHK「俳句王国」司会を担当。
2011年 第二句集『光まみれの蜂』(角川書店)刊。

※このころ、俳句のシンポでお目にかかる。お手紙をいただく。
2015年より、現代俳句協会青年部長。
2018年、『日めくり子規・漱石 俳句でめぐる365日』(愛媛新聞社)により第34回愛媛出版文化賞大賞受賞。
2019年、第11回桂信子賞受賞。
著書に  『女の俳句』(ふらんす堂)、

『もう泣かない電気毛布は裏切らない』(日本経済新聞出版社)、

『初心者にやさしい俳句の練習帳』(池田書店) などがある。