ぐるめ探訪「竹染」でジビエの神髄にふれる(静岡県・浜松市) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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ひつぞうです。
おサル妻との山旅を中心に日々の出来事を綴ってみます。

サルヒツのぐるめ探訪♪【第121回】

寿司割烹 竹染(ちくせん)

 

℡)053-926-2572

カテゴリ:ジビエ料理(猪・鹿・鴨・鼈)

往訪日:2021年1月16日

所在地:静岡県浜松市天竜区二俣町二俣2177

営業時間:(昼)11時~13時、(夜)17時~21時【予約制】(月曜定休)

■アクセス:新東名「浜松浜北IC」より10分、遠州鉄道「天竜二俣駅」より徒歩12分

■駐車場:三台ほど

■予算:5,000円~10,000円

 

≪果たして猟師なのか料理人なのか≫

 

こんばんは。ひつぞうです。先週末は少し足を伸ばしました。お目当てはジビエ料理の達人のお店。ランチの予約ができるということで(コロナ禍に配慮してお客を減らしての営業です)。

 

★ ★ ★

 

登山にのめり込むようになって、野生動物の獣害を広く知るようになった。そして、駆除された生き物の処分をめぐり、自治体や関係者が苦慮していることも。最良の方法は食材としての利用。だが、これが存外難しい。一般に、獣はバイタルエリアと呼ばれる心臓周辺に致命傷を与えない限り死に至らず、手負いの時間が長ければ長いほど、ストレス物質が血液をめぐり、食肉としての価値は減じてしまう。内臓に当たろうものなら…結果は語るまでもない。

 

他方「ジビエは臭いがあるので苦手」と口にする人も多い。先入観によるものが殆どだが、不幸にしてそういう肉に当たってしまうこともある。どうしたら旨い肉にありつけるのだろう。

 

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やや霞んでいたが、その日の遠州は冬型の気圧配置の影響も少なく、日差しのある穏やかな天候だった。寄り道せずに新東名・浜松浜北ICで降りた僕らは、深南部登山で通い慣れた道を北上し、天竜川に架かる風格に満ちたゲルバートラスの天竜橋を渡った。対岸には戦国時代の要害・鳥羽山城が見える。その山城を貫通するトンネルを通過した所で案内に従って左折した。

 

ごく普通の戸建ての住宅地にその店はあった。割烹料理の暖簾を掲げているなど、云われなければ判らないようなそんななりだった。

 

 

ただ、この一点を除いて。

 

 

店主の片桐邦雄さんは静岡県最後の村としても知られた旧・龍山(たつやま)村の出身。幼少の頃から山野を駆け回って暮らした。長じて割烹料理の職人として富士宮市で修業。二十代にして、この地に念願の店を開いたという。

 

 

看板に寿司割烹とあるように店の構えは寿司屋のそれ(今はカウンターでの営業はしていないのかもしれない)。しかし、来店する客の多くが求めるものはそれではない。

 

竹染の名前を知ったのは、やはり、登山遠征からの帰途だった。休日の夕方は旅やグルメ関連のバラエティ番組が多い。その日は最高の食材を求めて自ら罠猟に従事する料理人が紹介されていた。場所は浜松。浜松といえばウナギ。せいぜい川魚か。しかし違った。男性は罠猟でイノシシやシカを獲っていた。

 

近頃、にわかハンターの手記や、その延長上に降ってわいた獣肉産品を見かける。害獣駆除は喫緊の課題。悪いことではない。だが、ジビエとあらば必ず手を出して(痛い目にもあって)きた僕は心底満足できる料理に出逢っていなかった。だからこそ店主自慢の肉を喰ってみたい。そう思った。

 

★ ★ ★

 

予約の時間に暖簾を潜って案内を乞う。愛想のいい若い男性従業員が出てきて、小あがりの半個室に案内してくれた。予約したのは天然物おまかせコース。既に猟期に入っている。旨いイノシシとシカ肉が喰えるだろうか。

 

「たのすぃみ~♪」サル

 

 

まずは突き出しの三種。左からコーチンの玉子焼き鮟肝ナバナのおひたし

 

「全部好物!」サル

 

これは酒がないと駄目だね。

 

 

メニュー表の中から一番好みに近い吟醸「誠鏡」を一合冷やで頼んだ。キリリとして力強い酒だ。

 

 

チビチビやっていると、既に下処理のすんだ猪鍋が出てくる。猪のモモ肉は既に十分柔らかく、味も沁みているそうだ。

 

 

火加減を見ながら、アツアツになったところを杓子ですくう。

 

 

これが珠玉の猪肉。噛んでみる。程よい弾力。噛むほどに獣肉の脂と肉のうま味が舌に伝わる。これは本当に旨い。今まで食ったぶつ切り肉は、概して硬くてゴムのような食感だった。それとは雲泥の差。

 

間髪入れずにしゃぶしゃぶ用の肩ロース肉が。

 

 

血はおろかドリップすらにじむことはない。

その最高の鮮度と上質の肉は、片桐さんの罠猟の在り方が齎したものだ。

 

★ ★ ★

 

片桐さんの猟場は天竜区と北区の区境、ちょうど観音山山麓と思えばいい。深山の領域まで行かずしても野生動物は闊歩している。そこに手製の罠を仕掛ける。日々改良された自慢の罠だが、絶対ということはこの世にない。片足の自由を奪われた猪は、背中を総毛立させて片桐さんに突進を繰り返す。もし外れたら…唯の怪我では済まない。猪に突き飛ばされたことのある僕には判るが、あの牙がまともに太腿の大動脈に刺さったら…。そんな恐怖を抑えて、片桐さんは猪の鼻先にロープを括り、徐々に自由を奪って、最後に両目をガムテープでグルグル巻きにしていく。

 

視野を奪われた動物は間もなく嘘のように大人しくなる。生きたまま軽トラで運ばれた獣は、竹染の店の前の“作業場”で解体される。ホースの放水で清められた彼らの眼は、既に観念したかのように澄んでいる。神前で蝋燭を灯し、命を頂戴する儀式ののち、心臓の動脈に一寸の狂いもなく槍を入れる。暴れることもなく、命運尽きたかの如く、それは静かに動きを失っていく。

 

これを残酷というならば偽善でしかない。僕らは様々な形で命を頂戴している。その過程を見ていないだけで。片桐さんは礼節を尽くし、最高の食材に高めていく。もし贅があるとすれば、肉そのものというより、片桐さんの伎と姿勢にあるのだろう。

 

★ ★ ★

 

ということを感じながら味わって頂いた。(というのは、一連の作業を取材したドキュメント番組の録画が僕の背後で流れ続けていたから)

 

御託はここまで。

 

さて、しゃぶしゃぶとは云いつつ猪は豚の仲間。寄生虫は怖い。よく火を通そう。

 

 

この桃色こそ獣臭さの正体である血液が綺麗に抜かれた証拠。失血後、即座に解体されるため、残った血液が肉のなかで凝結することはない。

 

 

色が変わるまでよく熱を加える。タレは要らない。スープの味つけも塩のみ。それが竹染の哲学。事実、好みでどうぞと云われた辛みそを足すと別物になってしまう。

 

絶品だった。当たり前だが柔らかくて豚肉よりも癖がない。

 

 

次に鹿モツの煮込み

 

胃袋を甘辛く煮たもの。これは好き嫌いが分かれるかも知れない。殆どレバー。

 

 

更に、鹿の刺身

 

軽くしゃぶしゃぶして、おろしニンニクを添えて食うらしい。

 

「めっちゃうまい!これ。馬刺しみたい!」サル

 

ほんと?馬刺しと鹿肉は全然味が違うはずだけど。

半信半疑で口にした。

 

 

なにこれ?ほんとに鹿肉?

って驚くほどに旨い。上質の桜肉そのものだった。ということは今まで食ってきた鹿肉はいったい…。

 

「酒ない!」サル

 

若い店員さんが曰く

「日本酒がお好きなようでしたらメニュー以外にもありますよ」

 

早く言ってよ。

早速好みを伝える。

 

 

出てきたのは駿河の銘酒・磯自慢

 

懐かしい。静岡時代に親しんだ酒。鍋用の野菜はもうひと皿分ある。

 

 

キノコはヒラタケ、シイタケ、と(恐らく)クリタケ。どれも菌床栽培とは思えない良いダシが出る。

 

 

極めつけがこの猪のハツ(左)とレバー(右)のソテー。臭みはなく、絶品の歯応えと旨味。

 

 

最後の揚げ物は猪肉のヒレカツ。濃縮された肉の旨味と柔らかさ。やはり肉はヒレかも。

 

 

そして、つまみがなくなったのに、まだ酒を飲むとサルはいう。

 

「酒!酒!」サル

 

最後にとっておきの会津・榮川酒造の「竜ヶ沢」無濾過生酒。米の甘味が豊かな、キレのある微発泡酒。結局しこたま飲んでしまった。それでも足りないというので最後はレモンサワーで我慢してもらった。好いお客だよ。

 

 

〆は雑炊で。最後のデザートも目が離せない。

 

 

バニラアイスに自家製蜂蜜をかけて。稀少な二ホンミツバチの養蜂もされている。

 

 

長々と綴ってきたが、料理の世界の神髄を見た僕は、その味にも片桐さんの狩猟哲学にも魅了された。美味しいものに眼がない人に是非とも薦めたい名店だった。

 

くだんのドキュメント番組でディレクターが最後にこう質問する。

 

片桐さんは料理人ですか、猟師ですか。

 

片桐さんは照れ臭そうに、そして、答えづらそうにして笑った。

 

僕らは思う。片桐さんは料理人だと。その料理人が究極の食材を求めた結果が自ら猟に出るということだったと。

 

(おわり)

 

駄弁、愚考におつきあい頂き、ありがとうございます。