上越国境稜線縦走(白毛門~巻機山)② | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

ひつぞうとおサル妻の山旅日記

ひつぞうです。
おサル妻との山旅を中心に日々の出来事を綴ってみます。

檜倉山(1,744m)/柄沢山(1,900m)/米子頭山(1,796m)/巻機山(1,967m)

群馬県・新潟県

 

日程:2018年4月21日~22日

天気:(二日目)快晴

行程:(二日目)大烏帽子山2:20→4:14檜倉山4:25→7:34柄沢山7:44→10:35米子頭山10:54→14:07巻機山→15:08ニセ巻機山→17:15桜坂

 

≪夜明けの柄沢山≫

 

こんにちは。ひつぞうです。遂にGW突入ですね。皆さんどんな山旅を計画

されているのかな。なんだか後半はお天気総崩れの予報だし…。それは

さておき「上越国境稜線縦走①」の続きです。

 

★ ★ ★

 

午後9時。突然眼が覚めてしまった。この季節にしては生暖かい空気に包まれ

ていた。灌木もそよとも動かない。二日目の行程が気になりだし、計画書と地

図を引っ張り出して検討する。ここまで10時間で来る予定に対して、要した時間

は12時間。計画の1.2倍だった。単純計算で二日目の所要時間は12時間。4時

の出発予定を2時間早めた処で下山予定の14時にぎりぎり間に合う算段だ。

 

二本目のワインは殆どまるまる残っていた。荷物になるのを言い訳にマグにな

みなみと注ぎ、月を愛でつつ、煽るように飲んだ。一気に胃の底から熱いものが

込みあげてくる。これで寝れそうだ。得心してシュラフに潜り込んだ。

 

再び忽然と眼が覚めた。時計を見て飛び上がった。時刻1時34分。出発予定ま

で30分を切っている。朝食を摂る余裕などない。酒を飲み直したのが拙かった。

 

★ ★ ★

 

速攻でテントを畳み、ヘッデンの明かりだけを頼りに降っていく。まもなく前日

反対方向から現れたよく喋る兄やんのテントが視界に入った(偵察しに大烏帽

子山頂まで来たのだ)。彼の話ではこの先は藪漕ぎするか、雪を拾って巻くか

判断に迷う箇所が続くらしい。すぐに断続的な藪漕ぎに直面。藪には明確な方

向を示すものはない。頼りはGPSと足裏で感じる傾斜のみ。ブロック雪崩のデ

ブリを通過し、猛藪の急傾斜をゴボウで登る。ここまでくると手負いの右手が軽

く感じるから不思議だ。

 

猛藪を乗り切ると広い斜面に出た。前日の偵察では檜倉山まではもう近い。

そして山頂と思しき場所で、初日に白毛門で抜かれたソロの若者がテントを畳

む準備をしていた。夜明け前に現れた人の気配に驚いた様子だった。そりゃそ

うだ。熊かと思うもんね(この山域は熊の密度は濃いので要注意)。

 

 

自己紹介して若者を安堵させ、下山の時間があるからと先を急いだ。置かれ

た状況は彼も同様で、しきりにバスの時間を気にしていた。しかし、前日のス

ピードから判断して、彼であれば間に合うだろう。

 

 

檜倉山直下は籔尾根なので斜面をトラバースする。擂鉢状の急傾斜なので気

持ち悪いんだよね。それに夜中も暖かったから、雪の締まりが良くない。年々G

Wの残雪山行はこの傾向が加速している気がする。温暖化の影響?

 

 

どうしても斜面の下が見えてしまうので、恐ろしくなっておサルが泣きべそを

かき始める。ダメだって。ビビると腰が引けて余計に危険なんだから。

 

「ひつぞう、優しくない!」サル

 

ええ、ええ、そりゃ私はスパルタですよ。

 

 

5時を回ると明るくなった。至仏山から平ヶ岳に至る稜線が見えた。右の奥には

燧ケ岳の特徴的なシルエット。そして曲がりくねる尾根を回り込んだ時だった。

 

 

忽然と柄沢山(からさわやま)の巨大で美しいドレープラインが視界に飛び込

んできた。そう。この山こそ今回の山行の一番の目的だった。

 

 

全てのものが朱色に染まるマジックアワー。

 

 

 

素晴らしい。言葉が出ない。この快晴の日に拘ってきた甲斐があった。

 

 

それにしてもなんと巨大なんだろう。なんと美しいのだろう。

 

 

山頂までは(一箇所大きな雪割れがあった以外は)雪の歩廊がついていた。

ヒドゥンクレバスには注意しよう。

 

 

左後方には馬蹄形の一部、七ツ小屋山と、黒い鋭鋒・大源太山が見える。

大源太の右奥には、ひと月ほど前に登った日白山タカマタギも見えた。

 

 

山頂は目の前にありながら、なかなか着かない。寝坊して水を作り損ねたた

め、時々雪を頬張っては水分を補う。埃っぽさは微塵もなく甘かった。いや、

本当に甘いのだ。甘露とはこのことかと思った。だから南魚沼の水は美味い

のか。

 

 

どんどんおサルは遅れていく。気がつくと若者が瞬く間に距離を狭めてくる。

 

 

なんとか肩に乗り越した。ここでアミノ酸入りの水分を補給。二人であと1.5L…。

 

 

出発点の大烏帽子山は、一番左端の三角錐の山。右奥が谷川岳。

 

 

稜線の東(左)と西(右)で残雪の量が全然違うのが判る。日照の問題もある

けど、もともと西風に煽られて降雪量が東側斜面に多いためだろう。

 

「ほ~んち~?またまたいい加減なこと言っているんじゃないのちにゃー」サル

 

 

この登りはきつかった。やはり2時間では柄沢山には着きそうにない。

 

 

そして簡単には山頂に立たせてくれなかった。雪割れを巻いて急斜面を直登。

 

 

もうちょい。今はこうして気楽に記録を書いているけど緊張で喉がカラカラ。

粘膜が喉で張りついて、時々ひどい嘔吐感に襲われる。困ったもんだ。

 

 

「ついたのち?」サル

 

はい。着きましたよ。柄沢山は山スキーのメッカでもあるけれど、今のところ

人の気配は皆無。山頂は広い。

 

 

重い三脚を担ぎ上げたけど、結局二人で写したのはこれを含めて三枚だけ。

そろそろ厳しいルートでの装備軽量化を考えないといけないような気がする。

すでに雪がグザグザに腐り始めている。

 

 

次のピーク・米子頭山(こめごがしらやま)までは1,809ピークと無名の小ピー

ク、それに核心部ともいえる(もう一つの)1,809ピークが存在する。暫くは広尾

根歩き。紅葉の季節は草紅葉と地塘が織りなす絶景ポイントらしい。

 

暫く歩くと、あれ。沢山踏み跡あるけど、ここだけなんで?

 

 

人じゃなかった。熊君だった。これ今朝のものだよ。凄く鮮明だもん。珍しいも

のを見つけたつもりで写真に撮ったら、その先に縦横無尽に複数の踏み跡が

着いていた。きっと親子のものだろう。足跡は僕らと進行方向が逆だったけど

いつ樹林から飛び出してくるか判らない。ホイッスルを吹きならし、撃退スプ

レーを手にして進んだ。

 

 

これが1809mピーク。ピークというより広場(中央におサル)。

 

 

利根川源流側に刃物ヶ崎山。ここも難峰だけどいつかは攻めてみたい。

 

「おサルは遠慮しておく」サル

 

 

この小さなピークを登るのも大変だった。というのも寝坊して朝食を満足に

摂っていないのでシャリバテになってしまったんだ。飴やチーカマを口に入

れるんだけど、口中に水分がないでしょ。なので咀嚼ができないわけ。そう

なると吐き気が勝って何も喉を通らないのだ。ま、最悪のミスだったね。荷

物になるからって、ワインをがぶ飲みしたのは慢心としか言いようがない。

 

 

ピークを過ぎると雪が絶えてしまった。ここから藪に突入。

 

 

藪ったって腰以下の笹とハイマツだもん。楽勝だよ…とはいかないようだ。

おサルの場合。

 

「だから、藪と怖い雪山は嫌だって言ったじゃん!」サル

 

罪作りな男である。

 

 

あの雪の落ちたピークがもう一つの1809mピークのようだ。積雪がある場

合はナイフリッジの難所だけど、雪が無ければ無いで、別の意味で難所。

コースをどうとるか。実はあの若者とは抜きつ抜かれつ、殆ど一緒に行動

していた。僕らが互角という意味ではない。彼は速い。だけど、どうやらその

日のうちにバスに間に合わせるのを止めたようだった。時々大休止しな

がらの優雅な山行だった。

 

 

さて、これをどう片づけるか。思わず「真ん中の岩の間を突くしかないよね」

と口走ってしまった。アイゼンが外れ掛けていたので、彼に先を譲った。まる

で進路に自信がないから先に行ってもらったみたいでカッコ悪い。でも、よく

考えれば無雪期も歩く人がいるのだ。きっと籔の中に踏み跡があるに違いない。

 

彼が「こっちに来ない方がいい」とサインを出してくれたので籔に突入した。

直下の雪を拾って巻く戦法は使えない。もう腐りきっていて、崩落は時間の

問題だったからだ。

 

 

じゃ、僕は籔ってことで。確かに明瞭な踏み跡があった。ただ籔は好き勝手に

触手を伸ばし、刈払いなんて論外なので、突破が大変なのは変わらない。

 

その後も、藪、腐り雪、藪、腐り雪の連続だった。もうおサルは口を利いてく

れない。油断すると片足全体がズボってしまう。抜け出すのも一苦労だ。

 

ここで整理。

 

熊の密度…柄沢山~1809mピーク間が濃密

藪の密度…1809mピーク~米子頭山が濃密

 

 

どうにか米子頭山の山頂についた。若者は優雅に食事中だった。巻機山避

難小屋に泊まって翌朝帰るという。僕らもそうしたい。しかし僕は重要な会議

があって「帰らない」という選択肢がなかったんだ。おサル激怒り中。

 

「でもさ。そんなに黒々と日焼けしてさ、会議でて大丈夫なの?」サル

 

それを考えるのは止めよう(当然いろいろ言われたけどね)。

 

米後頭山はdocomoが繋がる。電話して予約していたタクシーの時間を遅らせ

てもらった。これで一安心。しかしJRの便は期待できない。困ったね。

 

 

利根川源流域の名峰・小沢岳。その左奥に下津川山。素敵。

 

 

いよいよ巻機山だ。もう遮るものはない。すぐだ。なんてね。甘かった。2時

間で着くもんか。ひたすら長い長い尾根を登り詰めると、またまた雪が落ち

ていた。

 

 

雪の足跡が出てきている場所から千島笹の蜜藪に若者と一緒に突入。でも

藪に踏み跡はない。右往左往して道を探すけどないんだよ…。おかしいな。

 

 

一番右端は岩場で切れ落ちているので、最初から偵察しなかったけど

行ってみると、薄い踏み跡を発見した。脛丈の笹の斜面をゴボウで突破。

もう骨折なんて考える余裕はないよ。

 

 

あった!あったよ。雪に繋がってる。そう叫ぶと若者が速攻で上がってくる。

最後まで信用してなかったおサルも渋々登ってくる。

 

「こんなの登山じゃない!」サル

 

いや、これぞ登山だよ!

 

二人の解釈の隔たりは一生狭まることはなさそうだ。

 

でも若者は感心していた。「女性でこのコースに来るなんで凄いですよ」

そう言われたよって説明したら

 

「あら♪そう?」サル

 

まったく…。気分屋だのう。

 

 

でもきついそうです。

 

 

牛ヶ岳から伸びる奥利根の稜線。いつか歩いてみたい。

 

 

ようやく巻機山が見えたよ。

 

「まだあんなに先じゃん!」サル

 

小休止する若者とはここで別れた。またどこかの山域で御一緒できれば。

ありがとうございました。とても心強かったです。

 

 

おサルが激怒しているのでさっさと先に行くことにした。

 

 

今日歩いてきた稜線。手前の土饅頭のピークまでが長かったね。

 

 

そして荒涼としたザレ場に見覚えのある山頂があった。沢山の足跡があった

けど、もう巻機山目的のハイカーは全員下山したのだろう。

 

 

そして山頂標識のある広場に到着した。長い長い稜線歩きのフィナーレを

向かえたのに、ゴールは閑散とした宴のあとだった。そして激怒中のおサ

ルと一緒に撮影する雰囲気はなく、下山するためにギアを換装して一気

に降っていった。

 

 

右直下に避難小屋。そして手前中央にニセ巻機。

 

 

さようなら。上越国境の稜線。

 

 

巻機山のピークを振り返って。

 

 

柄沢山から米子頭山までのピークの連峰。こうしてみると一つの山だね。

 

 

巻機山の象徴「天狗岩」。以前登った時は紅葉の季節だったので全く異なる

印象だった。桜坂の登山口駐車場には既にタクシーが来ていた。随分待っ

てもらったので、売上貢献と、乗り換えして土合まで戻るのが面倒くさくなり、

関越道経由で帰った。

 

高速代…1,370円

タクシー代…21,120円

 

二人で山小屋に泊まったと思えば無駄ではない。

 

「負け惜しみ~」サル

 

おサル妻を怒らせるといつまでもなじられる。困ったもんだ。結局二日目

は14時間超えのロング山行になってしまった。やはり三脚と飲みもしない

ワインを担ぎ上げるのは考え物だ。

 

(終わり)

 

【二日目の行動時間】…14時間15分

 

いつもご訪問ありがとうございます。