先月の後半に、2回に渡って肥薩線の復旧に関する記事を書きましたが、その時に、JR九州さんの社長の発言、

赤字はJRだけがなんとかすればいいということでは立ちいかなくなっている。

に対して、

「鉄道として再建できるかどうか」を人吉球磨自身の課題として取り組んで行く覚悟を持つ必要がある

と指摘しました。

鉄道事業の主体がJR九州さんであることは変わらないでしょうが、乗客を増やす努力の一部を地元が担うことも必要なのです。

何故なら沢山の人が肥薩線に乗ってくれれば人吉球磨が潤うからです。

それに、JR九州さんの福岡本社から各地域の実情を踏まえた個別の事業運営展開の全てを賄うのも無理があります。

なのでニュースになるのは、

ななつ星in九州、2022年春コースの受付を開始

のようなフラッグシップ的/ハイエンドユーザー向けの観光商品ですし、

JR九州、博多駅ビル拡大開発へ 2028年末に完成 

のように確実に採算が取れそうな事業に同社が注力するのは止む負えません。

更には、大変失礼かもしれませんが、元々インフラ/プラットホーム企業さんは、個別分野の攻略が苦手、或いは関心が薄いのが実情です。

そこをカバーするのが各地元であり、あらゆる施策を通じて来訪見込み客にアピールして、旅行先に選定して貰うように自ら働きかけをする役割を引き受けなけれなりません。

例えば、ビール会社は色んなメディアを通じて宣伝することで、多くの人がスーパーや酒屋さんに買いに行くように仕向けます。

少し極端な言い方だし失礼かもしれませんが、この場合の、

  • ビール会社=人吉球磨
  • スーパーや酒屋さん=JR九州さん

と考えれば分かり易いでしょう。

 

肥薩線の乗客増に関して、私なりにアレコレ考えたことを以下にまとめてみましたので、参考にして下さい。

鉄道型修学旅行

これまでも人吉球磨への修学旅行客が居なかったわけでもないのでしょうが、もっと焦点を絞って、鉄道型修学旅行を考えます。

言うまでもなく肥薩線は、鉄道遺産の宝庫であり、wikipediaにも、

九州南部における産業創出とこれを支えた電源開発・物資輸送の歩みを物語る近代化産業遺産群

として、13件の施設が挙げられています。

そこで、既に、特急「いさぶろう」・「しんぺい」号でJR九州さんが提供されている

真幸駅 - 矢岳駅間の日本三大車窓付近では徐行・停車を行った後に観光案内を行うほか、途中駅(大畑駅・矢岳駅・真幸駅)では観光目的のための長時間停車を行う。

を修学旅行客向けにアレンジして、各施設で臨時停車させながら、見学して廻るようにすれば良いわけです。

その際、人吉球磨の方が観光ガイド役を引き受ければ、少しは貢献になります。また、その様子をwebサイトに掲載したり、パンフレットにまとめて旅行代理店の販促ツールとして利用して貰えば良いでしょう。

利用する車両としてベストなのはSL人吉号でしょうが、可能なら平日の特急「かわせみ やませみ」、或いは本家の特急「いさぶろう」・「しんぺい」を特別貸し切り便にして、観光シーズン以外の利用率を向上させます。

過去にこんな形で開催された前例もあることも付記しておきます。

また、ターゲットは、全国の私立中高(特に男子校)です。

理由は簡単で、鉄オタ率が高いからです。また、教員の中にも鉄道ファンがいるので支持が得られやすいのも好都合です。

更には、九州圏内の中学生の修学旅行、大人の鉄道ファン向けのツアー、大学の建築学科・土木学科の学生向けゼミ旅行としても成り立つかもしれません。

でも、実際に具体化するか否かの判断をするのはJR九州さんです。これまでのように「ではJR九州さん、宜しくお願いします。」ではなく、前記のようなガイド役の引き受けや専用ページを作って全国の見込み客へのPR、或いは問い合わせがあった学校には直接出向いて説明すると同時に感触を探ることぐらいは必要です。

「それはJR九州さんや旅行代理店の仕事ではないのか?」という意見もあるいでしょうが、彼ら、或いは学校から見たら人吉球磨は選択肢の一つに過ぎません。

そこから抜け出して選んで貰う為の活動が欠かせないわけです。

先ほどのビール会社の例で言うと、スーパーの店頭で試飲会を開いたりしながら、実際に買い物かごに入れて貰う為の地道な活動もしていることを思い浮かべて下さい。

その為には、最低一名の専任の担当者と印刷費(web製作費を含む)&出張費だけで年間一千万円くらいの予算を確保しておくことになります。

そこまですることを示した上で交渉することで、ようやくJR九州さんでの(実現ではなく、あくまで)検討(レベル)の可能性が出てくるわけで、冒頭に書いたJR九州さんの社長の発言は、やんわりと、そのようなことを要求していると考えるべきです。

尚、2泊3日の修学旅行プラン案を書いておきますので参考にして下さい。

  • 1日目:熊本着 熊本城見学~ミュージアム わくわく座(2階のものがたり御殿がお勧めです。) JR熊本駅より乗車して人吉を目指します。 前記の近代化産業遺産群である坂本駅~白石駅~球磨川第一橋梁~球磨川第二橋梁では臨時停車/一時停車します。 (人吉泊)
  • 2日目:人吉駅から乗車して近代化産業遺産群がある大畑駅(周辺の鉄道施設遺産、石造りの給水塔、朝顔型噴水)、 矢岳駅(SL展示館の保存車)、矢岳第一トンネル(扁額)、人吉機関車庫(人吉駅一番ホームの古レール)、真幸駅、湧水町に残るアーチ煉瓦暗渠、吉松駅横の石倉(燃料庫)、吉松駅前の保存車両(蒸気機関車C55 52)、大隅横川駅、嘉例川駅の各施設を見学します。(人吉泊)
  • 3日目:人吉城址、青井阿蘇神社、永国寺、くまがわ下りorラフティング、昼食後に熊本経由で帰路へ

 

災害復旧見学型修学旅行

元々修学旅行とは、

広義の校外学習(または校外教育)の一種

なので、

  • 日本の歴史・遺産・文化財を学ぶ:京都・奈良
  • 平和学習:広島・長崎・沖縄
  • 現地体験・野外活動(アクティビティ):スキー・スノボ・マリンスポーツ・ラフティング・農業体験

に行くことが多かったわけですが、前記の鉄道型修学旅行は、日本の歴史・遺産学習になりますし、ラフティング・農業体験なら人吉・球磨でも提供できます。

加えて、

毎年どこも同じような内容になってしまうわりには通常の旅行に比べ「高い」という側面があり悩ましい

というのが各学校が抱える課題であり、2020年7月の豪雨災害で被害を受けた人吉球磨の復興の途中経過を見てもらうのも立派な校外学習になりますので、これも2泊3日の修学旅行プラン案を書いておきます。

  • 1日目:熊本着 熊本城見学~ミュージアム わくわく座(2階のものがたり御殿がお勧めです。)JR熊本駅より乗車して人吉を目指します。 豪雨で被害にあった球磨川第一橋梁~球磨川第二橋梁~球泉洞~渡駅では一時停車/臨時停車して見学します。(人吉泊)
  • 2日目:人吉球磨の被災地域、球磨川、川辺川を廻り、市房ダムを見学して当時の状況を学びます。
  • 3日目:人吉城址、青井阿蘇神社、永国寺、くまがわ下りorラフティング、昼食後に熊本経由で帰路へ

 

トロッコ列車

以前から思っていたのですが、肥薩線こそトロッコ列車が走るのに相応しい路線です。

全国的には京都の嵯峨野観光鉄道さんが有名ですが、県内では、高森駅~中松駅までの7.1キロ南阿蘇鉄道さんもあります。

 



また、海外では、スイスの絶景列車が人気で、

全長280kmを約8時間かけて走ることから世界一遅い特急とも言われています。

だそうですが、肥薩線を走らせるにおいても、幸い元々のダイヤはスカスカですから、定時運行への影響を回避しながら自由度の高い特別ダイヤの編成が可能でしょう。


また、くまがわ下りやラフテリングと組み合わせて、

  • 人吉→下り:球磨川下り/ラフティング
  • 上り→人吉:トロッコ列車

とするのも一案かもしれません。

生活路線

肥薩線も本来は、くまがわ鉄道とともに日常生活に利用してもらうことで採算を改善するのが望ましいのでしょう。

しかし、都市部と違って、多くのスーパーや病院が鉄道の駅から離れて立地している人吉球磨では、生活路線としての利用客を増やすことが簡単ではありません。

思いつくのは、

イオンさんが他の地域では既に実施しておられる即日便(宅配サービス)と最寄りの肥後西村からのシャトル便の提供を働きかけて、肥薩線(~人吉)~くまがわ鉄道を利用してもらう

くらいです。

 

そこで、先ずは前記のような外からの旅行客増を目的として、各駅/各地域で地元が提供するアクティビティを整備しながら旅行客が各地で楽しめるようにすることから始めましょう。