天守山地/五老峰~毛無山周回① | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

ひつぞうとおサル妻の山旅日記

ひつぞうです。
おサル妻との山旅を中心に日々の出来事を綴ってみます。

五老峰(1619m)/大ガレの頭(1904m)/毛無山(1945m) 山梨県・静岡県

 

日程:2019年1月13日

天気:晴れ

行程:リバーサイドパーク3:43→8:45(1116m峰)8:52→9:40五老峰9:57→11:52大ガレの頭→12:40毛無山13:16→14:12地蔵峠14:20→15:16

登山口15:20→17:05リバーサイドパーク

■駐車場:(リバーサイドパーク)30台程度/(下部登山口)4台程度

■トイレ:あり

■登山届:なし(下部登山口にはある)

 

≪五老峰山頂近傍の露岩≫

 

こんばんは。ひつぞうです。三連休最終日。目指したのは天守山塊の毛無山でした。富士見の山として知られていますね。残雪期に朝霧高原から登っていますが、終始ガスで視界は効かず。いつかもう一度登ろう。そのいつかが六年目にして実現しました。詳しくはいつもの山行記録で!

 

【五老峰~毛無山周回】

 L=19km 累積標高1860m

 

それもまた登山からの帰りだったと思う。ちょうど富士川沿いの下部温泉への別れ道だったのだろう。西陽に照られた圧倒的な存在感の山塊が迫ってきた。地勢的に考えて毛無山の裏側だろうと当たりをつけた。

 

~五老峰との出逢い~

 

富士山を筆頭に、静岡側から地理を語るのは、江戸の頃からの悪しき習慣かもしれない。天守(天子)山塊の盟主として知られる毛無山は、その凡庸な山名とは裏腹に急登の山として世に聞こえる。だが(数年前の初登時の)率直な感想を述べれば、手応えらしい手応えはなかった。

 

「帰りにおサルが見つけた黄銅鉱返してちょ!」サル

 

大丈夫。僕が大事に管理してるから。

 

だが、山梨側の下部(しもべ)の里から見上げるそれは別格だった。敢えて例えるなら、北アルプスのブナ立尾根から見上げる烏帽子岳よりも更に高く際立っていた。ここからならば毛無山も相当タフな登山になるに違いない。

 

この見立てが的はずれではないことが、調べるうちにはっきりしてきた。まず判ったのは、僕が見惚れた峰は毛無山ではなく、前衛の五老峰(1619m)だった。

 

中国江西省の景勝地・廬山の五老峰とは関係はなさそうで、山頂に穿たれた三等三角点の点名は「五郎坊」。推察するに黒部五郎と同じく「五郎=ゴーロ」、つまり岩塊の山としての呼び名が由来なのだろう。

 

毛無山一帯はひとつの山塊のように見えるが、その実、富士山より比較的新しい火山の形成をみた毛無山と、その後に噴火した五老峰が、プレート圧縮がもたらした堆積岩の付加体に突き出した格好になる。

 

~バリエーションルートを目指して~

 

面白くなってきた。この五老峰ともども登ろうじゃないか。地理院地図を捲る。下部温泉から雨河内川沿いに登山道がついているが、(廃道になっているのか)詳しい記録に辿りつかない。むしろ直接尾根に取りつくか、湯ノ奥集落の南西尾根から取りつくか、そのいずれかのようだ。

 

単純標高差で約1700m。累積標高1860m。南アルプスの笊ヶ岳のレベル。下山は地蔵峠経由で登山口まで2時間。そこから林道歩き約8kmが待っている。水平距離19km。日照時間の短い今、僕らのレベルでは日帰りギリギリだった。

 

★ ★ ★

 

長い前置きは以上。前日、起点の下部リバーサイドパークで車中泊した。寂れているがトイレは水洗で冬場でも水は使えた。車泊組は僕らのみ。登り6時間、下山2時間+林道歩き2時間を想定。長丁場になるので午前4時前に出発した。おサルがへばっても、日没の17時まで3時間余裕がある。ザッとこんな感じ。

 

「ザッと過ぎる。登り6時間ってなんにゃ!」サル

 

 

低い叢雲が闇夜に棚引いていたが、月明りはあった。自分の影を追っていく。森林浴の森からすぐに荒れた尾根の直登。檜の幹に「赤道」とペンキで記されている。

 

まもなく林道と交差するが、そのまま直登。闇に呑まれて全然先が見えないが尾根の肩に乗ったようだ。標石があった。再び斜度が増して下枝処理されていない檜林と野茨のうるさい藪になる。ちびっこいおサルは何ともないが、頭を叩かれ、指を刺され、実に滅入る山だ。

 

鹿の防護ネットが現れる。沿って進むと等高線なりに巻いてしまうので、網の右側に乗り変える。(所々で倒木が網を倒している)

 

ようやく歩きやすい原生林の疎林になった。身延線の一番列車の汽笛が響く。安心したのも束の間。次第に朽葉の堆積した歩きにくい急登に。踏まれていないので踏み込むたびにずり落ちてしまう。枝を掴んで登る。普段使わない内腿の筋肉と股関節が悲鳴をあげる。翌日の筋肉痛は確定だ。

 

ようやく白々と夜が明けた。ここまで実に三時間近くが経過している。

 

 

次にゴーロ帯出現。写真では表せないが巨岩と巨木からなる面倒な尾根だ。中央から突破した。ずっと古いビニル製の目印が付いている。いったいいつの時代のものだろう。

 

 

急登が一段落した1116m地点で小休止。風の冷たい日でドリンクが既に凍り始めていた。再び急登。迂闊に踏み込むと落石してしまうので要注意だ。

 

 

麓から霧が上昇してきた。が、僕らの足許まで及ぼうかという所までで収まった。天気はいい。雪を戴いた白峰南嶺の山々が真っ赤に燃えている。それに較べて天守山塊の尾根は西側斜面なのでいつまでも淋しい冬の日蔭ばかりが続いた。

 

 

四時間半が経過して、人工的な石垣のように節理した火山岩の尾根が現れる。

 

 

右側から取りつき、すぐに中央からジグザクに岩間を縫う。

 

 

当該ルートで唯一に近い人工物出現。ルートがあっていることが判り、ほっと胸を撫で下ろす。ただ結節された根は枯死しているので体重は預けられない。

 

 

手掛かりが乏しいポイントもあるので無理せずに確実なラインをとろう。

 

 

尾根の鼻に飛び出した。これでひとまず安心。この先痩せ尾根が続く。滑落防止の虎ロープがあったがやっぱり古い。この後も針葉樹の激登りが続く。

 

「…」サル

 

そろそろおサルの集中力も切れそう。時刻は午前9時を回ったところ。登山開始後5時間以上が経過。普通の山であれば登頂している時間だ。

 

 

ようやく太陽の光が差し込む。

 

 

最後の登りで主稜線に飛び出した。もう気持ちよく歩ける縦走路だよ。

 

 

火山岩の露岩を攀じ登る。

 

 

眺望がよかった。地味ながら天守山塊を繋ぐ寂峰が並んでいた。

 

 

五老峰の山頂は近いはずだ。ただ撓りのある灌木が密で、ザックに引っ掛かって歩きにくいのよね。

 

「…」サル

 

たぶん怒っている。

 

 

うるさい枝をかき分け続けていると、ひょこっと三角点と「五老峰」と記された淋しい杭が足許に現れた。憧れ続けた五老峰との邂逅はかくもあっけなく果たされてしまったのである。

 

「籔籔でなんにも見えないにゃ」サル

 

寂峰とはそういうものだよ。サルサルよ。

 

 

疎林の先に、次なる大ガレの頭と(わずかに霧氷で白くなっている)毛無山が見えている。

 

 

本当の最高点は少し先になるはずだが、特になにもなかった。そりゃそうだ。三角点ポイントですら、あの扱いだったのだから。でもいいのだそれで。仰々しくされてはつまらない。

 

 

コル目指してくだりに入る。船窪地形の尾根に変化して、次第に瘠せ尾根に。五老峰から先、嘘のように赤テープなどの目印はなくなった。それは大ガレの頭まで続いた。思うに、五老峰を目指す人の大半はピストンなのだろう。

 

 

番線の設置されたスラブ。これが意外に足場がなくて登りづらい。

 

 

こうした痩せ尾根のアップダウンが連続する。基本的に人の手が入っていないので、歩けて当然といった油断は禁物だ。

 

★ ★ ★

 

余談になるが、僕は多少でも難しいコースに関しては、正直ありのままに記すように心がけている。ともすれば、ハラハラドキドキな描写で読み物的な面白さを演出しているように捉えられないとも限らない。山行記には特有な文体があって、例えばヤマレコになると、かなり際どいルートや山域でも、淡々とロードレースでもしているような、乾いた軽い筆致で記す人が多い。かく云う僕も、ヤマレコになるとどういう訳かそうなる。敢えて「楽勝感」をひけらかす訳ではないのにそうなる。コース展開の情報共有という属性が、そういう文体を呼ぶのだろうと勝手に解釈しているが。

 

だからこそブログ山行記は、日記であり、記録である以上、自分の得た感覚に従い、少しでも危険を感じれば、そこをフォーカスしたいと考える。

 

★ ★ ★

 

 

その核心部にでたようだ。大ガレとはよく言ったもので、本当にその周辺は見事に崩壊していた。ここで行動食と水分補給。陽射しがあると無性に暑かった。

 

 

大ガレからは安倍奥から繋がる稜線が遠く見えていた。あの先は静岡市だ。

 

 

崩壊地から残雪が現れ、また倒木やゴーロが顕著になっていく。

 

 

足場不安定なので岩の隙間に足を取られて捻挫骨折なんてことはないように。

 

 

つらかった登りも平坦になり、大ガレの頭に着いたことをうかがわせた。だがなかなか見つからない。尾根をあっちこっち歩いて探していると、後続のおサルが追いついてこう云った。

 

「もういったい何時間歩くのちにゃ!山頂に着いたのちにゃ!」サル

 

いや、ちょっと見つからないんだよね。

 

「どこがゴールなのちよ?」サル

 

あれだけど。と、籔越しに見える毛無山を指さす。

 

 

「え~~っ!まだまだ先じゃん!」サル

 

怒るのも無理ない。個人的には全然余裕なのだが、おサルのモチベーションは既になくなっていた。確かに眺望もなく、歩きづらく、無暗に長い。酒も飲めず、ラーメンも喰えない。こんな山旅はおサルの性分に合わないのかも知れない。

 

仕方ない。大ガレの頭の標柱探しは諦めて、毛無山を目指して下降すべき尾根を探した。

 

 

尾根の裏側にそれはあった。諦めると見つかる。探し物にはよくあることだ。しかし、おサルの機嫌を取り戻す妙案は、その時の僕にはまだなかった。

 

このところ、山での諍いが絶えないのは、僕の欲張りのせいだろう。だがそれにはそれなりの理由があるのだが今は触れる時期じゃなかった。

 

(つづく)

 

いつもご訪問ありがとうございます。