阿仁川水系ノロ川 桃洞沢~赤水沢
秋田県
日程:2023年10月8日
天気:晴れのち曇り
行程:クマゲラ保護センター6:15→6:55赤水沢出合→7:05桃洞横滝→7:25桃洞滝7:35→8:30男滝→(25分ロス)→9:50分岐(食事)10:00→10:50源頭鞍部→11:30赤水沢本流→13:20兎滝13:50→14:28玉川出合→16:05赤水沢出合→16:45クマゲラ保護センター
■駐車場:約8台
■トイレ:使用不可
■登山ポスト:なし
■行動時間:9時間15分+ロス25分
《桃というよりも…》
ひつぞうです。東北遠征の締め括りは沢登りでした。長らく懸案だった桃洞沢(とうどさわ)。個性的な形が眼を惹く桃洞滝の存在を知ったのは遥か昔、森吉山に登った時のこと。滝まで遊歩道が整備されていますが、できれば源頭まで遡行してみたい。調べてみると支流の源頭を赤水沢と繋ぐ周回ルートが銘渓として開拓されていました。以下、ひさしぶりの遡行記録です。
★ ★ ★
【桃洞沢~赤水沢】
水平距離=13.6km 累積標高=250m
丸二年ぶりの沢登りだ。登山ですら今年の三月に南魚沼の雪山登山に行ったきり。既に半年余りが経過している。加えて、余裕のない二重生活のために、計画に充てる十分な時間もない。本来であれば今はその時ではなかった。しかし、そんなことを言っていると、いずれ体力が尽きてしまう。そんな言い訳を道すがら心のなかで呟き続けていた。
未明の午前四時に道の駅かづのを出発。県道309号(くまげらエコーライン)を通る計53㌔のルートをとった。森吉ダムのダム湖(太平湖)の周囲をモミジ葉のように辿る嶮しい道だが、最短であることに違いはなかった。そして目算通り約1.5時間で基点となるクマゲラ保護センター前のゲートに到着した。
(登山口へは建物の間を左に折れる)
以前は奥の広い駐車場に止められたが(コロナ禍の影響だろうか)保護センターも廃屋となり、トイレも利用できなくなっていた。準備を始めたものの、おサルは動こうとしない。前週まで30度近い気温だったのに低気圧の通過以降、急激に気温が下がり、標高700㍍の森の気温は摂氏5度。その前日、槍ヶ岳や那須岳などあちこちで遭難騒ぎが起きていた。
「この気温で沢登りなんかできるの?」
判らなくもない。僕自身やや臆するところがあった。ひとつは前日までの季節外れの大雨。恐らく沢は増水しているだろう。もうひとつは熊との遭遇。森吉山周辺といえば有数のツキノワグマの生息地域。ただでさえ人的被害が騒がれ始めていた頃だった。
するとそこへ一台の軽自動車が現れた。運転するのは地元の爺様だった。訛りがひどくて殆ど聞き取れなかったが、目的は茸狩りらしい。「今年は暑くてダメみたいですね」と語りかけると、このあたりは駄目だけど八甲田はいいんだと嬉しそうに頷く。ならばなぜここに来るのか解せなかったが、理由があるのだろう。
「殆どウワベの会話してたでしょ」
だって判んないもん。
爺様は準備をすませるとあっという間に消えていった。もう一台関東ナンバーの車が傍に停まった。こちらは明らかに沢登り。乗っているのは若い男性二人。準備は終わっているが、なかなか出発する様子がない。熊を恐れて僕らを先に行かせたいのだろうか。ヤレヤレだ。
今回のコースは標準的な経験者で約7時間。総合グレード初級の沢だが、赤水沢は10~30㍍クラスの懸垂下降が連続するため、登攀グレード2級下。そのため、おサルのビビりを考慮して9時間を見込んだ。6時に出発すれば日暮れ前には戻れるだろう。
最初に立川遊歩道の分岐を直進。手摺のない立川橋を渡る。
次に森吉山の登山道(割沢森コース)が分岐する。ここから登るハイカーが果たしてどれほどいるのだろうか。
暫くはノロ川に沿ってブナの森を歩いていく。
「熊出ないかのー」
一応曲がり角に出くわす度にホイッスルを吹くが気配はなかった。今回の雨の影響だろうか。あちこちの倒木にブナハリタケがビッシリと蔓延っている。以前なら眼の色を変えて採集したが、最近少し熱が冷めている。
もう一つの登山口を過ぎた。
ようやく赤水沢との合流地点についた。帰りはここに戻ってくる。
「標識が齧られてる…」
飢えているね…。熊スプレーはマストだなあ。ここまでくれば横滝はすぐだ。
桃洞横滝だ。ナメナメだねえ。
ノロ川一帯は柔らかい安山岩質溶結凝灰岩で構成されている。そのため滑滝や甌穴などが多く、美しい渓相が発達している。
ここらあたりで入渓する人もいる。僕らは先まで土手伝いで行こう。
10月初旬であれば沢登り最後の適期なのだが…陽が差し込む前でもあり、ネオプレンのスパッツを装着しているのに冷たい。
「ん?なんかあるにゃ」
ハイカー用の渡渉足場じゃない?
「結構危なっかしいけど」
桃洞滝までは沢の縁に歩けるスペースがあるんだね。
この程度の水量なら登れるんじゃないかな。もう滝が見えてくるはずだ。
「おう!なんかすごい形の滝だの!」
見て少したじろいだ。明らかに水量が多い。今の季節はスダレのような沢水が岩の表面を濡らす程度のはず。
「なんか登りたくない」
何をいまさら。
「怖い!」
怖くない!
「だってこんな滝のなか登れないじゃん!」
左岸側に足場が彫られているんだよ。そこを辿ればいい。
「判った…」
といって渋々ここで沢足袋に履き替えた。
(ただ、普段ドライな落ち口の脇が水流に呑まれているのが気持ち悪かった)
大人しく付いてくる。
この沢はフェルトよりもラバーがいいと聞いたが、確かにフリクションが抜群だ。
水流に呑まれていたが大丈夫。
下を見ると女性パーティが追いついていた。
登りあげると平坦なナメナメの渓相の連続。
ただ、腰までありそうな巨大甌穴(ポットホール)があちこちに口を開けている。甌穴の縁を回り込みながらの遡行になる。
写真では伝わらないがそこそこの傾斜。ここでおサル、二回目の泣きべそ。フェルトだと怖いらしい。
殆どプール。
こんな感じでポットホールが連続する。
頑張れよー。
両サイドが延々スラブで覆われている。天気が崩れると一気に増水するタイプの沢だ。
分岐が見えてきたな。
「テンションあがらん」 お腹も減った
右には八段の滝。
ここは左俣に進む。
水量が少なければおサルも余裕があったのだろうが。
確かに滑ると怖いね。
天気予報は当たったようだ。そこそこの青空。
中ノ滝(6㍍)が見えてきた。
左岸から右岸に飛び移るのだが、水量が増しておサルは跳べない。ロープを出して介助した。
さすが人気の沢。支点は豊富だ。
少し進むと連続して男滝(10㍍)が現れる。ここで駐車場で出待ちしていた若者二人に先を譲った。左岸にロープが設置されている。
まずフリーで取りついてロープで攀じる。登り切ればテラス状になっている。
大丈夫。スダレなので流されることはない。
次はおサル。リーチが足りないので苦労していたが、無事登り切った。
ポットホールの際を伝っていく。この手彫りの足場は、昔、マタギが彫ったものだとか。
やあ。美しいねえ。
このあたりを過ぎた処で異変に気づいた。途中で水平な支流を東にそれなければならないのだが、高度は増す一方。分岐を見過ごしたのかも知れない。コンパスで確認すると、明らかに方角が南になっている。本流を直進したのは最早明白。
慌てて戻った。やはりここが755㍍分岐だったか。支沢(左)の存在は把握していたが、余りにも細いのでこれではないと即断してしまった。地形図だけ持参し、トポを取らなかったのがそもそも失敗だし、写真で予習しなかったのも初級ということで舐めていた。感が鈍りまくっている。(ノロ沢の地形は標高差が乏しいうえに複雑に枝沢が入り組んでいる。2.5万分の1地図だけで判読するのは相当のベテランでなければ難しい。)
「どんだけロスしたのち?」
25分くらい…。
「もうバカバカバカ!」
支沢を少し進むと、視界がパッと開けて、噂どおりの底なし沼の瀞場が出現。流木で塞がれてビーバーダムみたいだ。油断すると腰までズブズブ沈む。
「腰まで沈むー!」 底なし沼!?
できるだけ端を歩いて!
50㍍ほど我慢すれば普通の沢に戻った。
相変わらずこんな感じ。
美しい。
時々流木に邪魔される。
次の785㍍分岐についた。1:1を右俣に進む。知らぬ間に追い抜かれた女性パーティが砂州で食事休憩していた。先を急ぎたかったが、おサルがひもじがる。僕らも食事を摂ることにした。
「おにぎりうまい」
少し余裕が出てきたようだ。
再出発するといきなり倒木。
その上がまた瀞場。おサルは何が何でも上着を濡らしたくないらしい。ちょっと寒いしね。
やや荒れてきた。
フリクションが効くので楽勝!
かなり細くなってきた。写真では判りにくいが、沢は深い甌穴だらけで流心を歩けない。間もなく850㍍分岐のはずだ。
一見すると1:2で右俣が本流のように見えるが、目を凝らすと左俣に虎ロープが設置されていた。
肩幅程度になったが流量はしっかりしている。
もう一段ロープで攀じる。
気持ちのいい渓相だね。この季節ならばマイタケも期待できそうだが…ある訳ないか(笑)。
「先行者が採っちゃうよ」
最後の瀞場を通過すれば源頭だよ。
最後の一滴を越えた。
「ここを右かの?」
そうだよ。
無事880㍍地点を乗越した。いよいよ赤水沢への下降だ。時計を見る。時刻は10時50分。大丈夫。十分明るいうちに戻れる時間だ。
「サル、ガンバゆ!」
しかし、そう旨くいかないのがサルヒツジなのだった。
(後篇につづく)
ご訪問ありがとうございます。