日本国憲法の15条1項は、
「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」と規定する。
これが、先般の野党ヒアリングで、内閣法制局が答弁した、日本学術会議法の「推薦」を総理が「任命」を拒否できうる、とした根拠だ。
この規定は(日本国憲法全体の規定は)、もともと英文の草案を日本語訳して作成したものだと言われている。
したがって、
Article 15. The people have the inalienable right to choose their public officials and to dismiss them. が原文ということになる。
しかし、日本国憲法上に「公務員」と訳された原語が、すべて「public officials」というわけではない。
たとえば、
第36条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。
の原語は、
Article 36. The infliction of torture by any public officer and cruel punishments are absolutely forbidden.
で、ここに言う「公務員」は、「public officer」となっている。
ある憲法の先生にたずねてみると、両者の公務員は違うということで、
「public officials」は、より権力度の高い公務員、「public officer」は、一般的公務員を指す、という趣旨の答えを頂いた。
それで、この憲法15条1項の「公務員の選定罷免権」に関する規定の憲法学者の解釈、判例の解釈だが、ます、ここまで突っ込んだ解説をした基本書が少ない。
芦部信善喜『憲法』 岩波書店
高橋和之『立憲主義と日本国憲法』 有斐閣
市川正人『憲法』 新世社
松井茂記『日本国憲法』 有斐閣
渡辺・木下・只野編『憲法コンメンタール』 日本評論社
長谷部恭男編『注釈日本国憲法(2)』 有斐閣
佐藤幸治『日本国憲法論』 成文堂
【それぞれ、版は最新版】
以上の該当箇所あたりを、ざっと見たが、市川正人教授のものが、コラムで詳しく触れているほかは、このテーマにはあまり触れられていない。
市川教授は、平成7年2月28日の最高裁判例をひきながら、この規定は、直接の選定罷免権が国民にあるというのではなく、「国民主権の原理的な表明をしたもの」としている。
たしかに、最高裁判例を拡大解釈すれば、公務員の選定罷免については、選挙などで国民の負託を受けた内閣総理大臣や内閣が、国民の意思を代行する、という解釈も可能かもしれない。
いっぽう、この規定から、個別法の規定ぶりを無視して、憲法の大ナタで斬ることは、すなわち、「特別法は一般法を破る」の法原則から言えば、大いに問題であり、「日本学術会議法」という「日本国憲法」の特別法は、憲法に優先して適用されるべきである。これは、石川健治東京大学教授(憲法学)も述べている考え方だが、私には、これが、もっともな考えであると思われるのだ。
参考:
日本国憲法全文【英語対訳付き】
http://www.chukai.ne.jp/~masago/nihonken.html