≪鬼ヶ岳から見た王岳≫
こんばんは。ひつぞうです。今夜も「鬼ヶ岳~王岳縦走」の続きです。
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かつて積雪期に山中湖から御正体山を経て都留市内へと縦走した。その時、出逢った若いハイカーから、富士五湖周辺の山が好きでよく通っていると聞かされた。彼は浜松在住だった。そして細身の体型から想像できない脚力があった。どこを切っても金太郎飴的な山など放っておくべきで、君には深南部があるだろう。正直そう思った。
今ならば判る。御坂と深南部の魅力はまったく違う。ここの魅力は富士山麓の秀景と変化豊かな縦走路にあった。
十人程度でいっぱいになる山頂を後にした。まずは次なるピーク鍵掛(1589m)を目指そう。
「あれかにゃ?」
無名峰だね。地形図では短調な縦走路だけど、小さなアップダウンが連続するみたいだよ。
「またでっかい岩があるにゃ」
そっちは行き止まりだよ。
「ほんとだ」
でも眺望は最高だったね。
この大岩の基部から一度くだって巻いていく。
「あれが鍵掛?」
いやいや。1594m峰でしょ。
「なかなか峠に着かないにゃ」
ピークから鬼ヶ岳を振り返る。手前の無名峰に殆ど隠れてしまった。
縦走路は籔に覆われた箇所も多くて少し歩きにくい。
「でも好きじゃん。ヤブヤブ」
この痩せ尾根を降ると…
今回の縦走路の核心部。
なかなかアクロバティックで愉しかった。
降りきったところが鍵掛峠だった。そして眼の前に立ち塞がるのが鍵掛。
地味につらい登り返し。
富士五湖側は蒸し暑く、甲府側は涼しい風が吹いている。時折、叢雲が太陽を隠すと景色は冬に逆戻り。
と思ったらまた晴れる。この繰り返し。
鍵掛に到着。小さな標識があった。
通れそうで通れない。
巻けばいいのだ。
「痩せればいいのだ」
いいんだよ。もうね。五十も半ば近くなると性格も体型も変わらないのよ。
地味ながら絵になる展開。
あれが王岳かも。
王岳の山頂でランチにしよう。
「そうすゆ」
二人の足取りも心持ち軽くなった。この日は朝食抜きで登山を開始したので腹が減って仕方ない。
鬼ヶ岳をみたび見返す。
しかし違った。その先にもう一つピークがあった…。
ニセピークから降って岩場を巻いて…
最後の登りをこなせば…
今度こそ山頂のはず。
前日の大荒れの天気のおかげで富士の白根も薄化粧。
紅葉の季節もいいけれど、新緑間近なこの季節もいい。
笹薮を越えて最後のピークに到達。
山頂でラーメンを作って小休止。藪が邪魔する生憎の眺望だが、天気はもってくれたようだ。30分ほど山の景色を愉しんだ。暫くして二頭の犬を連れた若者三人組が現れた。黒い牝犬はまだ仔犬なのだろう。少し遠慮がちに僕らを窺っては、緊張に耐えられないのだろうか、足許の草木を貪っている。優しい垂れ目がその性格を表していた。
写真を頼まれたあと、彼らと別れて下山の途についた。好いなあワンコ。早く飼いたいね。でも、ワンコがいると山にも温泉にも行けなくなる。悩ましいけれど、まだ先の話かもしれないね。
「ワンとニャンとピーを飼う」
なによ。ピーって。
「トリ」
すぐに分岐が現れる。僕らは根場へと降っていった。
あたりには笹原が広がっていた。降雨のあとはスリップに注意しよう。
尾根を逸れてカラマツ林の九十九折になれば登山道も明瞭。
麓の方からは樹海を走り抜けるバイクの排気音が遠く響いていた。
林道にタッチ。迷いそうなポイントは皆無。よく整備されたコースだった。
幾重にも並ぶ堰堤を越えていく。
山麓周辺にはヤマザクラの薄桃色が一面に。
やや終盤にあったが、やはり野の花は美しい。そして、どことなく儚げで。
桜の饗宴を堪能して、廃村の石垣道を進むと、そこがゴールの駐車場だった。
根場の里を見守るように雪頭ヶ岳が静かに立ちはだかっていた。春を通り越した、夏の一歩手前のような、そんな安息の一日だった。
=登ってみての感想=
標識、登山道ともに全般的に整備されている。雪頭ヶ岳~鬼ヶ岳、鬼ヶ岳~鍵峠の区間は、虎ロープ設置個所があり、取り立てて危険というほどでもないが、人為落石、スリップによる転倒には注意したい。雪頭ヶ岳、鬼ヶ岳、縦走区間の幾つかのポイントがビュースポット。この山歩きの愉しさは二座を結ぶ稜線にある。山頂往復では勿体ない。周回縦走をお薦めする。
(おわり)
【行動時間】…5時間20分
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