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37歳デザイナーの転職活動

勤続15年、重いしりを上げてついに転職活動を本気で始めました。

「タイとかどうかな?」
クトゥの言葉を、私はすぐにのみ込めなかった。
「日本に入国するのは難しいけど、他の東南アジアの国なら難しくないから」
クトゥの申し出にびっくりした。
「だってsayaに会いたい。何度もバリに来てもらうの大変だよね」
確かにそう。
今は日本からバリへの直行便は限られていて、安く行くなら経由便を使わなければならないから10時間以上かかる。そう何度も行けるところではないのだ。
「だから、日本とバリの間にある国、タイがいいんじゃないかなって」
「えっと、そうだね。でもタイは今政治が不安定だから他の国がいいかも」
「ええ、そうなんだ」
でもクトゥのその気持ちが嬉しかった。

第3国で会うなんて、実現したらアメージングだ。


無事に大手旅行会社に入社が決まったクトゥ。後日、会社のユニフォームを着た写真が届いた。はにかんだ顔が彼らしい。
よかったね。

ところが。
「きょうも休み。仕事の連絡こないよ」
「そうなんだ。オフシーズンだからかな?」
「たいくつだよ」
しばらく仕事がない日が続いた。
やっと仕事が入っても空港へのお迎えだけとか小さな仕事ばかりが続いた。
「1日ツアーとかの仕事は先輩が優先なんだ」
「そっか、入ってからも大変なんだね」
「仕事ないと困る。生活があるからね」
そういう日本語どこで覚えるのだろう。


ところでクトゥは個人でもガイドの仕事をしている。バリでは他の多くのガイドがそう。会社の仕事だけじゃお給料はたかがしれている。驚くなかれ、平均月給は3-4万円なのだ。

「今度友達の紹介でガイドの仕事入ったよ」
「へええよかったね!」
「うん!」
ガイドの公式ライセンスがあるので車さえあれば仕事ができる。丸1日(約8時間)ガイドしたとしてガソリン代込みで6000円。
会社の仕事は半日仕事で1000円程度。
実は個人で仕事したほうが遥かに実入りはいいのだ。
だから、クトゥはSNSを営業ツールとして積極的に日本人とコミュニケーションをとっている。

彼から学ぶことは本当に多い。




「今、ちょっと悩んでいることがあって」
ある日電話で相談された。
「大手旅行会社へ転職を考えてて。入社するには面接や試験があるんだ。今の会社でも悪くはないのだけど」
「ヘぇーチャンスがあるならトライすればいいじゃん!応援するよ」
「ワタシが大手旅行会社に入ったら、sayaはうれしい?」
「クトゥが幸せならそれが一番だよ」
彼が勤めるのは小さな旅行会社。この会社が催行するツアーで私は彼に出会った。
もしその大手旅行会社に入れれば、安定した仕事・収入になる。
「うん、がんばってみる」

それからしばらくして、吉報が入った。
「面接受かったよ!」
「ほんと!?すごいじゃん!」
面接だけでも高い競争率で100人以上受けて合格者はたったの10人だったとか。
でもこれはまだ始まりでしかなくて。受かった10人は丸二ヶ月、会社で研修とテストを受ける。このテストに合格して初めて正式に入社となるのだ。
研修はひたすら暗記。バリの主要な観光スポット10ヶ所以上の日本語の解説文をすべて暗記し、見ないでも言えるようにすること。
ただ暗記するだけだって大変なのに、外国語なのだからその大変さは想像に難くない。しかも研修中は無給だ。
研修と勉強の様子はちょこちょこ連絡をくれ、私は時にはちょっぴり手伝って、見守り、応援した。
本当に必死でがんばっていた。
そして二ヶ月が過ぎた。
「今日、最後のテストなんだ。行ってくるね」
「うん、がんばって。祈ってる」

夕方、SNSでメッセージが入った。
テキストはなくて、泣いたキャラクターのスタンプだけ。。。
ダメだったのかな。。。
その直後、

「ukatta yon」

やられた。
私はオフィスをぬけすぐに電話をした、
「おめでとう!!」
「sayaが応援してくれたおかげ。すごいパワーをもらったよ、ありがとう」
胸がいっぱいで、込み上げてきて、涙がでた。

「だけどね、1人ダメだったんだ。10人全員受かればパーティしようって言ってたのだけど」
彼は落ちてしまった仲間を気遣って合格の喜びをSNSに投稿することはしなかった。
危うく私が投稿しちゃうところだった。

惚れなおした。


彼はバリ島に住んでいる生粋のバリ人。名前はクトゥ、31歳。日本語がとてもうまい。背はそんなに高くなく細身だけど逞しい身体をしている細マッチョ。そして整った顔立ちをしたハンサム。
知り合ったのは私がバリ島を旅した昨年。参加したビーチツアーのガイドが彼でした。 1人参加の私を始終気遣って楽しませてくれた。帰りのホテルが私だけ遠方だったことで、ツアーの車ではなく彼のマイカーで送ってくれることになった。 うち解けるには充分な時間。たくさん話をした。お店も廻ってくれた。レストランで夕ごはんを食べ、SNSのアドレス交換。

旅の素敵な一期一会