シュールなオブジェと重曹泉の宿 赤城温泉「御宿総本家」(群馬県) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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おサル妻との山旅を中心に日々の出来事を綴ってみます。

サルヒツの温泉めぐり♪【第141回】

赤城温泉 御宿総本家

℡)027-283-3012

 

往訪日:2022年8月6日~8月7日

所在地:群馬県前橋市苗ヶ島町2034

源泉名:新島の湯

泉質:カルシウム・マグネシウム・ナトリウム-炭酸水素塩温泉

泉温:42.9℃

匂味:鉄分臭、ほのかな塩味

色調:淡褐色不透明

pH:6.5

湧出量:31.1㍑/分

その他:無濾過・非加水・非加熱・無添加・かけ流し

■営業時間:(IN)15時/(OUT)10時

■料金:10,000円(税別)

■5室

■支払い方法:現金のみ

■アクセス:北関東道・伊勢崎ICから約30分

■駐車場:約5台

■日帰り利用:なし(要確認)

※露天風呂は別源泉(久保田の湯)

 

《猛烈な源泉と只ならぬ廃墟感の混淆》

 

ひつぞうです。二日目の往訪先は群馬の名湯、赤城温泉・御宿総本家でした。泉質、風情ともにアクの強さではトップクラスです。以下、湯めぐり往訪記です。

 

★ ★ ★

 

御宿総本家との出逢いも前掲の(鶴乃湯松屋と同じく)『まっとうな温泉(東日本版)』である。浴場の床一面を覆う析出物と淡褐色の湯に瞬時に魅了された。その後、温泉ファンのニューバイブル、岩本薫さんの名著『ヘンな名湯』で再会。しかしそこでの扱いはブキミ系、トンデモ系。目利きの館主が掘り出した骨董の宿と理解していたが、HPから得た印象とどこか違う。ならば自分の眼で…と予約しかけたところで折悪しくのコロナ禍。御宿は長期休業。下手したらそのまま廃業するのではないか。本気でそう危惧した時期もあった。

 

「パソコンの前で凍りついていたもんにゃ」サル

 

★ ★ ★

 

常陸太田市から北関東道経由で群馬を目指し、予定の時間で伊勢崎ICで降りた。目の前には赤城山のなだらかな山裾が広がっている。残念ながら山頂周辺はガスに包まれて、いつ降り出してもおかしくない様子。

 

赤城温泉郷では五つの宿が営業を続けている。その最奥に位置するのが総本家だった。

 

 

分岐して脇道にそれる。道は狭くなり、湯ノ沢館の建物を過ぎると、いよいよ総本家が見えてくる。

 

 

時刻は午後2時30分。チェックインには早いが、駐車場がどこなのか判らない。おサルが小走りに先行して確認してくれたところ、建物の前まで来て構わないとご主人に言われた。入口に謎の岩が積まれていて微妙に狭い。車を擦りそうで焦った💦。

 

 

なるほどね。噂は満更オーバーでもなかった。手前に伸びる別棟は現在供用されていないのだろう。入口にはアルミ梯子がかかり、工事現場のように雑然としている。ご主人の手による“改装”は現在も進行形みたいだ。

 

「ほんとにやってるのち?」サル

 

やってるよ。ご主人案内してくれたじゃん。

 

 

ここだけ切り取るとロッジ風。少し早いが入れて頂いた。

 

 

「なんかすっごい!」サル

 

フロントにしてすでに夥しい数のオブジェ、オブジェ、オブジェ。

 

「おサルちょっとダメかも」サル

 

男女の評価が分かれやすい宿でもある。

 

 

おう。あなたでしたか。ずっとお逢いすることを願ってました。石膏造りのモンローさま。間違いなく神ホトケとして祀られている。いつの間にか、ご主人は消えて女将さんひとり。この女将さんこそ、当館の跡取りにして社長である。であれば、なんぞ来歴でも聞かせてもらえるかもと話を振るが、はっきりしたことを教えてくれない。どーしてよ。

 

「『ヘンな名湯』の岩本さんでも聞けなかったんだから仕方ないんじゃね?」サル

 

(中央下段の自画像は先代の自筆)

 

統一感がないようで、幾つかのジャンルが存在することに気づいた。

 

①油絵、②アフリカ・プリミティブアート、③神仏道祖神、④昭和モダニズム花瓶、⑤アジアン雑貨

 

それに加えて大量の美術全集。そして、なぜか(きっと誰にも読まれることのない)昭和の漫画。

 

 

とりわけ油絵は、岡本太郎、モディリアーニ、ダリ、シャガールと、誰でもそうと判る大御所の影響が見て取れた。実はこれ、先代の遺作らしいのだ。であれば、やはり廊下や階段の壁を埋め尽くした美術全集や画集のたぐいは先代のコレクションかと問えば、女将さん、なぜか歯切れが悪い。どーしてよ。

 

ここでは眼を輝かせてはいけないのだろうか。女将さんの口はなぜか堅く、容易に口を割ろうとしない。

 

 

二階。なぜか知らんが、原色のガラス花瓶が好きみたいだ。似たようなものが僕の実家にあったな。

 

 

こっちはアフリカ・コーナー。そして三階へ。

 

 

《藤の間》が今夜のお部屋。

 

現在はこのフロアに並ぶ五室だけが使われているようだ。ご夫婦だけの人手ではこれが限界なのだろう。なお、突き当りが露天風呂。

 

それではお部屋の中へ。

 

 

東南アジアの紫檀と螺鈿の家具にアフリカの民具がお出迎え。

 

 

この部屋は洋間。洋間(6畳)と和室(10畳)があるので予約の際に選ぶことになる。6畳一間でテーブル無しなので、ちょっと手狭かも。ま、うちは風呂入って酒飲めば寝るし(笑)。

 

 

漆喰や採光はご主人自らのリノベーション。丁寧かつ手作り感が溢れている。なかなかいい。

 

 

配置はこんな感じ。廊下を隔てて共用のトイレがあるが、洗面台だけ利用。トイレは部屋付きを使うように言われた。使えないことはないが、藪蚊の猛襲を受けることになる。数箇所やられた。

 

 

いろんな廃材を二次利用しているようだ。統一感がないようで、なぜか調和している。

 

それにしてもなんだかいい匂いがするね。

 

「あま~い匂いだの」サル

 

これはもしや…。

 

 

やっぱり!白檀の欄間だ。バリ島や台湾の土産物店で見かけるのと同じ。

 

 

それでは温泉探検へ!

 

=御宿総本家の特徴=

 

■泉質

・析出成分ゴテゴテの複雑高濃度温泉

・自家源泉、かけながし

・源泉二箇所…大浴場(新島の湯)、露天風呂(久保田の湯)

 

■部屋

・洋間、和室の二種類あり

 

■料理

・田舎家庭料理

 

■もてなし

・ご夫婦ふたりでのもてなし。割と淡泊。そのあたりは理解しましょう

・そのうえ放置プレーです

・そしてメチャリーズナブル

 

=当館の攻略法=

 

■浴場

・男女別内風呂×2、露天風呂×1

・脱衣場、浴場ともにワイルド感あり

 

■利用時間

・16時10分~23時30分、翌朝6時~9時30分

・全風呂30分ピッチ

 

■利用法

・大浴場、露天風呂ともに入口前のボードに部屋名を記載して予約

・すべて貸し切り

 

■日帰り利用

・なし(電話で確認しましょう)

 

ということで全て貸し切り。日帰り客も不在。しかもこの日は僕ら以外に一組だけ。なので、課題はどこでバージン湯を利用するか。もちろん内湯(通常の男湯)でしょう。

 

 

再び一階へ!

 

 

あの突き当りが大浴場。ここね、三笠宮殿下も寄られた由緒ある宿なんだよ。300年の歴史があるらしいけれど、詳しいことを教えてくれないので謎だらけ。めっちゃ気になる。

 

「ささ。早いトコロ湯へ」サル

 

 

そー言えば、数年前にテレビ東京「所さんのそこんトコロ」で当館の“開かずの金庫”が出てたね。

 

「なにも出んかった」サル

 

左が男湯。右が女湯。まずは男湯へ♪

 

 

ここでスリッパを脱ぐそうです。

 

 

手作り感が溢れている。

 

 

では脱衣場へ。

 

「…」サルオウッ

 

このあたりから、好みかどうか歴然と分かれてくる。

 

 

ついに念願の岩風呂へ潜入!

 

「そんな名前なの?」サル

 

正しくは《忠治の岩風呂》国定忠治ね。

 

「赤城の山も今宵限り…の?」サル

 

そうそう。ほら、正面の漆喰の一番下をご覧よ。

 

「少し剥げてるにゃ」サル

 

違うよ。あれは意図して赤城山を模しているのよ。

 

(赤い枠内ね)

 

「わかりにくい💦」サル

 

 

温泉藻が生えているね。イエローストーン国立公園の熱泉の緑色の正体もこの藻類なんだ。

 

 

そして、これ!この表面に浮いた石灰華

 

「湯の花なんじゃね?」サル

 

一晩で湯の表面がパリパリになるんだって。

 

「ほんとだ!体にこすりつけるとザラザラすゆ!」サル

 

 

下からどんどん湧き出ているよ。結構熱いね。湯は仄かな鹹味に苦味、そして強い鉄分の金気がある。典型的な重曹泉だね。

 

 

のぼせるから、ある程度入ったところで出よう。

 

「なんか雰囲気すごいにゃ~」サル

 

HPにも書いてあるように“多少ボロいところ”を我慢すればいい宿だよ。
 

「大きい虫いるし」サル

 

蛾のことね。僕は全然気にしないけど。ま、そのあたりは複雑な女子心を理解しよう。

 

では女湯へ!

 

 

泉質と雰囲気は同じ。広さは倍半分ってところ。

 

 

「む~」サル

 

わかったわかった(笑)。でも泉質は極上だよ。

 

「そりは分かってゆ」サルソウハイッテモネー

 

(寒の地獄に続いて)今年二度目の敗北宣言を聞いた(笑)。

 

 

腰かけると析出成分の結晶が尻圧で欠けてしまうが数日で元通り。むしろ定期的に除去をしないと大変なことになりそうだ。それをご夫婦で処理する。追いつかないはずだよ。苔や漆喰の劣化は泉質の良さの証し。決して手入れが悪いわけではない。

 

 

天井にも水蒸気のカルシウムが鍾乳石のように垂れていた。

 

《新島の湯・成分表》

 

炭酸水素が爆発しとるな。

 

 

三階の露天風呂から放出される湯が石灰華になってるよあせ

 

暫く部屋で休憩したのち露天風呂へ。

 

 

こんな風に写真で見ると普通なんだよね。

 

 

オープン過ぎて蛾の仲間がドンドコ飛びこんでいた。

 

 

や~。好いではないの♪

 

 

これって手前が熱い湯で、奥がぬる湯だね。

 

「気持ちいーよ」サルムシガトンデコナケレバモットイインダケド

 

 

空気に触れる時間が違うから濁り加減が違う。

ここもツルスベになって疲労回復と美肌効果の両得。やっぱり赤城温泉最高!

 

《成分表・久保田の湯》

 

ということで再び部屋へ。結局赤城山はガスに飲まれて猛烈な湿度だった。

 

 

=夕 食=

 

 

こんな感じ。食堂も大展示会場。フランク・シナトラの懐かしいメドレーが流れている。和でも洋でも中華でもアフリカでもない不思議な空間。

 

 

コロナ禍を考慮してメニューは一斉配膳。

 

小鉢×二つ

きゅうり醪漬け

枝豆

モズク酢

夏野菜の煮しめ

刺身蒟蒻とサーモン刺

車エビ塩焼き

 

 

豚ロースの白麹焼き

 

群馬は畜産が盛ん。だから肉が美味い!

 

「ヒツヒツ、なんか忘れてね?」サル

 

 

お酒は御宿限定酒。といいつつ中身は渋川の聖酒造《関東の華》。美味いよ!

 

 

鮎塩焼き

 

 

アボカドのグラタン風

 

 

ご飯にはクスクスが塗してある。

 

ということで、かなりお腹いっぱい。お昼は蕎麦で我慢したんだけど。

 

 

おとなしく寝ることにした。

 

=翌 朝=

 

早起きして朝風呂を浴びた。ずっと家族風呂っていうのはありがたい。

 

 

朝食も同じ場所で。

 

 

オムレツに塩鮭。

 

 

そして、当館名物、温泉湯豆腐。炭酸水素が多いので柔らかくなるんだね。ご馳走さまでした。

 

 

どんなにおどろおどろしかろうと、泉質が良ければまた愉しからずや、である。

 

「入ってしまえばこっちのものだし」サル

 

 

しかし。よくもまあ、これだけのコレクションを蒐めたものである。

 

そのとき、ふと、思った。

 

最初はご主人の自力蒐集だったが、後日利用客によって(行き場を失った)自宅の遺品が次々に寄贈されるようになっていったのではないだろうか。だとすれば女将さんの歯切れの悪さも理解できる。温泉そのものよりも、オブジェの素性が気になってしまう僕なのであった。

 

「次回はフツーの湯でお願いすゆ」サル

 

(おわり)

 

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