自炊と湯治の湯 那須湯本温泉「雲海閣」(栃木県) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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おサル妻との山旅を中心に日々の出来事を綴ってみます。

さるひつの温泉めぐり♪【第37回】

雲海閣


往訪日:2017年10月21日~22日

所在地:栃木県那須郡那須町湯本33

泉質:含硫黄・カルシウム‐硝酸塩・塩化物泉

泉温:57.2℃

味臭:強い硫黄臭と仄かな苦味と円やかな酸味

pH:2.5

■営業時間:(IN)15:00~(OUT)~10:00

■アクセス:東北道「那須IC」より車で約25分

■日帰り湯:9時~20時(大人400円)


≪ここだったら激混みも関係ない≫


こんにちは。ひつぞうです。
ひと月以上経ちましたが「さるひつの温泉めぐり」の更新です。
ある週末のこと。天気が悪くて登山を中止すると宣言。すると…

「休みなのにどこにも行けないじゃん。温泉行きたい、行きたい、行きたい!」サル

とおサルが大暴れ。
こういうときのために、直前でも予約が取れそうな隠れた名湯を
リストアップしてあるんです。それがここ、那須湯本温泉の「雲海閣」。

歴史のある温泉宿で、那須湯本では唯一の素泊まり専門。
「自炊」のハードルが高いのか。割と予約を取りやすい。

しかも、朝から激混みで有名な「鹿の湯」から源泉を引いている。
こりゃ行かねばなるまい!ということで行ってきました。

★ ★ ★

台風接近中の雨模様の那須。でも観光客は多いね。
食事をして美術館を訪ねて、途中スーパー「ダイユー」で食材を買い込み到着!


なるほど…。これは大層年季が入ってそうだ。
駐車スペースは玄関前に7台程度。
案内を乞うと宿の主が現れて、部屋まで案内してくれた。


昭和二八年の揮毫。宮澤賢治の主治医だった佐藤隆房によるもの。
ここは佐藤の実家がだったそうな(今の経営者は別の家系)。
突き当りが受付で右手が厨房。自炊用具はすべて貸し出しOK。


部屋は二階の一番奥の「雲海の間」。
扉の木目調のデザインが「ザ・昭和」である。
すばらしい。


なんと二間続きの角部屋だった!贅沢すぎる。
漆喰が所々剥げ落ちてる。でもこれは温泉成分がきつ過ぎて
補修しても補修しても追いつかないが故の放置策とみた。

お部屋そのものは綺麗に清掃が行き届き清潔そのもの。


お隣の宿は休業中のようだ。こんな有名な温泉地でも休業に至るなんてね。
日帰り湯が主体という次代の流れなのかな。


「ほら、裏のメッキが硫黄分でボロボロだよ」サル

こういう部分に宿の素敵さを感じるのは変だろうか。


宿泊客は誰もいないようだ。ま、こんな天気だしね。


しかし、今年は一年中よく降る年だった。


では湯殿探訪へ!まずは一階に降りてゆく。


ここから浴室まで長い長い階段を降っていく。
川沿いから源泉を引いているのに、なぜこんな高台にあるか知ってる?

「しらん。まったく」サル

もともとは面通りにあったんだけど、戦災で全焼してしまったんだ。
湯殿は元の場所のままなので、こういう造りになったそうだ。

「てっきり演出かと思っただよ」サル


雲海閣には泉質が異なる二つの温泉があるんだ。
硫黄泉の「元湯」と明礬泉の「みはらしの湯」。「みはらしの湯」はここを右へ。


防空壕のような通路をくぐっていく。ワクワクするね。


そして、更に更に階段をくだっていく。
こりゃ足腰の弱い人にはなかなかハード。


ようやく着いた。女湯は誰もいないのでおサルに取材依頼。
脱衣場は男女で広さが若干異なる。


これが女湯の湯船。
狭いけど内装が全て改修されて浴室としては綺麗。
男湯はコンクリート基礎の部分とサッシが酸にやられ
ちょっとボロボロ感がある(当然壁と床は綺麗)。

ところで「鹿の湯」もそうだけど、なぜ湯船が複数あるか。

「プライバシー保護の観点からじゃね」サル

正解は二つある。第一は温度調整をするため。
注ぎ口の栓を片方は閉め込み、もう一方は緩くする。
すると注がれる湯量が変わる。
どんどん流れる方が熱いにきまっている。そういうこと。
熱いほうが効能があるけど、客の全てが熱い湯に這入れる
訳じゃないからね。

もう一つはね。泉質保持。
人間が這入ると皮膚組織が溶け出して、酸性からアルカリ性に
変化してしまう。酸性熱湯こそが湯治効果を高める最高の泉質
(と今回、宿主さんに解説して頂いた)。

ここからは余談だけど、美肌の観点からは酸性湯に長時間
這入るのは肌荒れの原因になるので厳禁らしい。
ま、10分くらい入って、休憩をはさんで何度も入る。
温泉指南書に書かれていることにはきちんと理由があるんだね。

「いやだ。おサルは強酸性激熱の湯がいい!」サル

どうぞ。尻の皮が湯爛れするまでお入りよ。


これが男湯。
なんと、まだ14時なのに二人先客がいた。
洗い場は狭いので六人いると圧迫感があるね。
どっちが熱いか判りますか?

正解は左。熱くて長く入れないから、湯の花が沈殿しているのだ。


先客は地元の方だったようだ。毎日来たい時ふらっと来れるんだ。
羨ましいね。

ちなみに「鹿の湯」と「行人の湯」の湯元から引かれた混合泉。
誰もいない翌朝早朝に味を確認。
微量元素の僅かな苦味と、円やかな酸。濃厚な硫黄の臭気。
素晴らしい泉質だ。ただたくさん口に含むと歯がやられそうだな。


このように湯量を調節しているのだ。


板張りの部分はしっかり手入れされている。


泉質重視の温泉愛好家に推薦したい宿だ。「鹿の湯」を卑下するつもりはないが
あの混雑では泉質は相当へたっているに違いない。その点ここは貸し切り。

もう誰もいないもんね。


もう1時間以上這入っている。一回出るとしよう。


途中、他の部屋の扉が全て開いているので観察する。
どの部屋も綺麗に整頓され、いつでも臨時のお客に対応できる状態。
(素泊まりとは云え)これで4,500円は安い!
以前は二食付きの営業だったが、現在は素泊まり専門。
ある意味リーズナブル。

もうひとつ特筆したいことがある。


このトイレの美しさ!まるで高級マンションのモデルルームみたいだ。
宿泊客が一番快適に過ごすための条件は何か。
床や壁の見てくれの修補よりも、こういう部分に予算をかける。
宿主の姿勢を語っておきたかった。

★ ★ ★

さて、夕食の時間である。
登山では自炊は慣れたもの。それに加えて食器や調理器具、ガス水道も
自由に使える。調味料も殆ど揃っている。まさに天国である。


使用後は自分で洗って拭いて、元の場所に戻す。


お、おサル。何作ってんの?


「はい~。なにもしない人。どいてどいて」サル


そんなに手間暇かけずに、こんだけのものが作れる。
やっぱり那須と言えばビーフでしょ。あと宇都宮餃子。
でも、なんで鮎の塩焼きなの?

「好きだから!」サル

赤ワインには合わんやろ。


クレソンが多すぎやろ。

★ ★ ★

翌朝

明礬泉「見晴らしの湯」におサルと一緒に朝一で。
以前は男女別だったみたいだけど、今はひとつ。
女性が這入る時は「家族風呂」の札にひっくり返そう。


7時過ぎだったんで油断していたら、男性が這入って
来ようとするではないか。もう、外湯でくる客がいるとは!
家族風呂の札を見てなかったのか?

「危なかったにょ~」サル


薄く温泉成分が沈殿している。タイルもボロボロ。
その日の天候によって、湯樋を流れる量が変わる。
水量が増えれば樋に溜まった成分がどっと流れ込んで湯船は真っ白になる。
(全部ご主人に訊いた話)

つげ義春の貧乏温泉宿の世界感に浸りたい方にうってつけ。


鹿の湯(元湯)、大丸、北、弁天、高雄、八幡、三斗小屋。
これを総称して「那須七湯」という。開湯は舒明二年(西暦630年)。
正倉院の御物にもその記録が残っているという。
その筆頭格の鹿の湯。訪れて損のない素晴らしい宿だった。

(おわり)

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