【“原発マネー”を31年拒否してきた島が緊急事態に】
日刊SPA
2013年7月31日
上関原発建設予定地の対岸3.5kmの地に浮かぶ人口約500人の島、山口県上関町・祝島。
地元自治体が原発関連交付金を受け取り建設推進と傾く中、島民たちの約9割が建設反対。
“原発マネー”の受け取りを31年にわたって拒否し続けてきた。
主要産業は漁業で、漁業補償金受け取り対象となる8漁協のうち、祝島の漁協だけが受け取り拒否を貫いている。
その額、10億8000万円。
現在、この歴史が覆されようとしているという。
「上関原発を建てさせない祝島島民の会」の清水敏保代表はこう語る。
「山口県漁協の職員は『10億8000万円を受け取っても受け取らなくても税金がかかる』とウソの脅しをかけるなど、補償金を何とか受け取らせようと圧力をかけてきました。
そして、県漁協は今年2月に祝島支店での部会で強引に受け取りの可決をしたんです。
漁業権にかかわる総会の議決は3分の2以上の同意がなければならないという決まりなのに、県漁協は半数以上の賛成で可決という認識。
補償金を受け取るかどうかは、漁業権にかかわる重大な問題です。
生態系が崩れて漁獲高に影響が出る可能性もあるし、風評被害も予想される。
釣り客などの観光収入も減るでしょう。
何よりも、われわれ反対を貫いてきた島民たちの思いは『海はカネには換えられん』ということです」
これに対して、今年3月に祝島漁協の組合員53人のうち31人と准組合員8人が「漁業補償は受け取らない」との署名を提出した。
しかし、県漁協はこれを無視。
8月2日17時から総会を開き、漁業補償金の分配案を決めるつもりだ。
なぜここまで強引に可決を焦るのか?
それにはこんな背景もある。
上関原発は現在、福島第一原発事故を受けて工事が中断している。
安倍政権は原発再稼働と原発輸出には熱心だが、新規増設については参院選公約でも触れていない。
上関町が今年度受け取る原発関連交付金は7200万円。
昨年度の12億9000万円から激減した。
総工費9億5300万円のうち8億4600万円を交付金で賄った温泉保養施設をはじめ、新たに整備された公共施設の維持費も必要だ。
原発マネー依存路線を決めてしまった上関町としても、早期に本格着工にこぎつけて多額の交付金を分配してもらわなければならない。
すでにカネを受け取ってしまった県漁協だけでなく、地元自治体にとっても原発建設は悲願となっているのだ。
「『海を守りたい』というわれわれのまっとうな願いに対して、どうして県漁協は無理矢理カネを押しつけてくるのでしょうか。
補償を受け取るかどうかというのは漁業者だけでなく、海とともに生きる島民全体の問題。
ここでカネを受け取ってしまったらすべてが無駄になってしまう。
われわれが31年間反対し続けてきたからこそ、そして全国の方々の支援があったからこそ、この土地に原発は建てられてこなかったのです。
多くの人たちの長年の思いを反故にするようなことは絶対にできません」(清水代表)
8月2日、山口県漁協がどう判断するのかに要注目だ。
<取材・文・撮影/北村土龍>
※原発に依存しない島づくりを目指す祝島島民の姿をリポート
(週刊SPA!2011年6/14・21号の記事を特別公開)
【原発と闘う小さな島の30年史】
日刊SPA
2011年6月24日
◆小出裕章(京都大学原子炉実験所)が考える 原発と闘う小さな島の30年史(1)
エネルギー自給100%、農業・漁業・福祉の自立を目指し島民の闘いは終わらない
瀬戸内海に、約30年にわたって原発を拒否し続けてきた小さな島がある。
山口県上関町・祝島だ。
周辺住民が補助金を受け取り原発受け入れと傾くなか、頑なに原発を拒否し続けた島民たちは、原発経済・補助金行政に依存しない島づくりを目指し始めている。
瀬戸内海に浮かぶ小さな島、山口県上関町祝島。
約500人の島民が、主に漁業や農業を営んで生活している。
82年、この島の対岸3.5kmにある田ノ浦地区に、上関原発の建設計画が持ち上がった。
反対運動の中心として活動してきた漁師の山戸貞夫さんはこう語る。
「島の漁師たちが、中国電力に小旅行だといって伊方原発(愛媛県)に連れていかれ、原発の経済効果と安全性を説明されたんじゃけど……。
地元の漁師に聞いてみると、カネをもらったはいいけど、海の温度や海流が変わったからか、それまでみたいな漁ができんくて困っちょるという。
こりゃ海を壊すし、いかんわと思った。
海はカネには換えられん」
地元8漁協のうち、祝島漁協だけが約10億円の補償金受け取りを現在まで拒否している。
「漁獲高に影響があるだけじゃなく、風評による値崩れも心配。
それに、祝島では釣り客を漁船に乗せる遊漁業も盛ん。
原発の前で誰が釣りをしたいかね?」(山戸さん)
島民のなかには、福島原発で働いていた者もいた。
原発での労働現場がいかに危険かを聞いた彼らは危機感を募らせ、「愛郷一心会」(現・上関原発を建てさせない祝島島民の会)を立ち上げた。
原発問題は町長選や町議選で常に最大の争点となり、建設推進派と反対派で町を二分する大論争となった。
島民たちは議会を傍聴のため町議会のある長島へおしかけ、推進派議員に抗議した。
毎週月曜日に行っている島内での反原発デモはもうすぐ1100回になる。
強行される中国電力の現地調査や工事に対して、漁師たちは漁船を出し、体を張って阻止行動を続けた。
原発建設の趨勢は止められなかったものの、こうした現場での奮闘が建設を遅らせ続けてきたのだ。
2010年9月から、中国電力は本格的に田ノ浦の埋め立て工事を強行し始めた。
中国電力の作業員たちと祝島の島民たちが、海上で顔を合わせた。
双方激しく口論し、年配の女性が歌を歌って抗議する。
中国電力側は警備員を大量に雇って人間バリケードを作り、その中で作業を進めようとする。
その過程で、島の女性が作業員に押され、怪我をする事件が起きた。
現場にいた中国電力の社員は全く動かない。
結局、海上保安庁の船が搬送したが、これには島民も怒り心頭に発した。
福島第一原発事故後の3月15日、中国電力は工事中止を発表。
しかし、散発的に発破作業を続けるなど、事態は予断を許さない。
【ビワ栽培で“原発経済”を拒否】
2011年6月24日
小出裕章(京都大学原子炉実験所)が考える 原発と闘う小さな島の30年史(2)
ビワ栽培、棚田再生etc.で経済的な自立を目指す
ある推進派の町民が口にした言葉が、山戸さんの耳にこびりついている。
「命が惜しくてカネがもらえるかね!」
原発建設計画が持ち上がった約30年前に比べて島の人口は半減、高齢化も進んだ。
仕事がないため若者が島に戻ってこず、医療や介護問題も深刻になる一方だ。
「カネを餌につけ込まれて原発経済・補助金行政に依存しないよう、経済的にも自立を目指さんと」(山戸さん)
山戸さんの息子・孝さんは、中学を卒業後、島を出て大阪で就職したが、島に戻ってビワを食べ、そのおいしさに「これで食っていける」と自信を持ち、Uターンを決意したという。
ビワは無農薬栽培で、葉を加工した「ビワ茶」も作り始めた。
ひじきや干し大根などとともに直販で高い評価を受けている。
「何とか軌道に乗ってきました」(孝さん)。
北海道で肉牛を飼育していた氏本長一さんもUターン組。
現在、祝島の代名詞のひとつでもある「棚田」の再生を目的とした循環型農業を実践中だ。
「島には、耕作放棄されて荒れ放題の棚田がたくさんあります。
まずそこに牛を入れて雑草を食べてもらいます。
その後で豚を入れると、土の中の草の根やミミズを食べようとして鼻で土を耕してくれます。
重機などでやるよりもずっと効率がいいし、家畜の糞が肥料にもなります」
家畜の餌はほかに、売り物にならないビワや家庭の生ゴミ、畑で余った野菜などを与えている。
「おかげで、島外に送って焼却処分をしていたゴミの量も減り、一石二鳥です」(氏本さん)
安全な飼料を食べ、完全放牧で健康的に育った家畜はブランド肉となり、東京の一流レストランに高値で仕入れられている。
また、牛や豚が棚田から逃げないよう張り巡らされた電線は、自家用の太陽光パネルから給電されている。
【「危険な電気はいらない」自然エネルギー100%プロジェクト】
2011年6月24日
◆小出裕章(京都大学原子炉実験所)が考える 原発と闘う小さな島の30年史(3)
「危険な電気はいらない」とエネルギー自給を目指す
島にはもう一つの悩みがある。
人口の約4分の3が高齢者。
介護問題が重要な課題となっているのだ。
原発推進派の多い他の地域では補助金が投入されているが、どれもハコモノ建設ばかりで行政サービスは貧弱。
そこで、島民たちは自分たちで高齢者介護を完結させるべく、ホームヘルパー講習を集団受講した。
2004年には約20人がホームヘルパー3級の資格を取り、2009年には約10人が2級を取得。
空き家を利用した寄り合い所も建設中だ。
「民宿くにひろ」の国弘公敏さんはこう語る。
「行政に頼れば、そこにつけ込まれてしまう。
それなら島の年寄りは島の人間が面倒を見ようと。
それに、そのほうがみんな幸せなんじゃないかな」
さらに島民たちは、エネルギー自給も目指し始めた。
孝さんが中心となり、「自然エネルギー100%プロジェクト」が始まったのだ。
「危険な電気の押し売りはいらない。
『結局、あんたらも原発の電気をもらっちょるじゃろが』と推進派からよく批判されますが、じゃあ自前で作ろうということになりました。
島内外から出資者を募り、その基金をもとにして太陽光パネルなどでエネルギー自給しようというものです」(孝さん)
環境エネルギー政策研究所(ISEP)など、外部団体もこのプロジェクトを後押しした。
孝さんは「でも、そもそも代案を出さなければ原発に反対してはいけんのじゃろうか?」と言う。
「代案がなければ危険を一部の人に押し付けていいというほうがおかしい。
代案を出すよりも前に、反対する権利があると思う」
【「カネに左右されず、まっとうに生きること」】
2011年6月24日
◆小出裕章(京都大学原子炉実験所)が考える 原発と闘う小さな島の30年史(4)
40年にわたって原発問題に警鐘を鳴らしてきた京都大学原子炉実験所の小出裕章助教は、以前から「上関原発の建設は実現不可能」と断言してきた。
その根拠とは何なのか?
「今まで上関に原発が建てられなかったのは、祝島の島民が行政・電力会社の圧力に屈せずに反対してきたからです。
単純なようですが、彼らがお金の誘惑に屈せず、自然とともに生きる島の暮らしを貫く限り、上関に原発はできないと考えていました。
原発を受け入れると、補助金事業などで一時は潤いますが、豊かな自然環境を壊された地元は、農業・漁業・観光産業が衰退してしまいます。
賛成派と反対派の争いのなかで、地域の繋がりまでも失ってしまう。
そして何もなくなった住民たちは、生活のためさらに原発を欲しがる……。
こうして、原発依存からずっと抜け出せなくなってしまうのです。
祝島の人々のように、一時のカネに左右されず、まっとうに生きること。
子供たちに残したい地元の姿を想像すること。
それを目指すだけで、原発は不要になります」
【祝島映画情報】
原発反対を貫く祝島の人々と、スウェーデンで持続可能社会を構築する人々を描いた作品『ミツバチの羽音と地球の回転』(鎌仲ひとみ監督)が東京・渋谷ユーロスペースにて上映中。全国各地での自主上映など詳しくは公式サイト(
http://888earth.net)で。~~~~~~~~~~~~
原発マネー依存性の患者達に「マネ」てもらいたいものだ。
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