先頃,編曲家の森岡賢一郎氏が,84歳で亡くなられた。

1960~70年代の歌謡曲のトップ編曲家は衆目一致するところ森岡賢一郎(モリケン)さんだったといえる。

 

GSブームの前でいえば,作曲家兼任で宮川泰氏,などがいた。GSと和製ポップス(恋のハレルヤ,虹色の湖など)の時代になり,モリケンさんのアレンジャーとしての才能が開花したといえる。

 

たとえば,1967年のレコ大受賞曲の「ブルーシャトウ」のイントロと軽いノリ,「バラ色の雲」のゴージャスなストリングス,「虹色の湖」のGS以上のGSのざわつき感。「虹色の湖」は,ベース,ドラムスの音が異常にフューチャーされている(ベースは初代ブルコメのベーシスト江藤勲だそうだ。この時期ほとんどのスタジオ録音のベースは江藤が弾いていたという)。

江藤(故人)によれば,スタジオ・ミュージシャンは、おもに編曲家に呼ばれるのだという。

 

モリケンさんがアレンジした曲で、これはというのがある。

フォーリーブスのデビュー曲「オリビアの調べ」だ。

テンプターズの「エメラルドの伝説」にメロディの雰囲気が似ていた。まあパクリはなかったにせよ,数ヶ月で似た曲が出たるのはどうなのかと。「オリビアの調べ」がやや後から出た。

作詞は北光次さん,作曲は鈴木邦彦さん。「エメラルドの伝説」のほうは,作詞がなかにし礼,作曲が村井邦彦,編曲が川口真だった(モリケンさんのあとをいく作曲家兼アレンジャーだ)。

 

 しかし,これが問題にならなかった理由のひとつに,「オリビアの調べ」のモリケンさんのアレンジが,クラシカルな雰囲気が出ていて,「エメラルドの伝説」とは別物になったと言うことだろう。

 

いま,この時代の楽曲を聴いて見ると,どの曲も,夢の世界,王子様,森と泉と湖,遠い星,涙,などなど,誰も知らない北欧のおとぎ話,少女漫画の世界を,GSなり和製ポップスという器で,稚拙ながらも描いている。――スタッフは,この稚拙さ・幼さをよしとしていたのだろうか?

 おそらく,ダイナマイツやモップス,ゴールデンカップスなどは,少女漫画の世界から距離を置いていたと思われる。

 

しかし,日本の歌謡曲が1960年後半のGSブームとそれを受けた和製POPSブームのなかで,従来の歌謡曲の歌詞でない普遍的な洋風の詞にサウンドを乗せたい,という悲願は,こうした無国籍・少女趣味情緒という通過点=イニシエーションを通らねばならなかったのだろう。

その意味で,GSは,1970 年代後半からの日本の本格的歌謡ポップシーンを準備した揺籃といえるような気がするのだ。

 

                                              【ひうちくん】