奥秩父/雁坂嶺(突出尾根~黒岩尾根周回)① | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

ひつぞうとおサル妻の山旅日記

ひつぞうです。
おサル妻との山旅を中心に日々の出来事を綴ってみます。

雁坂嶺(2289m) 埼玉県・山梨県

埼玉百名山 山梨百名山

 

日程:2023年1月8日~9日

天気:(1日目)快晴、(2日目)快晴

行程:

(1日目)路肩8:09→8:14登山口→10:10雁道場10:20→11:30突出峠11:40→12:30樺小屋

(2日目)樺小屋4:10→7:15雁坂小屋7:35→8:04雁坂峠8:11→9:05雁坂嶺9:25→10:20雁坂小屋10:28→11:20黒岩展望台11:28→13:38あせみ峠→14:28林道終点→14:52豆焼橋→15:52路肩

■駐車スペース:4台ほど

■トイレ:川入バス停に有(冬季利用可)

■登山ポスト:登山口に有

■行動時間:(1日目)4時間(2日目)4時間30分+6時間10分

※突出コースの冬季利用は原則禁止。経験者向きです。

 

《雁坂峠から見る黒金山、西沢渓谷そして富士》

 

ひつぞうです。今年最初の登山は奥秩父の雁坂嶺でした。実は今回の山旅、当初は中津川渓谷を起点に赤沢山からシャクナゲ尾根小若沢を周回するバリエーション山行の予定でした。しかし、思わぬアクシデントに遭遇。急遽変更となったのです。結果的には静かな野趣あふれる山にふれることができました。以下、山行の記録です。

 

★ ★ ★

 

【雁坂嶺(突出尾根~黒岩尾根)】

水平距離=23.3km 累積標高=1560m

 

三年前の二月。栃本広場を起点に、僕らは奥秩父の白泰山十文字峠、そして入川渓谷を繋ぐ周回ルートに挑んだ。その名が示す奥秩父。深く分け入るに従って、想像を絶する雪が厳然と立ち塞がった。疲労困憊の果てにスタート地点に戻った時は、安堵のあまりしばらく動けなかった。二日間で34時間歩きとおした雪山体験は後にも先にもこれ以外にない。

 

その苦い思い出のなかに、四里観音小屋はオアシスのごとき強烈な印象を残した。もう一度行ってみたい。その願望は僕よりもおサルの方が強く抱いた。

 

「あの陽だまりでゆっくり過ごしたいにゃー」サル

 

もちろん、避難小屋はあくまで避難小屋。宿泊前提の登山は慎む必要がある。そのため、小屋前にテントを張るという苦肉の策で、中津川渓谷のふれあいの森から大山沢まで徒歩で稼いで白泰尾根にとりつき、二日目にシャクナゲ尾根から下山するルート(これはこれでハードなバリエーション)を計画した。当日未明に出発。国道399号経由でもみじ湖に向かった。

 

ところがである。

 

ナビは狂ったように北に南に進路を変更。導かれるまま北回りの志賀坂峠に着いた。しかし、そこで眼にしたのは『通行止め』の看板…。不埒者の侵入を拒むかのように鎖は番線で硬く縛られている。考える余裕はない。大急ぎで巨大な両神山をぐるりと回った。1時間と大幅ロスして、もみじ湖の県道219号分岐についてみれば、こちらも巨大な看板で封鎖されていた。

 

実は去年の2022年9月13日、大規模な地滑りが発生。道は完全に塞がれて中津川の集落は陸の孤島と化したらしい。余りの規模に復旧は遅々として進んでいない。ここ最近の山への慢心が生んだ悲劇だった。

 

「どーするよ」サルオートキャンプすゆ?


ふと、アイデアが浮かんだ。雁坂峠に続く突出尾根の登山口が近いはずだ。奥秩父主脈未踏ルート「雁峠~雁坂峠」の下山用に“温存”していた尾根だった。

 

雁坂嶺に続く突出尾根(2020年2月一里観音附近から撮影)

 

ハンドルを握りしめながら記憶を頼りに登山口を探す。すぐにそれは見つかった。あとは駐車スペースの確保だ。

 


雁坂トンネル側に200㍍ほど進むと手頃なスペースを発見。ここに停めることにした。

 

 

準備を終えた頃には午前8時を回っていた…。

 

「ホントは6時半出発だったのににゃ」サルグダグダだにゃ

 

 

登山口は整備されているようだ。登山ポストもある。

 

 

しばらく杉林を歩く。地図はなくても過去のイメージトレーニングでおよその展開は頭に入っている。積雪状態にもよるが、雁坂峠まで8時間あればなんとかなる。

 

 

古い石標が現れた。

 

右ハ甲州旧道(その後は“左ハ…”と記されていたのだろう。廃道に関する箇所は削られて不明)

後ハ栃本ヲ経テ三峰山及秩父方面ニ至ル 

 

こう記されている。

 

突出(つんだし)コースは長大な尾根に沿ってまっすぐに伸びる。そのため距離の割りに判りやすい。

 

 

植林帯はじきに終わり、落葉樹の二次林に変わる。

 

 

尾根が行く手に幾重にも重なる。あの右に傾いだピークが唐松尾山だ。

 

 

まだまだ始まったばかり。

 

 

「封鎖されているにゃ」サル

 

尾根どおしに至るまでは仕事道が分岐する。ピンテを追うこと。

 

 

天気は最高。

 

 

古い炭焼き窯の遺構が並ぶ。

 

 

その正面には林班標のようなものが。

 

 

雁道場に着いたようだ。

 

 

雁坂小屋の主人がつけたのだろうか。2013年に制作されたブリキの標識がこのあと幾つも現れる。

 

 

丁寧な文章に山への愛情が溢れていた。

 

 

樹林越しだが、ここから見る白泰山は秀麗だった。

 

黒文字橋にくだるルートは、東大農学部演習林の管理路なので「通行しないように」と記されていた。

 

 

カラマツの植林帯を歩いてゆく。

 

 

ミズナラの大木の脇には大きなポリバケツが幾つもある。なにかの調査中?

 

 

広尾根になれば突出(つんだし)峠だ。百葉箱や卒業生による記念樹などが散見された。

 

 

「あったかいにゃ」サル

 

この日はほとんど風がなかった。

 

 

夫婦記念樹?

 

 

いよいよ雪が出てきたね。

 

 

庭園のような道。

 

 

笹がちらほら見えるようになった。

 

 

もうすぐ樺小屋のはずだけど。

 

 

おおっ!これは!

 

それはあの四里観音避難小屋と瓜二つの小屋だった。

 

 

綺麗に整頓されている。

 

小屋の雑記帳を読むと判る。ボランティアのヤマヤさんが一役買っている“愛され小屋”だった。

 

 

ストーブは現役。薪も大量に用意されていて、神木から榾まで分別されている!

 

 

床もピカピカ!

 

 

やあ。追いついたね。

 

「避難小屋?」サル泊まれるのち…?

 

そうだよ。綺麗でしょ。

 

「峠まであとどれくらい?」サル泊まってはダメなのち?

 

半分歩いて4時間半かかった。標高は稼いだから、あと4時間くらいかな。

 

「今なんじ?」サル

 

12時半だね。このままだと雁坂峠着は16時半。

 

この先、勾配が無くなるかわり、急斜面の巻き道が連続する。そんな場所で日没を迎えるのは避けたい。となればここで刻むのが得策な気もする。

 

「とまゆ」サル

 

初日の行動はわずか4時間。逆にあり余るほどの時間が生まれ、翌日は押せ押せの展開。本来ならば雁坂峠まで進むのがセオリーだが、スタートの時点でずっこけている。駄目なら敗退ということで、当初の目的だった静かな山小屋の時間を愉しむことにした。

 

「違う小屋になったけどにゃ」サルもうザックが重くて重くて

 

最初は小屋の換気だけのつもりだったが…おサルのガス抜きになった。

 

 

決して背中に火が燃え移ったわけではない。陽光が降りそそいでいるとはいえ、気温はマイナス5℃。さいわい新聞紙は常に持参しているので着火は旨くいった。油脂の多いカンバの皮を拾ってくればよりカンタン。

 

 

この日はカレーの粉からカレーライスを作った。

 

 

ケチって外で拾った湿った枝をバンバン投入。なので煙で大変なことに…。

 

「燻されて眼が痛ーい!」サル燻燻サンローラン💦

 

 

できた!熱量が半端ないのですぐに完成。水場は5分の距離だけど氷結していた。

 

 

ツマミと酒には困らない。そして時間は幾らでもある。第三者の到着を心待ちにしていたが、訪問者の気配はない。冬の奥秩父は意外に人影は疎らだ。

 

「雲取山は大混雑だけどにゃ」サル

 

有人小屋はね。

 

 

陽が高いってすばらしい。

 

食べものよりも先に飲むものがなくなると、おサルはおとなしくシュラフに包まった。しつこくジャーキーをしゃぶる僕に構わず。その後、夕焼けが入川渓谷に深く沈んでいった。小屋の内部は熾火のお陰で寒さを感じさせない。間もなく小屋の裏手から鹿が餌を物色する気配が伝わってきた。そのうち耳に入るものはラジオの音だけになった。

 

★ ★ ★

 

午前三時起床。初日遊んだぶん、早出する必要がある。手際よくオートミールで食事を作り、朝のコーヒーを頂戴した。部屋の掃除を済ませて、火の始末を確認し、小屋を後にする。時刻は午前4時過ぎ。小屋から標高差50㍍ほど登っただろうか。その後、等高線なりに緩い昇降を幾度が繰り返すとほぼ水平回廊になった。二週間ほど前の単独行者の足跡が寂しく僕らを先導し続けた。

 

その後、絶景ポイントの地蔵岩分岐についたが、あいにく漆黒の闇。登る意味もないので直進する。と、今度は鎖場が出てきた。たいして難しくないが、一箇所、雪崩の巣になりそうな急斜面が出現した。

 

 

ここは慎重に越えたい。落差20メートル。落ちたら唯ではすまない。特にモナカになると面倒な箇所だ。

 

「まだ雪質はパウダーに近いにゃ」サル

 

 

時計の表示は午前六時になろうとしている。東の空(あれは和名倉山だろう)が、素晴らしい紫紺に染まってきた。

 

 

「美しいにゃ…」サル

 

 

払暁が近づいてきた。

 

 

巻道が崩壊して、高巻きに付け替えられている箇所がある。ルーファイに注意しよう。

 

 

見た目ほど傾斜は感じない。

 

 

雁坂小屋の命脈、昇龍の滝を通過する。上にポンプがあるね。

 

 

午前6時57分。朝日が顔を出した。

 

 

山肌が一瞬でオレンジ色に染まっていく。

 

 

孤獨がひと際山を美しく律し、厳粛な気配で満たされてゆく。雪山のこの一瞬が好きだ。

 

 

振り返ると辿ってきた稜線があった。独立峰に見えるのは稜線の付属峰、1865峰。

 

 

この看板が見えると小屋も近い。

 

 

やあ着いたよ。誰かいるかなあ。

 

 

なんと。この季節、突出尾根は通行止めだったか。

 

「もう来ちゃったもんね」サル同じ道は帰れないニャ

 

もうひとつ黒岩尾根があるんだよ。コースは虚覚えだけど。

 

 

ここで小休止した。誰もいないようだ。

 

 

小屋は冬季用に一部開放されていた。宿泊2000円。テント1000円。ストーブは使えない。詰めて三~四人かな。

 

 

では雁坂峠まで。

 

 

あとちょっと!

 

 

着いた。日本三大峠の雁坂峠だ。二度目の往訪。

 

 

前回は八年前の梅雨時だった。なので記憶の中の景色と違う。

 

「誰もいないにゃ」サル

 

足跡はあるけどね。たぶん(山梨の)三富側から入山した人たちの足跡だろう。

 

「看板もあるよ」サル

 

 

これはありがたい。黒岩尾根の様子が判る。ふむふむ。直線距離ではこっちが短いね。その分急勾配になるのか。豆焼橋から駐車ポイントまで3㌔。ということはその間約1時間。つまり、ここから下山するのに4時間+1時間=5時間という計算になる。

 

「妥当だにゃ」サル早く帰って酒飲もう

 

ではルートを頭に叩き込んで、いざ雁坂嶺へ!

 

「なに!ここで終わりじゃないの!」サル頭おかしいんじゃね!

 

まだ山頂を極めてないじゃん。

 

(ということで次回につづく)

 

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