サルヒツの酒飲みライフ♪【第130回】
信州亀齢 純米大吟醸39 美山錦
製造年月:2022年2月
出荷年月:2022年10月
生産者:岡崎酒造㈱
所在地:長野県上田市
タイプ:純米大吟醸 一回火入れ
原料米:長野県産 美山錦100%
使用酵母:非公開
精米歩合:39%
アルコール:15度
日本酒度:非公開
酸度:非公開
販売価格:3,546円(税別)
※蔵元直営店で購入可能
※味覚の表現は飽くまで個人的なものです
ひつぞうです。いまや長野を超えて全国区となった稀少銘柄《信州亀齢》。今夜紹介するのは美山錦で醸す純米大吟醸、通称《銀》です。以前、沓掛温泉の満山荘で頂いて虜になりました。それを家飲みで存分に味わう機会を得ました。以下、テイスティングメモです。
★ ★ ★
かつて旅行に行けばその土地の酒蔵を訪ねたものだった。しかし最近はそういうことも随分減った。稀少銘柄は直販せずに特約店に卸すという、業界の流通事情を知ってしまったからだ。岡崎酒造との出逢いはそれ以前のこと。上田の烏帽子岳に登って青木村の田沢温泉に投宿した時だったろうか。上田の街に酒蔵がないか調べた記憶がある。それが信州亀齢を醸す蔵だった。
(オレンジ色は僕のシャツが移りこんだせいだ)
創業は寛文6年(1665年)。江戸初期と歴史は相当に古い。そして(驚くことではないと今は判るが)蔵元杜氏は清楚な女性杜氏。最初は心底驚いた。蔵は北国街道の宿場町・柳町にある。今では観光地として名高いエリアだ。だが石高は決して多くない。品質第一を考えればこそだ。村祐、射美、そして花陽浴など、世にいう稀少銘柄全てに通じる。となれば一気に入手困難になる。
海谷山塊から帰る途中、僕らは上田の街に寄り道した。時刻は午後二時半。岡崎酒造は観光酒蔵の顔も併せ持っている。蔵に問い合わせてみると、亀齢は販売しているという。だが、僕の一番目当ての純米吟醸ではなく、大吟醸の金と銀だ。それでもいい。問題は営業が午後四時で終了だということだった。
無事三時過ぎに到着。危なかった。正面に駐車場があり、他店の名前も記されているが、女将さんに訊いたところ、どこに止めてもいいとのことだった。店内には観光客が大勢たむろし、四合瓶の金と銀両方を冷蔵庫から次々に取り出してゆく。あるおっさんは、別物と思ってか二合瓶も手にしていた。女将さんが「これこっち(四合瓶)の赤ちゃんで中身は同じよ」と笑う。おっさんはおずおずと許の場所に戻した。人の慾とは恐ろしい。さほど知識のない客も、その稀少性に浮かされて、群集心理で買い込んでいるように思えてならない。
「キミもそのひとりだとおサルは強く思う」
一本3600円と通常の高級銘柄が二本買える価格なのに、金銀セットでレジに並ぶ客たち。自宅に戻って躁状態から解放されたとき、本当に後悔しないのだろうか。
「余計なお世話だって」向うも思ってるよ
金と銀というコンセプトが商売として旨いよね。
「パールもあれば三点買いするだろうにゃ」
亀齢の《銀》は長野を代表する美山錦100%で醸した純米大吟醸。精米は39%。アルコール15%の設定は無暗に辛い酒を敬遠する最近の流行にもあっている。亀齢は「綺麗」につながっているのだろう。
開栓してみる。素晴らしい吟醸香が部屋いっぱいに広がるのが判る。山田錦と較べて香り穏やかな仕上がりになる美山錦なのに、このフルーティさはなんなのだろう。飲んでみる。
「ピチピチしているにゃ!」
そうなんだよ。火入れとは思えない活き活きした舌触りがなんとも言えないね。しかし、その一方で含み香は然程でもない。これが美山錦なんだろうな。
「おいしいよ。女子うけするにゃ、このお酒」
若々しい渋みと苦みが通り過ぎたあと、サラリとした「気品」の二文字が明滅する瞬間をへて、ライチ、マスカット、早生メロンのような、優しい甘みが舌の先に乗り始めた。これぞ信州亀齢だ。
酢蛸とオリーブ、香草のマリネ
最初は小布施の白ワインを開けようかと思ったが、どうしても我慢できなかった。もう、数日来、冷蔵庫の中が気になって気になって。
「お酒なのに洋風の料理にもあうね」
セロリの苦み。オリーブの渋み。酢蛸の穏やかな酸味と旨味。それがよく合った。
泥つきゴボウの豚バラまき 空芯菜の中華風
愉しみはつきない。
インパクトのある甲骨文字の“亀”。温度を変えたり、口にする食材を変えたり、バリエーションを変えて頂戴した。ポテンシャルの高い酒はどんな飲み方であっても、骨格がブレることはない。美味しい酒だった。
「金はいつ頂けますのかしら?」
(おわり)
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