ぐるめ探訪「鮨裕」 パーフェクトホスピタリティとの出逢い(神奈川県・茅ヶ崎) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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サルヒツのグルメ探訪♪【第221回】

鮨 裕(ゆたか)

℡)0467-39‐5325

 

カテゴリ:寿司

往訪日:2023年11月19日

所在地:神奈川県茅ヶ崎市中海岸1‐2‐33

営業時間:(不定休)

(L)11:30~14:00

(D)17:30~22:00

※一斉スタート制

※おまかせのみ

※夜はカウンター二部制

※座敷は夜のみ

アクセス:JR茅ヶ崎駅から徒歩7分

駐車場:なし

■カウンター5席+座敷

■予算:(L)10,000円(税抜)+酒代

■予約:要(困難)

※月初めに二箇月先まで予約受付

■カード:(L)現金のみ

■オープン:2020年1月

 

《いきなり人気店…判る》

 

ひつぞうです。鎌倉文化逍遥のシメは少し足を延ばして茅ヶ崎の鮨屋《裕》でランチしました。2010年のオープンながら、既に予約困難店という人気ぶり。実際に訪ねてみてその理由が判りました。お薦めの店です。

 

★ ★ ★

 

それは偶然の出逢いだった。去年の八月に吉村弘の音楽を聴きに鎌倉を訪れた。鎌倉といえば蕎麦というイメージだが、三浦のネタを使った旨い鮨屋があるのではないか。あてずっぽうに選んだ店がここだった。

 

「予約できないにゃ!二か月先まで」サル ぜんぜん

 

そんな人気店とはつゆ知らず。となれば是非訪ねたいと思うのが人情。ようやく掴んだ倖せの切符。無駄にできない。というのもランチもディナーも一斉スタート。遅刻する訳にいかないのだ。

 

「道案内たのむ」サル おサルのナビ、ぶっ壊れてゆし

 

吉屋信子記念館を辞して、鎌倉経由でJR茅ヶ崎駅に向かう。無事店に辿りつけるか。ただでさえ、僕らは迷いやすい。そのうえ茅ヶ崎駅周辺は(商店街を除けば)無数の路地が広がる住宅街。鮨裕はその一角にあるのだ。

 

 

Google様様である。無事たどりついた。写真では暖簾がでているが、無ければまず判らない。事実、同席したお客さんは茅ヶ崎市民にも関わらず、迷いに迷って近隣住民に助けを求めたところ「今日はお休みですよ」と、デマゴーグに翻弄されたという。

 

「危なかった」サル

 

ほんとだよ。おサルもココじゃないって豪語してたよね。

 

「忘れただよ」サル イヤなことは忘れるべきよ

 

時間になり、女将さんがカウンターに案内してくれた。カウンターはわずか五席。座敷は夜の部専用のようだ。予約が取れないのも頷ける。聞けば帰りしなに次の予約を入れるお客を優先しているそうだ。夜の部の予約のハードルが高い理由はそこにあるらしい。

 

肌ツヤツヤの爽やかな店主が現れて、にこやかに挨拶した。怒られると厭なので写真撮影の許可を頂くと「全然いいですよ」と、またこぼれるような笑顔。客商売の鏡である。聞けばまだ二十代とか。

 

 

店主は二代目。先代は趣味が高じて三重県英虞湾の間崎島《鮨裕 禅》を弟子数名を連れて出店した。Googleでみれば判るが、橋のない、渡船必須の離島だ。そのお値段ひとり36,000円…。それに比べれば茅ヶ崎の店のなんとリーズナブルなことよ。

 

「先代のお名前なんですかの?」サル 店名の由来は

 

「いえ。」

 

「じゃ、ご自身とか?」サル

 

「うちが世話になった方から頂いた屋号なんです。」

 

なるほど。いい話だ。まずは酒を頂戴することに。

 

メニューを見ると、良い特約店銘柄が並ぶ。飲んだことがないものにしよう。(新政もあるけど四合瓶飲み切り16,500円と10倍価格(笑)。自分で手に入れた方がいいかも。)

 

ということでこれを。

 

 

裏颯 純米吟醸55 五百万石

 

生産者:合資会社後藤酒造場

製造年月:23年?月

所在地:三重県桑名市

タイプ:純米吟醸

使用米:五百万石100%

精米歩合:55%

アルコール:15度

 

「五百万石の酒は冬場」と勝手なイメージを作っているが、爽やかで果実味があり、キレもある。鮨に合いそうな酒質だ。

 

「開栓したて」サル~♪

 

よかったね。

 

 

ずいぶん凝った酒器だね。とツブサに眺めていると、隣の客の会話を中断した店主が振り向きざまに「伊賀焼です」と笑顔で解説。伊賀焼といえば見込みや溜まりのビードロ釉が特徴だが、これは黒釉。ロクロ目が鮮やか。小皿こそそうかもしれない。

 

ランチは造りや小鉢はなく、すべて握り。さっそく握ってもらう。

 

 

横須賀のダルマイカ。つまりケンサキイカだ。水揚げ仕立ては鮮やかな紅色なので、横浜周辺ではこう呼ぶ。イカとしては並の部類だが、包丁眼が綺麗で歯応えもよく、塩だけで旨い。

 

 

平目の昆布締め

 

熟成の味。旨い。この腰高な平皿をしげしげと見つめていると「備前焼です!」と再び解説。焼き物も好きみたい。

 

 

白エビ剥き身

 

これから旬だね。おサルの大好きなネタ。

 

「やっぱ甲殻類だよ」サル

 

 

小田原のブリ

 

定置網にかかったストレスフリーのブリ。血が回ると旨くないだけに絶品。特有の臭みが全くない。

 

 

ガリも酢に拘っている。

 

 

食べ終わると、底からイッチンで描いた蛍烏賊。

 

 

小田原の宗田鰹

 

脂の載った秋のソウダは鮪以上と通は言う。酢は四種類を独自にブレンド。だからシャリがまず旨い。

 

 

船橋のコハダ

 

職人の腕が判るネタ。

 

 

カワハギ

 

シャリとの間に大葉と肝が入る。身の淡白な甘味に濃厚な肝のコク。旨い。

 

 

飛良泉 マル飛 山廃純米大吟醸 限定別誂 百田

 

生産者:飛良泉本舗㈱

製造年月:23年?月

所在地:秋田県にかほ市

タイプ:山廃純米大吟醸

使用米:秋田産百田(ひゃくでん)100%

精米歩合:50%

アルコール:15度

 

山廃らしいコクに(マル飛にしては珍しく)やや優しい酸。ラムネ感が勝る印象のマル飛シリーズにしては、クリアで鮨ネタに合うね。

 

 

これはまた、美しいグラスだね。

 

と見つめていると、店主殿がパッと振り向いて「秋田湯沢の川連(かわつれ)蒔絵です」と説明を加えた。蒔絵の手法を応用したキラウルシぐい飲みという硝子工芸らしい。聞けば店主みずから酒器や皿を現地まで買い求めに行くのだそうだ。さすが違う!

 

「ネットでも買えるのにね」サル

 

職人のこだわりはすごいんだよ。

 

 

本鮪づけ

 

ほぼ中トロ。もちろん味は付いている。

 

 

勝浦の金目鯛

 

言われなければ判らない、僅かな炙りが入っている。香り高い。塩でいただく。

 

「あまり炙ると台無しになるしの」サル

 

ワザだよ。やっぱり鮨は。

 

 

中トロ

 

鉄板の味。刷毛塗りの醤油で。

 

 

横須賀のクロムツ

 

備長炭で炙ったものを塩で。裕の基本は塩。

 

 

天草の車海老

 

既に茹で上げたものを、直前に奥の厨房で藁焼きにする。仕上がったものが煙と一緒に俎板の上に乗り、一函づつ握られる。だから、香り高く、海老の身もコクがあって甘い。

 

 

北海道のバフンウニ

 

三河産を使った相模屋(平塚)の高級海苔で軍艦に。温暖化による海苔生産量の激減は、寿司業界では深刻な問題らしい。おそらく一般市民以上に、農業や漁業、そして(良心的な)飲食業に携わる人びとは、この地球沸騰化の問題を肌で感じているのだろう。

 

「食べながらじゃ説得力なくね?」サル

 

いやいや。ちゃんと考えているって。だから食べ物は絶対残さないし。

 

「サルも料理するときは絶対端切れを残さない!」サル

 

 

椀物で休憩。魚の好いダシがでているよ。

 

 

かんぴょう巻

 

シメの巻物だ。シャリの断面を見て欲しい。米粒が綺麗に裁断されている。巻きと包丁がしっかりしている証拠だ。加えて、このかんぴょう、茹で戻して、味つけして、なじませてと仕込みは三日がかり。最近は干瓢造りの好い農家が減って輸入に頼るようになった。鮨裕では在庫の国産に頼っていると聞く。だからだろう。かんぴょう巻本来の味を知らない客が増えたそうだ。

 

「大変なんだにゃ」サル

 

お寿司が高級なのは、技と手間暇の他に、原料入手という問題もあるんだね。

 

 

卵焼き

 

デザート替わりだ。原料は卵と砂糖のみ。まるでシフォンケーキのような風味と歯ざわり。

 

「御馳走さまですた」サル

 

その後、夜の部の仕込みに入った店主と、五人の客は少しおしゃべりした。段々ネタも摂れなくなっているという話の延長で「20年もすれば鮨屋という職業もなくなるでしょうね」と語る店主の顔から、それまでの朗らかな笑みがフッと消えた。20年後と言えば、まだ現役のはず。店主の視線は、再び赤身のサクの骨抜き作業に向く。顔色ひとつ変えずに恬淡と語るその姿が印象的だった。

 

「返す言葉はないにゃ」サル 全人類の責任だけど

 

自分たちも含めてね。

 

勘定をすませ、食事の礼を述べて表に出る。11月というのに残暑と云ってもおかしくない陽射しに閉口しつつ、個人の力では抗いようのない定めに潔く身を任せる職人の諦観に、少し複雑な感情を抱きながら、駅に向かった。しかし、味、技、酒、器、ホスピタリティ。どれをとっても瑕瑾のない店というのがあるというのはやはり倖せ。機会あればまた訪ねたい。

 

「ベリーいい店だった」サル

 

(おわり)

 

ご訪問ありがとうございます。