≪入手山から見返す岩岳山≫
こんばんは。ひつぞうです。今夜も「竜馬ヶ岳~岩岳山周回」の続きです。
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僅かに残った花を慈しみつつ山を下りることにした。
二度目の竜馬ヶ岳だったが、僕の人生において三度目はもうないだろう。
こんな地味な山であっても登ってくるハイカーは七人ほどいた。樹林越しに岩岳山が見えてきた。
終日晴れの登山日和と報じられていたが、全般的に高層の雲の多い、そんな春らしいと云えば春らしい天気だった。
岩嶽神社まで戻ると、途中で追い抜いた老夫婦が食事をしていた。どうやら落石ポイントに車を停めた御仁らしい。推察するに、檀那さんは神社の宮司ではないだろうか。旧暦四月は岩嶽神社の春の例祭に当たる。確かに祠の扉が開かれ、鹽と米が捧げてあった。とするならば、眼の前にいるお二人は藤原一統の末裔ということになる。
確認したかったが、今はコロナ禍の時代、軽率な会話は慎まなければならない。そんな京丸伝説について言葉を交わしながら、二人して神社を後にした瞬間、背後から竜笛の軽やかな音色が山中を谺し始めた。やはり男性は宮司だったのだ。
来た道を戻り、分岐を越えた途端、山道は痩せ尾根に変化した。
尾根の両端はロープで介助されているが、離合者が現れると狭いだけに少し面倒。
そこそこの登り返し。それに耐えれば眺望の良いポイントが現れる。
京丸山。いつ見ても凛々しい。
そして(先程までいた)岩嶽神社が鎮座する1361峰。
岩岳(岩嶽)の由来が判るような屈曲した痩せ尾根が連続する。このあたりの斜面にアカヤシオがたくさん咲いていた(危険なので写真は撮れなかった)。
五月に入ると同時に荒れ模様の天気が続いた。その風に煽られてアカヤシオのか弱い花は無残にも散り果てたらしい。ここ気田川流域の花の命脈は僅か五日ほどで尽きてしまったのだ。
岩岳山山頂に着いた。ベンチがたくさんあって休憩にはちょうどいい。ただし、眺望は殆どなかった。例年であればお弁当を広げるハイカーで処狭しになるのだが、時節柄長く立ち止まる人も稀だった。
山頂を通り過ぎてしばらくゆくと、斜面の遥か下方にピンクの靄のようなものが見えた。脇に逸れて獣道をたよりに下降した。すると…
やや草臥れかけてはいるものの、色鮮やかな京丸のアカヤシオが繭玉のように枝先で揺れていた。
アカヤシオ鑑賞そのものが、既に六年ぶりくらいだった。やはり山の花はいい。人工的ではない、生命の豊かさ、儚さを感じることができる。
景色の先には京丸の女性的な姿が常にあった。
岩岳山からの下降は一部の崩落地を除けば…
人工林と原生林が交雑する尾根の短調な一本道。
それでも小俣川に面した斜面では、シロヤシオが百花繚乱の季節を今まさに迎えようとしていた。
入手山かな。
最後の斜面はヒメイワカガミの群落になっていた。
やや終わりかけの個体が大半で、日蔭に咲いていた数株が、いまだその純白を愉しませてくれていた。
日本庭園のような空間を過ぎれば山頂は近い。
入手山山頂についた。
西の眺望が開けていて、品よく佇む京丸山が見えていた。というより京丸山以外は何も見えない。
シロヤシオだけでも堪能できたのだから充分満足。
「シロは写真で切り取るのが難しいにゃ」
そうだね。引きすぎると周囲の色に呑まれちゃうしね。
岩岳山に最後の一瞥をくれてキマタ山を目指して進む。
このあたりはミツバツツジが最高だった。
キマタ山に到着。やや東の外れに三角点があるらしい。とりわけ眺望もなく杉の植林に覆われた淋しいピークだった。
キマタ山から先は尾根が明瞭に痩せていく。ヤシオの里からのルートとは異なり、確かに標識の類は一切ない。その代わり、ザレた斜面にはロープが確実に設置され、古くから登山道として利用されていることがよく判る。なぜノーマルルートに“格上げ”されないのだろうか。
こうしたダイナミックな岩の稜線もあった。
一歩間違えれば奈落の底。確実に歩みを進めていく。
離合が多いと面倒な場所だ。
一度傾斜が緩んで、暫く歩きやすい尾根道が続く。そして最後に南東に進路を変えて林道にタッチ。
ここで逆サイドに戻っていく人もいるが、20メートルほど進むと正しいコースの説明書が杉の幹に貼ってある。
この高圧鉄塔の下をパスしして15分ほど直進すれば水道施設があるそうな。
確かに往路の林道にタッチした。御覧のとおり尾根コースの看板は皆無。赤いテープだけが目印になっている。いいコースなのにどうして?ひょっとしたら私有地の問題でも絡んでいるのだろうか。
ここから駐車場までは五分とかからない距離だった。
「結構クルマ増えてる」
長閑な茶摘みの風景を眺めながら、春野の丘陵地帯を下りていった。国道に出てからは、往路で懲りたので浜松回りで帰った。素晴らしく走りやすい道だった。しかし、東名の事故渋滞で4時間余計にかかったのは計算外だった。もうぐったり。青森までいくのと変わらないじゃん。
=登ってみての感想=
尾根コースは指導標識がないため、往路で利用する際は水道施設の脇から入り、常に稜線通しで進むこと。変化のあるトレイルを愉しむことができる。特に入手山を囲むシロヤシオ、岩岳山から岩嶽神社までの瘦せ尾根を、アーチ状に覆うアカヤシオの眺望は絶品。今回はゆっくりめの登山だったので合計8時間となっているが、普通の脚力があれば7時間半で十分。なお「尾根→林道」の反時計回りだと余計に時間がかかる。全般的に危険個所もない。ヒルもまだ大丈夫だった。
(おわり)
【今回の行動時間】…4時間+4時間
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