◎ 民主主義を救え! ヤシャ・モンク 吉田徹:訳 2019年

 

 私たちは今,北米や西欧を襲う民主主義の後退を目の当たりにしている.戦後の繁栄と平和を支えてきたリベラル・デモクラシーに幻滅し,敵視すらし始めた人々は,その代替物として,どのように危険な政治システムに引き寄せられているのか.今最も注目される気鋭の政治学者による詳細な分析と警告.日本語版序文を付す. 〔内容紹介文より抜粋〕

 

◎ 民主主義の試練  20世紀ヨーロッパの政治思想 上・下 ヤン=ヴェルナー・ミューラー 

      板橋=田口監訳 2019年

 

ウェーバー,ルカーチ,シュミットから,サルトル,フーコー,ハヴェル,ハーバーマスまで,20世紀ヨーロッパを舞台に,民主主義をめぐって数々の思想家たちが織りなしたドラマ.戦間期を扱う上巻は,民主主義の新しい思想的実践とその挫折を描く.『ポピュリズムとは何か』の著者の代表作. 〔内容紹介文より抜粋〕

 

  民主主義は終わるのか:新書   山口二郎

    ⇒危機感はいいが、深堀りが出来たんだろうか?

 

  女性のいない民主主義:新書   前田健太郎 

   ⇒なぜ後述の山本圭氏の言説に比べ明快すぎるのだろう。性(ジェンダーとともにセクシュアリティ)の議論はもっと錯綜しているはずでは。

 

  リベラル・デモクラシーの現在:新書   樋口陽一 (近刊予定)

 

以上は、いずれも、岩波書店が今年=2019年に出版した(する予定の)本である。

思うに、岩波書店は、全体として思想的には、リベラル進歩派(だんだん死語になってきている)だが、このリベラル進歩派の言説が空回りしている感がある。

しかし、左派ポピュリズム論を紹介している山本圭氏の第一論集『不審者のデモクラシー』や松本卓也との共訳での『ラカニアン・レフト』(装丁:フォント使用法など:はいけてないが)は、岩波書店の編集者に、ラディカルデモクラシーに注目している方がいるのかもしれない。

また、このところ、ようやく雑誌『世界』が目次に魅力が出てきたーー申し訳ないが、まだ、定期購読しようとは思わない。

 

しかし、どうも「民主主義」というプラスシンボル(のはずの)啖呵(キャッチコピー)は、マイナス・イメージないし、熱≒セックスアピールのない言葉になってしまった感があるのはなぜだろう。

 

それは、言葉の意味するところの輪郭に揺らぎがあるからではないだろうか。

残念ながら、学者もジャーナリズムも、その意味の両義性を(したがってプラスにもマイナスにも揺れることを)深刻には意識していないように思える。ーーじつは、そこが、問題なのではないだろうか。

 

いま、論壇や出版は、「民主主義」から「ポピュリズム」「左派ポピュリズム」そして「パトリオティズム」「ナショナリズム」「リパブリカニズム」という右の方向へ(方向から)の言説の舵を切った感がある。論潮の潮目が変わってきたのかもしれない。

 

英国のブリグジット騒ぎも、日韓問題、アメリカ外交も、友と敵を分ける政治(カール・シュミット)を「国益」を賭け金に、当事者の視点が定まらない事態に陥っているといってもいいだろう。

 

こういった見方の定まらない政治(国内、外交、国際)というものだが、ちょうど、見立てのできなくなった医師のような状態に見える。

 

この間、ポピュリズム、リベラル民主主義、ラディカル民主主義、などに加え、上述の、ナショナリズムのパトリオティズムという派生型、リパブリカニズムと保守の結合、という流れが見え隠れしている。

 

論壇では、しつこいくらい、これらのテーマが繰り返し取り上げられた。

政治診断の座標軸に確信がもてるのか、もてないのか、よくわからない。

 

論壇(主に左派系)での主な論者は、

吉田徹(北大)、水島治郎(千葉大)、山本圭(立命館大)、中島岳志(東工大)、といった政治学者から、一見、名前が読めない、将基面貴巳*1)というニュージーランド・オタゴ大学教授の西洋史学者(ここのところ愛国論を論じている)らが、登場している。

もう一方、右派の論壇では、『新潮45』同性愛≒非生産者事件、『週刊現代』嫌韓記事事件、のあとも、相変わらず百田尚樹が活躍中だ(ほかにも竹田恒泰なども)。

書店で、百田の新刊書『偽善者たちへ』(新潮新書)をパラ見した。

ようは、「左翼、左派は、国家統治能力≒政権担当能力もないくせに、揚げ足取り≒国会質問やいいとこどり≒理想論ばかり言う偽善者だ」「薄っぺらい正義を嗤う」「ほんとうの大人は重厚なリアリストである」と考えているようだ。

 

なお、なじみの薄いと思われる、ラディカル・デモクラシーと左派ポピュリズムについての詳細は、

 

民主主義の革命――ヘゲモニーとポストマルクス主義 シャンタル・ムフ 翻訳書 ちくま学術文庫 2012年

民主主義の逆説  シャンタル・ムフ 翻訳書    以文社  2006年

ポピュリズムの理性 エルネスト・ラクラウ 翻訳書   明石書店 2019年

左派ポピュリズムのために シャンタル・ムフ 翻訳書 明石書店 2019年

 

などがある。

詳しくは、山本圭氏の解説を参照のこと。

https://www.akashi.co.jp/files/sales/what_is_left_populism_book_fair_list.pdf

 

 注記*1) ウキペディアによると、将基面貴巳(しょうぎめん たかし、1967年 - )は、西洋史学者、ニュージーランドオタゴ大学教授。

 2013年に、『ヨーロッパ政治思想の誕生』でサントリー学芸賞を受賞。

今年に入って、『愛国の構造』(岩波書店、2019年)、『日本国民のための愛国の教科書』(百万年書房、2019年)を立て続けに出している。

 

                                                 【非内三水】