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菅浩江「永遠の森 博物館惑星」

菅 浩江
永遠の森 博物館惑星

「叙情SFの名手」という評を目にして以来、気になりつつも読む機会がなかった作家。

連作なので少しずつ読み進めたが、正直言って読むのがしんどい。

「脳外科手術によってデータベースに直接アクセスできる直接接続学芸員」というアイデアだけで充分面白いし、彼と同僚たちが扱う作品も興味深いのに、なぜかスラスラ読めない。

難しい科学理論が出てくるわけでもない(そのあたりの敷居の高さは皆無と言ってもいい)し、私自身博物館に興味がないわけでもないのになぜだろう?

1:登場人物に共感できない

・・・田代孝弘はミューズ・アテナ・デメテルの三部門の上位(というと語弊があるが)に位置するアポロンに所属し、毎度各部門の調整に頭を悩ませている。この設定は面白い。専門の異なる部門のあいだの摩擦も現実的。でもそこを面白く読むには至らなかった。

他人を表現する言葉は苦笑・失笑まじりで批判的なのに、本人はというと小役人くさくてさほど面白い人とも思えない。

まあ愚痴というのはそういうものだけど、私自身の周りの人間を考えるに、愚痴にも「芸」がある人とそうじゃない人がいて、上司・同僚・部下、そして時には配偶者をこきおろしつつ自分も含めた状況そのものを客観的に笑える人の愚痴は聞いていて面白い。この主人公が友人だとしても、私は彼の愚痴は聞きたくないなあ。

彼以外の登場人物も今一つ魅力的に思えないのは、作者の共感が感じられないからか?

2:扱われる「芸術」が古典的すぎ?

・・・これは趣味でしょうね。地球規模の「公立」(半官半民らしいが)博物館が保守的でないわけがない。まあそれはそういうものとして納得。

博物館惑星を宇宙に浮かべられる未来の芸術観なんて想像するだけで一苦労だし、そこに没入してしまうと物語が進まないだろうし。

でもなあ…未来の博物館のエントランスにも人物の彫像があるって、なんだかガッカリ。

3:SF的描写が薄味

・・・これも趣味?ファンタジーだからこれぐらいにとどめるのが適当なのかも。

脳外科手術でデータベースに直接接続なんていうと即サイバーパンクを連想してしまうが、主人公の肉体的な感覚をおすそわけしてくれるような描写は殆どなく、それが不満といえば不満。

関係ないけどドラえもんに出てくる「おすそわけガム」ってすごいアイデアだ。技術的裏付けは一切ないけどすごい。


人間関係のごちゃごちゃを書きながらまったくユーモアやペーソスが感じられないのも私には辛かった。

美の感覚は人それぞれ、ということは作品中にも出てくるけど、笑いのセンスも同じことで、作者はユーモラスに書いていても私には感じ取れないということもある。

結局、作者と趣味が合わないんでしょう。

…で、略歴を見て「ああ、京都の人か。そりゃ(私と合わなくても)しょうがないな」と思ったりして。

いや、私の好きな「芸のある愚痴」を吐く友人は京都人なので関係ないか…。

古い友人に学芸員がいて、彼女の話もサラリーマンにはSFというかファンタジーだったりする。

上掲の小説が面白く読めなかったのは、現実の学芸員の話を聞いたり読んだりする機会が多いからかも。

三木 美裕
キュレイターからの手紙―アメリカ・ミュージアム事情

アメリカの博物館は私立が大多数らしく、外部から予算を調達するために様々な活動をしている。私が漠然とイメージしていた、外国の美術館やギャラリーは何かと言えばパーティー…というのはそのへんと関係するらしくて、大変面白かった。テロや災害の影響で企業の寄付が義援金に流れて博物館が潰れたという話も興味深い。

著者は学芸員といっても研究職ではなく、ミュージアム・エデュケイターと呼ばれる教育部門の専門家。

なのでこのタイトルはちょっとどうかな。(まあ「キュレイター・オブ・エデュケイション」という言い方もすると文中にあったしいいのか。)


虎のパンツ

米amazonが短編作品のダウンロード販売を始めたとか。

その名もAmazon Shorts

ターザンの腰巻を連想したのは私だけではないはず。


本については割合保守派でいつまでも紙から離れられない私にも、49セントという値段はちょっと魅力的。

なにしろ文庫の価格高騰に財政を圧迫されているので…。

(基本的に、読みたい&書店で入手可能な書籍はできるだけ買うようにしている。もちろん資金は有限なので「払うに足る」と思える場合だけだが、志高く採算は低そうな企画には献金したくなるのが人情。日頃から「本は図書館で借りる」とか「文庫落ちしたら読む。しないなら読まなくてもいい」と断言する同業者がいるが、なんとなく悲しいものがある。まあ外食産業で働く人が自炊派だからといって業界人として意識が低いということはないのだし、かの人の読書量は私なんかの比じゃないのかもしれないし、本はたしかに安くはないし…。)

とりあえずは客を呼ぶためのオマケ的なものなのかもしれないが、未知の作家や分野に対して敷居が低くなるのは良いことだ(と思いたい)。

短いエッセイやショートショート、「悪魔の辞典」みたいなのを携帯でダウンロードできたら電車待ちの間に読めてよさそう。

ウェブ上には無料で面白いコンテンツが山盛りあるけど、そこはプロの腕の見せ所ということで頑張ってもらいましょう。

私はミステリやホラー、SFのアンソロジーが結構好きで、内外問わずこれらの分野には慧眼のアンソロジストがいるものだけど、短編ダウンロードが一般的になったらiTunesのプレイリストみたいなマイアンソロジーが流行るかな?

(ブクログあたりにそういう機能があったら面白い。あ、そういえばブクログ 始めました。)

で、日本でこれをやるとなると「Deep Love」とか「電車男」とか出てきて、結局ユーザーが逆流・循環したりしてね。

トロントロン物語

かなり遅い反応であるが、「トロン」がリメイクされるらしいと聞いて複雑な気分。

私は未だにSF映画といえば「ブラジル」と「ブレードランナー」と「トロン」という昭和な人間なので、どんな風にリメイクされるか大変気になる。

幼稚園児が携帯電話を使っているのを目撃したような、そこはそっとしておいてほしかった…という勝手な願望がなくもない。

いっそ監督はテリー・ギリアムあたりにやってもらえないだろうか。もう決まってるのか。うーん。


ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント
トロン

主演がジェフ・ブリッジズだったことに今ごろ気づいた。

ジェフ・ブリッジズといえば「フィッシャー・キング」なので、やっぱりギリアムで。だめか。うーん。


ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
フィッシャー・キング

今回の「トロン」にシド・ミード は参加するのか否かも気になるところ。

「トロン」と言えばCGがヌルいとか話が他愛ないとか言って切り捨てる御仁もありましょうが、生理的に気持ちいい、美しい、官能的なヴィジュアルは、現在のフルCG映画にも負けていないと私は思う。

なにしろ他愛ない話+生理的に気持ちよいヴィジュアルと言えばディズニーのお家芸。

(最近のディズニーアニメは全然気持ちよくないけど、これは私がトシなのか?)

あのエロい曲線美が私の子供心に強烈な印象を焼きつけたに違いない。

今日の結論:子供はエロが好き。

ホットメール

友人Nよ、件名「暑い!」本文「暑い!」というメールを寄越すのはご遠慮願いたい。

どうやら生きてるげです。
この「~げ」ってどうですか。私は結構多用している。ダメな30代。
特に「ダメげ」「アカンげ」「アウトげ」「(提案が)通らなげ」「(資金が)ショートげ」「(新入社員が)辞めるげ」など、ネガティブな方面に多用しがち。
会社ヤバげ。


さて、カエル博士ことしゅんさん からいただきました、キューティクルマトン。
オンオフともに友達の少ない私が受け取る日が来るとは。さすが21世紀は一味違う。
夢オチってことにならないうちに回答しましょう。

●Total volume of music files on my computer (コンピュータに入ってる音楽ファイルの容量)
6.58GB
・・・iTunesを使いたてのころに嬉しがって突っ込んだんですが、最近触ってない。

●Song playing right now (今聞いている曲)
Insensatez/Antonio Carlos Jobim
・・・うだるような暑さに似合う曲。何もしたくない。

●The last CD I bought (最後に買ったCD)
・・・マジで思い出せない。山下達郎の何かだと思う。

●Five songs (tunes) I listen to a lot, or that mean a lot to me (よく聞く、または特別な思い入れのある5曲)
◎This Must Be The Place/Talking Heads
・・・葬式か結婚式でかけてほしいですね。泣ける。
◎Absolute/Scritti Politti
・・・初めて自分で買った洋楽のLP。(邦楽は「絶対チェッカーズ」)
◎Ederlezi/Goran Bregovic
・・・映画「ジプシーのとき」でこれがかかった瞬間、ぶわっと涙が出た。
◎今夜はブギーバック/小沢健二とスチャダラパー
・・・今思うと楽しかった時代のサウンドトラックです。
◎ガールフレンド/The Pillows
・・・この頃のピロウズも好きです。

●Five people to whom I'm passing the baton (バトンを渡す5人)
・・・5人て。ムチャ言わないで下さいよ。とりあえず核子ちゃん、アンドぽん兄さん、見てたらヨロスク。

Talking Heads
Popular Favorites 1976-1992/Sand In the Vaseline

スクリッティ・ポリッティ
キューピッド&サイケ85

Goran Bregovic
Music for Films


30女がメシを喰う

最近ろくなものを食べていない。

なにしろ暑い。何を見ても「腐ってませんように…」と思ってしまうほど暑い。

それに、カネがない。一食に1000円以上かけたくない。

その上、あきらかに太ってきた。

 

私はグルメではない。味オンチとまではいかないが、舌が肥えているとも言えない。

レトルトの親子丼やインスタントラーメンでそれなりに過ごしていける人間である。

が、そんな私でも素麺ばっかり食ってると情けなくなる。

内臓が白っぽくなってるんじゃないか?とか、なぜにウン(略)は白くないのか?(つゆの色?)とか考えてしまう。

 

 

よしなが ふみ
愛がなくても喰ってゆけます。

よしながふみ「愛がなくても喰ってゆけます。」を読んだ。

掲載誌(マンガ・エロティクスf)の性格上か、タイトルと第1回の冒頭(「YながFみ 男同士のアナルセックスを描いて生計を立てる31歳」云々)はちょっぴり挑発的だが、女性作家のグルメものとしてはさほどワンパクな作品ではない。

漫画家「YながFみ」と同居人(恋人に非ず)、友人、彼氏、先輩、仕事仲間がご飯を食べに行く。

ある書評では「食べ物の描写がおいしそう!」と絶賛されていたが、そうかな?と思った。

確かに綺麗に丁寧に描かれているのだけれど、綺麗すぎて少々物足りない。特に寿司と焼肉は迫力に欠ける。

(ちなみに私がこれまでマンガに出てきた食べ物で最もウマそうと思ったのは、黒田硫黄の肉じゃがとギャートルズのマンモス肉。なので私の感性に問題があるのかもしれない。)

食べ物の絵よりも、食べてる顔とセリフがいい。

特に人物の表情は完全にエクスタシーの境地で、それで掲載誌の趣旨に合ってるのかと納得。

彼氏じゃない同居人や女友達やゲイの友人や美貌でおバカな40男と美味いものを喰うのは、セックスじゃないけどセックスみたいな、ひとときの濃密な関係を結ぶことなのかもしれない。


 

登場人物はフィクションと明記されているので、よしながふみが実際に「YながFみ」のような生活をしているかどうかはわからない。

「Yなが」は普段はものすごい不細工で化粧をしてドレスアップすると派手め美女、ブラを外して横になっても乳の山があるナイスバディである。

このあたりの描写や合コンでのヤンチャっぷりに「引く」と言う感想も見られたが、私は結構共感を覚えた。

こういうのに引く人は20代じゃないかな。(でも私も一條ゆかりには引くけどね。)

実際、化粧をしたらそれなりにモテもするが、化粧を落とすとあまりの惨状に自分でも正視に堪えかねるという認識は、普通の(美人じゃない)30代女子においてはわりと多数派じゃないだろうか。

乳の形状なんかも30過ぎるとたいした問題ではない。あれば揉まれるが、それ以上でも以下でもない。

そういう意味でこの「自画像」は、少々自意識過剰な普通の30女としてはリアルだと思う。

(自意識過剰じゃない30女?逆にちょっと気持ち悪い。)

 

 

 

よしながふみはボーイズラブの分野では結構以前から売れっ子らしく、「西洋骨董洋菓子店」で一般にもブレイクしたようだが、私はずっと昔に読んだ「こどもの体温」で覚えていた。

父子家庭の話で、ぬるいようでそうでもない親子関係が面白かった。

コマの使い方が非常に独特だった記憶がある。

それと最近「メロディ」か何かに連載していた「愛すべき娘たち」をコンビニで立ち読みした。

疲れていたので泣きそうになった。



よしなが ふみ

こどもの体温
よしなが ふみ
愛すべき娘たち
副題が「All My Darling Daughters」。
コニー・ウィリス「わが愛しき娘たちよ」の原題と同じ、っていうのは特に意味はないんだろうか。

こーまんとへんけん

何を隠そう英文学を専攻していた私ではあるが、ジェイン・オースティンは読んだことがない。

多くのイギリス文学のよいところは「もっとトシ食ってから読んだ方が面白そうだな」と棚上げしておけるところである。

アメリカ文学ではこうはいかない。

「定年後にゆっくり『ライ麦畑』を読もう」という人もいるかもしれないが、やはりレアケースなのではないか。


村上 春樹, 柴田 元幸
翻訳夜話2 サリンジャー戦記

どうでもいいことではあるが、コバルト文庫を殆ど読んだことがない。

いわゆるライトノベルというのも読んだことがない。

別に何時読んでもいいし読まなくても生きていけるのはわかってるけど、読むのに適した年齢を逃したようで悔しい。

私の人生には読書に限らずそういう「やりのこし物件」が腐るほどある。

よほどのことがない限りもうやることはないだろうあれこれ…第二ボタンを貰う、ホームステイする、ガンジスを流れる死体を見る、「手紙」で愛の告白をする(される)、誰かを「グーで」殴る、等々。

穂村弘が平積みになるということは、たぶん他の人たちの人生もそうなんだろう。


穂村 弘
現実入門

象は世界最大の昆虫である

ガレッティ先生が帰ってきた!

ハードカバーで持っていたのを人にあげてしまったので、このたび白水uブックスから再刊なったのを機に買いなおした。

しかし(池内紀ブランドとはいえ)白水社さんは偉い。変な(素晴らしい)タイトルのままなのがいい。


著者: 池内 紀
タイトル: 象は世界最大の昆虫である

1世紀以上前のギムナジウムの教師・ガレッティ先生が授業中に漏らした失言を生徒が書きとめたものという。

失言と言っても昨今のエライ人のわざとにしても芸の無いお言葉とは違い、剛速球で場外暴投しながら完全試合にしてしまうような、その博覧強記ぶりと深い人生経験がしのばれる、悠揚迫らざる名失言だ。


「地中海の島々は例外なく、シチリア島よりも大きいか、小さいかのどちらかである」

一瞬納得しそうになる(「東京の上り坂と下り坂はぴったり同じ数」の類か)。

「ペルシャはドイツより四倍も広い。ということは、二倍の半分である」

あたりも好きだが、

「水は沸騰すると気体になる。凍ると立体になる」

などは万人受けする名作だろう。ちょっとうますぎな気もするが。


はっきり言って上の三つは序の口。全ページこの調子で945円(税込)。

安い。安すぎる。いいのか白水社。

白水社さんのサイト に行ったら是非ページ上部のロゴをクリックしてほしい。


24時間ストレスと戦う現代人として、会社に1冊、家庭に1冊、通勤通学用に1冊、計3冊は持っておくべき名著。

余裕があればトイレとお風呂に各1冊置くとモアベター。

お笑い番組のヒステリックな哄笑に疲れたらベランダに出てビールでも飲みつつ読むといい。

世界最小の猛獣・蚊に刺されながら。

魂の風呂

6月にもなるとさすがに蒸し暑い。4時頃には風呂が恋しくなる。
だが帰宅した頃には風呂に入るのも面倒。
まるで遠距離恋愛だ。
離れている間はあれ程切なく思いを馳せた恋人であっても、いざ会うと「今日は疲れてるんだ。明日にしてくれ」と邪険にあしらってしまう。悪い男である。
悪い男ではないが風呂は面倒だ。
一旦座ってしまうと立ち上がって風呂場に行くのがしんどい。
便宜的に居間扱いしている空間から風呂場まで、何か見えないシールドが張られているかのような抵抗を感じる。


ソール(ソウル)・バスという超有名デザイナーがいて(故人ですが)、名前は知らなくても「サイコ」等のタイトルバックや各種映画ポスターで彼の作品を目にした人も多いと思う。
私は昔からこのソール・バス氏の仕事が大変好きだ。
タイトルバックと言えば少し前にカイル・クーパーが「セブン」の仕事で話題沸騰(死語)になったことがあったが、確かにかっこいいとは思いつつアナクロ人間な私は「ちょっと過剰すぎ」などと生意気なことを思ったものだ。
閑話休題。
ソール・バスについては、中高生の頃には既にヒッチコック作品のタイトルバックを意識して見ていたので、おそらく子供の頃家にあった雑誌か年鑑で目にして刷り込まれたのだろう。
たしかに色も形も簡潔ながらインパクトの強いソール・バスのデザインは、子供にも訴えかける力を持っていると思う。
しかし母親の証言によると私は言葉に関しては非常に早熟な子供だったという話なので、むしろデザインより彼の名前に惹かれていた可能性が浮上してきた。
ソウルと言えばソウル・トレイン、バスと言えばバスクリン。
なんだか体がウズウズするほどホットな風呂――と子供が思っても仕方がない。
(私の子供時代にはソウル・トレインは放映していなかったが、それなりに馴染みのある英単語だろう。)
私が英語を学び始めるのはずっと後のことである。


Saul Bass on the Web. ウズウズするほどクール。
http://www.saulbass.net/


Saul Bassの作品を収録。残念ながらSoul Bathは収録されていない。

著者: アイデア編集部
タイトル: ソール・バス&アソシエーツ

深夜の愉しみ

最近、夜にテレビを見ることが皆無に等しい。
朝の支度をする時に時計代わりにつけているぐらいだ。
そんな私が唯一ひいきにしている番組がある。

「学校デジタルライブラリー」
http://www.nhk.or.jp/clip/

学校の理科や社会、総合的な学習の時間に利用するために作られた、非常に短い映像(クリップ)を50分間流しつづけている。
というのは今調べてわかった。番組の長さ自体、私は知らなかった。
なんとなくウダウダ起きててつけっぱなしのテレビをちらっと見るとやっているという認識だった。
だから「あれ見たいな」と思ってもいつやっているかもわからない、偶然の出会いを待つしかない、そんなハプニング的存在だった。
それが正式な番組名を知ろうと検索してみたら「火曜日2:00~2:50(月曜日深夜)」とわかってしまった。なんだかガッカリだ。
しかも私のお目当ての「理科」は今年はやらないようだ。最悪だ。

それはさておき、私が見所と考えるのは各クリップの末尾。
エサを運んでいるアリや発芽するイネがいきなり静止する瞬間、なぜか毎回笑ってしまう。
(このおかしさは見てもらったらわかるとおもうんだけど。)
各クリップは大体1分とか2分程度なので、つまり私は火曜の深夜2時頃に、1分とか2分おきに笑っていたわけで、これは結構やばい。気持ち悪い人だ。


私のパソコンは「いずみきょうか」と打つと「泉強化」と変換してくれる。
ものすごく鏡花っぽくない。
試しに他の文学者でもやってみよう。

芥川龍之介
北原白秋
武者小路実篤
菊池寛
公だろ版
谷崎準一郎
直樹三十五

幸田露伴以外は正解か、まだしも人名っぽい。
でも「直樹三十五」は「アイコ十七歳」みたい。

インフォームド・コンセント

AmazonWebが見えなかったのはOperaだったからか。違うのか?まあいいや。

以上、独り言。


すっかり初夏だ。さわやかな容器。風邪香る五月。

さすがは手になじんだマシン、変換にソツがない。

ところで先日健康診断があった。

社会人歴も長くなったので私もすっかりベテランだ。

とか言いながら毎年忘れる保険証を今年も忘れた。

年に一度のことなので、あまり変わったことはしないほうがいい。あくまで平常心。

受付のお姉さんに「検尿が終わったら検査着に着替えて、下着はパンツ一枚になって下さい」と言われる。

パンツ一枚になることをこんなに丁寧に依頼されるのも年に一度のことだ。

あと一年間は「パンツ一枚になって下さい」とお願いされることもないと思うと少々寂しい気がする。

寂しい気持ちのままトイレで検尿に臨む。ノルマは50ml。

前方に古びた貼紙がある。

〈はじめの尿は捨てて、中間の尿を採って下さい〉

毎年思うことだが「中間の尿」ってなんだ。

初めがあって、終りがある。そのあいだを中間と言う。

尿が出はじめる時はわかる。が、いつ終わるかはその時になってみないとわからない。

まるで人生だ。

30才というと人生の半ばにも達していないように人は思うかもしれない。

だが32才で死んだブルース・リーにおいては、30才は晩年である。

そんなことを考えながらもベテランらしさを遺憾なく発揮し、きっちりノルマをこなす。

何年もやっていればよそ事を考えながらでも大体4合目~6合目のあたりで多からず少なからず必要分だけ採尿できる。

この後婦人科検診を受けるので、念入りに拭いておく。

医者という人種はやはりプライドが高いから、あまりしっかり拭けていなかったらヘソを曲げて診てくれないかもしれない。

婦人科検診というと若干ナーバスになる女性もいるらしいが、私と一緒に部屋の外で待っている女の子たち(知り合いではない)はなかなかの剛の者で、遅刻したらしい医師を看護師がPHSで呼び出す間も中を覗いて「なんか見える?」と言い合っている。君らは小学生か。

医師が遅刻している間にわれわれは各々小部屋をあてがわれ、「パンツを脱いでタオルを巻いておいて下さい」と指示される。

パンツを脱ぐよう指示される場面も、ありそうでなかなかない。しかもおばさんに。

遅刻医師がやってきたらしい。私は二番目に呼ばれた。

分娩台と美容院の椅子のハイブリッドのようなものに座らされる。

ぐるっと回転して、下半身だけがカーテンの向こうにいる医師と看護師の前に現れる仕組みだ。

私はベテランなのでパンツを脱いで大股開きになることぐらいは朝飯前であるし、今さらモジモジするようなご大層なものでもないとわかっている。

リラックスして見えない手に下半身をゆだねようとした瞬間、遅刻医師が言った。

「ティッシュついてますけど、取りますよ」

黙って取れよ。

なんでいちいち聞く?

インフォームド・コンセントか?

まさか「なるべく温存する方向で」と言うとでも思ったのか?

横にいるはずの看護師はもちろん、隣のブースの女の子にも聞こえただろう。

しっかり拭いたのが却って徒になった。

ティッシュがついていたとは。

なんたる失態。

負けだ。惨敗だ。

やはりベテランなどと思い上がったのがいけなかった。

来年は初心に返って謙虚に受診しようと思った。



著者: 山田 太一
タイトル: 生きるかなしみ