名建築シリーズ16
日本銀行大阪支店 旧館
℡)06-6233-2022
往訪日:2023年5月16日
所在地:大阪市北区中之島2-1-4
見学時間:毎週火・水・木のみ
(午前)10時~11時
(午後)13時30分~14時30分
定員:最大15名
時間:1時間(座学+見学)
入館料:無料
申込方法:ネットで希望日の90日~14日前までに応募
アクセス:御堂筋線・淀屋橋駅(7番出口)から徒歩2分
当日集合場所:新館北口前
※旧館「階段室」「記念室」「資料展示室」のみ撮影可能
※案内職員の指示に従いましょう
《まさに名建築!》
ひつぞうです。先月、年休取得して日本銀行大阪支店旧館を見学しました。ここは近代建築の父、辰野金吾の設計による古典主義建築の傑作のひとつです。以下、往訪録です。
★ ★ ★
この日僕らは中之島の日本銀行大阪支店を訪ねた。せっかく大阪にいるのだ。できるなら代表的名建築を観てみたい。平日の火水木限定で、先着順にて無料で見学できると知り、早速応募した。競争率は然程でもなかった。
「どーして無料なのち?」
日銀の役割を国民に理解してもらうための広報活動なんだよ。名建築案内はむしろオマケだね。
古くから大阪経済の中心地であった北浜と、土佐堀川を挟んで向かい合う中之島には近代の名建築がズラリと並ぶ。明治以降において、セーヌ川を模した都市計画が推進されたためだ。御堂筋線・淀屋橋駅北詰の出口から階段を上がると、ちょうど橋の袂に出た。
この日は快晴。ついている。大阪市役所の展望室から、向かいの日銀を俯瞰できるはずだ。案内係に訊いたところ、現在は開放していないと、すまなそうな回答だった。ついてない。
「コロナ禍の影響が残っているにゃ」
中央にドームを配し、イオニア式の柱が見事な、ギリシャ風ファザードが佇立する。この旧館、実は老朽化が原因で一度は取り壊しの危機に瀕した。しかし、良識ある大阪市民の陳情により、御堂筋側の建物を残し、内部遺構も一部整備して今に至っている。
僕らは午前の部に申し込んだ。案内開始の10分前までに新館北口に向かうようにメールが届いた。
北口まで行けば守衛さんが案内してくれた。
「なんで見学者って判ったのかにゃ」?
こんなくだけた格好でやってくるの見学者しかいないでしょ。
「パンピーは出入り禁止なのち?」
そんなことないよ。古いお札や破れたお札の交換もしてくれるし。
新館ロビーで待っていると、スタッフの女性が現れて案内してくれた。金属探知機による厳重な持ち物検査を受けて座学教室に入る。まずは日銀の役割と機能について学んだ。
日銀の機能と役割
簡単に言えば以下の四つ。社会科で習ったね。
■銀行券の発行
■物価の安定
■金融システムの安定
■国庫金(税金)や国債の管理
他にも発券銀行(お札の管理)、銀行の銀行(銀行間決済管理)、政府の銀行(国庫金管理)なんて言い方もされるね。つまり、おカネと経済そのものの管理を行うのが日本銀行の役目なんだ。
そして、こと大阪支店は(他の支店と同様に)地域経済の発展のために多くの情報を収集し、分析・提供している。ちなみに全国32支店が活動している。
ということで、約10分ほどVTRを見た後、新館二階の営業室から見学開始だ。
=新館=
平日の昼日なかから物見遊山に明け暮れる不良サラリーマンと違って、皆さん真剣に業務に当たっている。幅30㍍×長さ70㍍の広大なスペースには間仕切りも柱もない。これは火災発生時に被害を最小限にするためらしい。そして、スペースの端では、古い紙幣や硬貨をひとつひとつチェックする専門職の皆さんが、職人のように作業にあたっているのが印象的だった。
「サルにはムリ」 発狂すゆ
おサルは緻密な反復作業が苦手なのだ。
=旧館=
いよいよ旧館に移動する。二階の廊下からは新旧の建物に挟まれた楠と銀杏の巨木が見て取れる(撮影不可)。かつて立ち並んでいた蔵屋敷と神社に生えていたものだ。日銀大阪支店は、1882年に今橋(現:大阪倶楽部)に設立。その後、大川町(現:三井住友銀行本店営業部)、更には現在の中之島へと移転している。
=階段室=
まずはこの部屋に案内してもらった。
吹き抜けのかつての正面玄関ホールだ。
階段と木製のエンタシスの柱と梁を復元している。
おさらいしよう。大阪支店旧館の竣工は1903(明治36)年。当初は御堂筋と並行に並んでいたが、展示スペースに併せて90度回転して設置した。なので結構狭い。今回の参加者は僕らを含めて6名。なので他人の映り込みは少ないが、15名マックスだとこんな風にはいかなかった。たぶん、いや間違いなく有閑風の女性が多いのは池田エライザ主演の『名建築で昼食を』の影響だ。数年前まで建築を構造美の視点で見るのは建築系エンジニアくらいだったし。
「実際にその話していたもん」
ま、悪いことではないよね。近代化遺産の整備にとっても。
階段のアーチが出色だ。時代は明治、強度を確保するための曲げ加工はかなり難しかったはずだ。
意匠も細かい。アーチが放物線状なので曲率は一律ではなく、鋳物のリブも微妙に形が違う。
階段手摺と柱は欅材。主としてネオバロック式の意匠が彫り込まれている。
他方、照明や装飾金具はアール・ヌーヴォー風。
欄間にも植物をモチーフとした曲線が多様されている。ちなみにシャンデリアなどの照明は戦後再製作されたもの。確かに金属部分が気持ち新しく感じる。
海外の洋風建築とはどこか違うね。柱頭はコリント式だ。
手前に欅の扉。
奥には鋼鉄製の開かずの扉。旧館正門。
さて次の間に移動しよう。
=記念室=
ここは中央ドーム直下の旧貴賓室だ。
「圧巻だにゃ」
シャンデリア、カーテン、クロス、絨毯は復元品。それ以外の木質部材はすべて建設当初のものだ。
木材はすべてチーク。なので経年劣化が見られない。
大理石製のマントルピース。内部に(欧州では一般的な)スチーム式の暖房設備が入っていた。
「これ何だろうにゃ?」
華燭台らしいよ。来賓をもてなすために花瓶を置いたんだろうね。
「今ならいくらくらいするかの?」 百万とか?
おカネに換算できないね。職人による手彫りだものね。
天井たかいね~。丸窓にはステンドグラスが嵌め込まれている。現行のシャンデリアも十分美しいけれど、当初のものは鋳鉄製で更にデコラティブだったんだ。照度確保のために白熱灯に替えられたって書いてあった。
おサルさ。楕円彫刻の中にある日銀のマーク判る?
「ホントだ!あゆ」
日銀の行章だね。行員の間では“目玉”と呼ばれている。上部の彫刻は鳳凰だ。
これも当時のまま。
神は細部に宿る(ファン・デル・ローエ)。
ということで満喫しました。
=資料展示センター=
最後は日銀の歴史とアレコレを学べるコーナーへ。体験学習できる「業務コーナー」は撮影可能。「日本銀行のあゆみコーナー」は、一部(過去の)個人情報も含むため、撮影NGだ。
「怒られたよね」 よくひっかかるな、キミは
だって何も書いてないもん。謂われないと判らないよ。
★ ★ ★
一億円を担いでみよう。
「けっこう重い💦」
10kgあるんだって。ということは三億円だと30kg!
「あの事件の犯人は相当の力持ちだにゃ」 ヒツにはムリやな
訓練を積んで犯行に及んだんだな。ヤツは。
40億円十束封。もちろん記念撮影用のダミー。大口取引用に(写真のように)地下金庫に厳重に保管されている。案内してくれた行員さんに訊いたら、金庫室に入ったことあるそうだ。その時は、いくら行員でも、ピリピリした雰囲気にやられそうだったとか(笑)。
しかし、キャッシュレスの時代にこんな大量の現金がまだ必要なんだね。むしろ新札発行数は増えていて、漱石先生から野口先生に代わった2004年と比較しても1.6倍の約120兆円!。これはタンス預金の影響とも言われている。
★ ★ ★
最後に来年2024年上期に導入される新しいデザインのお札について説明頂いた。なにぶんお札なので写真は載せられないが、これまで以上に複雑かつ成功な偽造防止技術が導入されていた。
特徴① 3Dホログラム
注目すべきは世界初の3Dホログラム。左端の肖像画(1万円札は澁澤榮一翁)を左右に傾けると、肖像画が左右に動いて見える!
特徴② ユニバーサルデザイン
今までは漢数字がメインだったでしょ?壱万円とか千円とか。それをアラビア数字で10000円、1000円と巨大に描くんだ。どことなく欧州のお札に似ている。老眼の僕には嬉しい。
特徴③ 深凹版印刷導入
簡単にいえばインクを盛り上げる印刷技術。こうすることで、額面数字や肖像がザラザラした触感になる。偽札防止には有効だ。贋物を作るのに、それだけコストを掛けないといけないしね。
あっという間の一時間だったけれど、建築も興味深かったし、日銀の業務や日本銀行券に関する知識も深まった。次回は東京本店を見学しよう。ということで、ランチすることに。ここまで書けば、次の目的地はもうお分かりですね。
「メシメシ!」
(つづく)
ご訪問ありがとうございます。