サルヒツのぐるめ探訪♪【第71回】
天ぷら 銀座おのでら(並木通り店)
カテゴリ:天ぷら
往訪日:2019年6月16日
所在地:東京都中央区銀座8-5-10 金成ビル6F
営業時間:(昼)11時30分~15時/(夜)18時~23時/定休日要確認
予算:(昼)5000円~10,000円
■最寄り駅:JR新橋駅
■席数:10席(要予約)
≪かき揚げほど難しい揚げものはない≫
こんばんは。ひつぞうです。なかなかお山にいけませんな。夏の訪れを首を長くして待っているのだけど。さて不完全燃焼な「クリムト展」を後にした僕らは、銀座の並木通りに向かった。以前往訪した俺のグリルの、通りを挟んだ真向かいのビルだった。ひさしぶりの銀座逍遥である。
「だってさ。ぐるめ探訪なんかいってさ。麺類ばっかじゃん!さいきん」
痛いところ突いてくるね(笑)。
本店は銀座五丁目のサンリット銀座ビルにある。今回予約したのは姉妹店。カウンター10席のみの割と小体な造りだが、味ともてなしは本店となんら変わらない。場所柄同伴客を意識しているのだろう。
「ヒツもドーハンするのち?」
おサルとね。
ちなみに「おのでら」は寿司や懐石料理でミシュランにも評価された懐石料理店グループ。
到着は13時。先客は地方から訪ねてきたと見える妙齢の(お金持ち風の)女性二人組だけ。二回転目なのかな。恭しく和服姿の美人女将が現れて、食事の作法を教えてくれる。おろし大根にポン酢を足して食べるか、小皿に盛った塩で食べるかそれは客の好み次第。
塩は椎茸の戻し汁を加えて再度乾燥させたもの。並木通り店のオリジナル。挨拶を交わしたのち、さっそく職人さんが腕を振い始めた。
まずはクルマエビのおかしら。言わずと知れた高級えびせん。
おのでらでは天婦羅とシャンパンのマリアージュを薦められる。ワインメニューも見せてもらったが、グランヴァンがズラリと並び、コスパ云々を語る余地はない(笑)。さすがは銀座。だからと言ってグラスワインでは逆に不経済。うちには底なしのザルが、いやサルがいるからだ。
ということで、ピノとシャルドネのアサンブラージュ、アンリオ・ブリュ・スーヴェランを頼んだ。ま、エノテカでも普通に買えるワインだけど。一番安かったのだ。
「侘しいにゃ~。ひつぞうの小遣いは」
いいのよ。こういう店では上を見ればキリがないの。男(というかオヤジ)の愚かな見栄を擽るようにできてるんだから。
「言い訳してるよ~」
★ ★ ★
それでは実食に移ろう。
まずは車エビ。
最高級太白ゴマ油で揚げられる海老は尻尾の先まで綺麗に食すことができる。できるからと言って本当食べてしまうのは僕くらいだろう。
次に玉蜀黍。
食材は全て吟味された産地のもの。僕ら担当の職人さんはテキトーなのか、そういう性格なのか、単に「クルマエビです」「トウモロコシです」と言って、お薦めの食べ方までしか教えてくれなかった。だから産地不明。困ったもんだ。
「ひつぞうが写真ばっか撮って、うわの空だからなんじゃね?」
うーむ。そうかも。
コースは5000円、8000円とお任せの三コース。初見の店はリーズナブル価格で。
「ホントはお小遣いがないんじゃね?」
しつこいね。
お次はズッキーニ。
これはおろしポン酢で頂戴した。とてもやさしい味。関西風?
そろそろ動物性蛋白質を口にしたいのだけど。と思ったところで第二のクルマエビ。同じ写真で面白くないのでカット。
だから動物性蛋白質だと(頭の中で)言ってるのに!
菜食主義者の殿堂なのか?山に行けずに肥満傾向にあるから良いと言えば良いのだけど。美味しいのは美味しい。ズッキーニは素材の味が凝縮され、蓮根もアスパラも素晴らしい食感である。シイタケは当然だが塩に合う。しかし。
穴子とか、キスとか、貝柱とか。そういうものは出てこないのだろうか。
(※ちなみに8000円コースだと、ヒメタケ、貝柱が追加になっていた。)
やはり天婦羅は(池波正太郎が愛したような)昼酒で一杯できるような、下町界隈の店が僕にはちょうど良いのかもしれない。と、負け惜しみのようなことを思っていると、金時芋が出てきた。
女将が訊く。「入店直後からずっと揚げ続けていたのにお気づきでした?」
いやぜんぜん。(と心的独白)
「はい。なんだろうなぁって思ってたの、これだったのですきゃ」
おサルと女将の調理談義をほっといて食べてみる。
なるほど。周囲はカリカリで中は芋の甘さと瑞瑞しさが濃縮されている。『焼き芋の天婦羅』という表現がむしろ相応しい。いやいや。薄皮を剥したきんつばと云った方が適切か。それくらい旨かった。
〆は掻き揚げをどんぶりで食すか、別々に食べるかを選べる。「普通でいいですか、しっかり食べますか」と訊かれたので「しっかり食う」と即答した。問われるまでもない。
香華が鼻を擽るかき揚げを、女将が恭しく配膳してくれる。「なかなかこのサイズは出ませんね」と笑って過ぎる。しかし何処が「このサイズ」なのか判らない。三口で片づけてしまった。
だがしかし。
こうも思う。そもそも和食は鱈腹食べては芸がない。少しずつ、多くの皿を、その器も賞玩しつつ口に運び、盛りつけの妙まで愉しむ。それが食の道楽というものではなかったか。
最後を締めくくる冷菓はほうじ茶のジェラート。粗挽きされた氷菓子は舌に載せた瞬間に、爽やかな甘みとともに消えていった。このもてなしと味とオープンキッチンでの調理パフォーマンスは、確かに外国人好みかも知れない。そんな事より、キスと穴子を食べたかった。
「ひつぞうは永久にグルマンにはなれそうにないにゃ」
いやいやとても美味しい店でした。ただね。山に行けなくて心が荒んでいるの。
(おわり)
取材協力・執筆指導 ©オサルチ・オサルコ
いつもご訪問ありがとうございます。