黄金の湯ノ花の湯 西山温泉「元湯 蓬莱館」(山梨県) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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ひつぞうです。
おサル妻との山旅を中心に日々の出来事を綴ってみます。

さるひつの温泉めぐり♪【第47回】

西山温泉「元湯 蓬莱館」

 

往訪日:2018年8月18日~19日

所在地:山梨県南巨摩郡早川町湯島73

泉名:ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物泉

泉温:42度

色合:無色透明

味臭:微量の塩味/ほんのり硫黄の香り

pH:9.2

■自噴/無濾過/非加熱/かけ流し

■営業時間:(IN)14時~/(OUT)~11時

■宿泊料金:10,000円

■日帰り入浴:10時~15時/料金1,000円

■駐車場:道路を挟んで早川側の車庫に10台ほど(蓬莱館横は別の宿の駐車場)

 

≪飲んでよし浸かってよしのぬる湯≫

 

こんばんは。ひつぞうです。二泊三日の抜釘手術を終えて帰ってきました。

最近の手術は患者をリラックスさせるため、クラシックを流す医院もあるけど

僕の執刀医はヒップホップが好きなのか、リズミカルな音楽が流れていた。

ま、ノリノリで執刀されるのも悪くないけど…なんて考えていたら、患部がシ

クシク疼く。無意識の不安が痛みを呼び戻したのか。違った。手術を終えて

病室に戻っていたのだ。その間の記憶が飛んで繋がってしまったんだね。

 

でも、一晩たったら、あら不思議ってなもんでPCも打てそう。こんなに天気も

好いけど、外出できないので、先週末の温泉旅行をUPしよう。

 

「気持ちは判るけど長いよ。ひつぞうの恨み節は!」サル

 

★ ★ ★

 

山梨県の早川町にある西山温泉下部奈良田など天平の世から続く山梨の

古湯と並び、その歴史は古い。胃腸病や痔瘻の効能が評判を呼び、湯治宿と

して長らく栄えてきた。だが、娯楽多様化の波は何処も同じ。七軒ほど存在し

た宿も現在では僅か二軒。道を挟んで並ぶ慶雲館は大規模な保養地系宿泊

施設に衣替えし、かつての秘湯の風情を残すのは蓬莱館一軒のみとなった。

 

北海道登山旅行をキャンセルして途方に暮れた僕は一計を案じた。あの宿を

予約してみよう。それが蓬莱館だったんだ。

 

過去、登山や温泉で奈良田を目指した折、早川渓谷の川筋に小さな温泉街を

認めた。鄙びた湯治系の佇まい。ピンと温泉マニアの勘が働く。帰宅して調べ

たところ、僕のバイブルである石川理夫さんの『湯治で元気になる厳選50湯』

に名を連ねていた。

 

電話するがなかなか出ない。仕事の合間を縫ってかけること数回。ご主人の

柔らかい甲州訛りの声が聞こえてきた。さいわい部屋は取れるという。南アル

プスの黒河内岳(笹山)登山とセットのつもりだったけど、光岳から下山して全

てのギアが泥んこ、ずぶ濡れじゃやる気もでない。登山はヤメにして再度甲府

に向かった。

 

「酔狂だのう。交通費無駄だのう」サル

 

 

中部横断道路が六郷ICまで延伸して早川町まで随分近くなった。それでも

40kmの下道を走る必要がある。駐車場はこの看板が目印。カーブに面し

ているので山道が苦手な人は誰かに見てもらった方がいいかもね。

 

★ ★ ★

 

「蓬莱の湯」から「蓬莱湯」そして、明治に至り「蓬莱館」と名を変えた当

館は開湯以来千年の歴史を有するんだって。宿の御主人自ら説明し

てくれた。現在湯治棟として利用される木造の旧館は明治六年の建築。

 

 

西山温泉は、かつてはもっと山寄りにあったそうだ。「元湯」とあるけど古い

時代は慶雲館を「古湯」、蓬莱館を「新湯」と呼んでいたらしい。

 

 

案内を乞うとご主人が部屋まで案内してくれた。日帰り客一組と擦れ違った

けど、この日の宿泊客は僕らだけだったんじゃないかな。ロビーには登山関

係の写真や冊子が並んでいた。

 

 

部屋は二階の角部屋63号室。「落書き帳」が据えてあり、感慨深いメモが多

かった。アルプス縦走で悪天候に当たり、予定を狂わしての下山で宿泊予

約もなく途方に暮れていた時、工事作業員の紹介で泊めてもらった話や、

若い頃に訪れて40年ぶりの再訪のメモなど。他人様の思い出話ながらそこ

に登場するご主人夫婦の温かい人柄がにじみ出るような描写が、じんと胸

を打った。

 

女将さんは亡くなっていた。近年のことらしい。どのメモも、年齢の近しい人

たちなのだろう、お二人の健康を気遣い、いつまでも宿を続けて欲しいと願

う達筆な文章が目立った。

 

「語るね。よっぽど病室で退屈してたみたいだにゃ」 サル

 

そう言う訳で、宿泊施設として、従業員を雇わずに続けることの苦労は如何

ばかりかと、客の分際で余計な心配までしてしまう。多少は気が回らない部

分もでてくるだろう、細かいサービスも困難だろうってね。いいじゃん。少しく

らい施設が草臥れてしまっても。鄙びた感じで。

 

ご主人が自分の温泉宿を紹介する時の嬉しそうな微笑みは偽りのないもの

だったよ。

 

 

部屋は和洋折衷で昭和の匂いがしっかり(笑)。悪くない。いや偽りだらけの

豪華さは、この山裾の宿には似つかわしくないよ。むしろ僕らが求めている

のコレだし。

 

 

部屋からは西山温泉郷(と敢えて呼ぶ)の景色。ちょうど太陽が中天を過ぎ

深い渓に光が差し込む好い頃合いだったな。なお、右側の赤い屋根の風情

あるお宿も廃業しているようだ。

 

 

六畳間はこんな感じ。充分な広さ。

 

 

さてさて旧館の温泉へGO!

 

貴重品を容れる金庫の仕様がゴツ過ぎていじれなかった(笑)。どうせ混浴

だし、財布なんかはそのまま持って入ることに。

 

 

鉄筋コンクリート造りの新館の廊下を突っ切ると旧館の建物と繋がる。いや

厳密には繋がってない。外湯の客は外からここまで来る仕組み。

 

 

自炊棟として現役の木造三階建て。でも冬場の雪害で庇や欄干がかなり

傷んじゃったんだよねと、笑顔で語るご主人。もう物に対するこだわりはな

いようだ。好いことだよ。物より想い出。財よりサービスだ。

 

「でも本とか服とかさ、絶対棄てないよね。君は」サル

 

いいんだよ。まだ想い出詰っているんだからさ。

 

「お捨てよ。読まないし使わないなら。棺桶まで持ってけないよ」サル

 

判っているよ!60歳になったら考える。

 

 

味わい深いよ。渋温泉みたいにならないで欲しい。

 

「あれはあれで好きだにゃ」サル

 

僕も。

 

「どっちなんだ!」サル

 

 

なぜか本棚に法政治史や世界史全集の類が山のように。お客の無聊をか

こつためじゃないよね…あせ。逆にめっちゃ脳みそ疲れそうなんだけど。

 

「法学部の出身なんじゃね」サル

 

僕は…

 

「アホウ学部だにょ」サル

 

あせ。山梨とか信州の人、スズメバチの巣好きだよね…。

 

「好んで喰うしにゃ」サル

 

晩飯に出るんじゃない?

 

「…」サル

 

 

自炊室も一応チェック。大鍋用かな。

 

かつては展望台や卓球場なども利用できたけど、現在は使用不可になってる。

 

 

さていよいよ混浴の大浴場だよ。入り口は別々なんだよね。

 

 

脱衣場の上に黄金の湯の花が陳列してあった。過去の記録を読むと、三年

くらい前までは、クリオネみたいなプヨプヨの湯の花が普通に浮いていたよう

なんだけど。今はペラペラなものが多いんだとか。運が好ければドバドバの

日もあるみたいなんだけどね。当たらんかなあ。

 

 

ほうら!大浴場凄いでしょ?

ごく最近、浴槽の縁を新しくされたようだよ。前は黒光りした年代物だった

けど。飲泉もできる。なんたって胃腸病に効験あらたかだしね。

 

「どうよ」サル

 

うむ。淡い塩の味に加えて仄かな硫黄の臭いがするな。薄い番茶のようだ。

 

「ほんまかいな」サル

 

 

洗い場は両サイドにある。シャンプー、ボディ石鹸もあるよ。

湯船は三槽に区切られていて、向かって右(写真では上半分)が一番ぬるい。

次に左奥。当たり前だけど、湯が流れ込んでいる場所が一番温かい。ぬる湯

が痔瘻に好いんだって。温かい方が胃腸に効くって。ご主人直伝の入浴法。

 

床は温泉成分が沈着しているので、ヌルヌルで滑りやすい。ご注意のほど。

 

 

誰一人もこない。完全二人占め状態。女性は湯浴みOK(一応おサル持参)。

あとね。ご主人が家族風呂として1時間取ってくれた。ありがたいね。宿泊客を

大事にしてくれている。

 

ただ、窓外の建物は(慶雲館の従業員宿泊施設だろうか)人がうろうろして

いるので、女性の皆さん油断しないように。

 

「見るなら見ろ!」サル

 

貴方はいいです。それでも。

 

 

湯の花、残念ながらペラペラだったよ。

 

★ ★ ★

 

(ここから先は情報源はネットだから真偽のほどは割り引いてね)

残念といえばね。この湯の花の件も一枚絡むんだけど、慶〇館が経営スタイル

を変えてボーリング量を増やして以来、蓬莱館の湯量が激減し、名物の湯の花

も減っちゃったんだって。それで法律的なゴタゴタがあったそうだ。ま、客の分際

でよそ様の家庭の事情を覗き見するようで気が引けるんだけど。数軒あった宿

の廃業も絡んでいそうだし。頑張れ!蓬莱館。

 

 

半分しか出ていないものね。

だからこそね。蓬莱館を応援したいのだ。

 

 

浴槽には新たに腰掛けも設置されバリアフリー化。ということで三回くらい這入っ

たな。これで痛めた足腰もズバリ恢復でしょう。

 

「胃腸だっていってたじゃん。効くの」サル

 

※残念ながら女性用風呂は使われなくなってました。現在この大浴場のみです。

 

★ ★ ★

 

【夕餉編】

 

ということで夕飯の午後6時になった。食事も全てご主人の手作りなんだよ。

もうね、申し訳ないやらなんやらで、日本酒バンバン頼んじゃったよ。甲府と

言えば「七賢」でしょう。

 

 

正直云ってここまで立派な手料理期待してなかった。だって湯治宿って病気を

治す場であって“保養”すべき場所じゃないって思ってたから。

 

余りに感動したので逐一報告する。

おサル、迷い箸らないよ。行儀悪い。

 

 

鮎の塩焼き

この辺りは鮎釣りも盛ん。ご主人が丁寧に焼いた塩焼きは身がフワフワ。

鮎の塩焼きは頃合いを間違うと身がポロポロになって台無しになるからね。

 

 

一押しはこの旬の天婦羅

蓬莱館では地物の山菜を中心にした天婦羅を頂くことができるんだよ。

さて一体これらは何でしょう?

 

答えは以下のとおり。

 

 

ヨモギ旨かったなあ。一瞬何か判らなかったけど。苦くないのに濃厚なんだ。

子供の頃に婆ちゃんが作った草餅の味に似ていたから判った。ゆり根も贅沢

なサイズでほっこり甘い。シュウ酸がきついので沢山食べられないイタドリも

程よい酸味が特徴的。この中で見た目で判別できなかったのは唯一干し柿

だった。食べるとすぐ判る。この辺りの品評会で一等だったものなんだって。

 

 

それをね。この赤い粗塩で頂く。たぶんボリビア産。ミネラル感があって

天婦羅の素材の味を一層際立たせる。全部酒の肴だからね。もうすぐ手

術で酒も飲めないし、好いや!って。

 

 

鴨肉のたまり漬け

 

 

で甲府の珍味。

九時の位置から時計回りに、胡桃、ゆり根、ゼンマイ、フキ、椎茸そして…

もちろんイナゴの佃煮

 

「ぎゃあ~無理無理無理」サル

 

なんで?大切な蛋白源だよ。海老と同じ節足動物なんだし。ったく。

確かに外骨格がいつまでもシャリシャリ口に残って食感は今一かも(笑)。

 

 

とりあえずキノコの醤油漬けでお口直しして…

 

 

これなら大丈夫でしょ。テナガエビの唐揚げ

 

「うみゃ~!高級かっぱえびせんだ!」サル

 

最高に美味しかった。なかなか食べることはできないよ。

 

 

デザートはやはり甲府と云えば桃でしょ。

 

「もみょもみょはーと 」サル

 

亡くなったサルパパの大好物だったしね。そう言えばおサル、甲府の桃って

沢山あるの知ってる?

 

「またあ?そういうクイズもう結構だよ」サル

 

四つあるんだって。驚いたことにひとつの品種を味わえる期間って、たった二週

間しかないんだね。八月中旬は桃の出荷の終盤で、この時期は川中島大桃

ていう大型品種なんだ。道理で美味しい筈だよ。果汁がボタボタだったもんね。

 

【翌  朝】

 

ちょっと食べ過ぎてしまったので胃腸の働きを良くするために朝風呂へ。この日

も最高のお天気だったよ。

 

 

帰省Uターンのピークと重なる日なので、九時とやや早めにお暇することに。

 

 

朝食も最高だった。とにかくご飯が旨い。炊き加減は高齢者を意識してか、柔

らかめだけど、旨さは変わらない。結局お櫃を空にしてしまった。それと特筆す

べきは塩鮭。直火で手間暇かけて焼いたのが判る。表面カリカリで中がジュー

シー。温め直しただけのがバイキングで出たりするじゃん。あれとは大違い。

 

★ ★ ★

 

ということでね。大層満足したので長い長いレポになってしまった。僕らが実は登

山好きと判ると、近代登山の父W・ウェストン卿小島烏水も宿泊したと、研究者

に教えられたと説明してくれた。あと白川由美とか竹脇無我とか。

 

「誰よ。白川由美って」サル

 

郷ひろみの最初の奥さんのお母さん。

 

★ ★ ★

 

もうひとつ当館のエピソードをご主人が紹介してくれたよ。

 

中国には蓬莱伝説ってのがあるそうだ。秦の始皇帝に「不老不死の特効薬を探

してこんかい!」と無理難題を押しつけられた徐福って運の悪い青年がいた。

伝説の蓬莱山を求めて東国(日本ね)に渡った彼は、これぞ蓬莱山にちげえねえ

と、富士山(だから不死=富士)を見定めた訳よ。その麓に見つけた植物こそ

オニクだったんだ。

 

「お肉?」サル

 

 

滋養強壮の漢方薬として有名な「ニクジュヨウ」の許だよ。養命酒とかユンケル

とか、この手の栄養剤には必ず入っている。中国大陸原産のハマウツボ科の一

年草で、葉緑素を持たない寄生植物だ。

 

(※画像はお借りいたしました)

 

こんな感じね。国内だとナンバンギセルが近い種類。

 

 

そのリキュール漬けが飾ってあった。他にも得たいの知れない薬用酒が

ずらりと。

 

「お客さんがさあ、次から次へと持ってきちゃうだよ~」お爺さん

 

しかも、その得体の知れない寄贈品を飲んでしまった客もいるという。

 

「お客が飲んじゃって、もう無くなっただよ~」お爺さん

 

早川の言葉は静岡のそれに似ていた。

なお、徐福はこの早川の温泉をいたく気に入り、蓬莱の湯として愛でたとい

う。「蓬莱の湯」の名の起こりであり、これもまた伝説である。

 

★ ★ ★

 

日帰りで往訪される方も多いと思いますが、宿泊の価値はかなり高いです。

客として泊りながら、スタッフと触れ合う機会もなくチェックアウトする宿が増

える昨今にあっては貴重なお宿です。ご主人お身体ご自愛ください。

 

(終わり)

 

いつもご訪問ありがとうございます。