創作がだめなときの恒例「断片シリーズ」です(笑)
もちろん独身の頃なのに、なんでこういうの書いたのか不思議。
断片11
私は死の床に横たわっている。
髪が抜けおち、皮膚が乾いて、まるでミイラのようだ。掛け蒲団はなく、やせこけた黒い裸体をシーツの上に無造作に投げ出している。放埒な生活の報いである。
枕元に和服姿の妻が正座して、黙って目を伏せている。
ところが──なぜだか根拠は定かでないのだが、本当は、死にかけているのは妻の方らしいのである。
悲しみが胸を締めつける。なぜ妻が死ななければならないのか。悪いのはすべて私なのだ。できることなら代わってやりたいと思う。いや、どうしても代わらなければならない。苦労ばかりしてきた妻。人並みに楽しい思い出の一つも作ってやれなかった……
私は大声で妻の名を呼ぼうとするが、横臥した私の口は、風に吹かれた雑草のようにかすかに震えるばかりである。
うすく紅を差した妻の唇が、視野のすみでゆっくり動いている。
ポキリと音を立てて私の左腕が折れる。