©1982 Kam Sai (H.K.) Company  

© 2018 Taiwan Film Institute. All rights reserved.

 

 

台湾を代表する映画監督・ホウ・シャオシェン(侯孝賢)のデビュー2作目となる作品が『風が踊る(原題・風兒踢踏踩)』。

1981年の公開だが、この度、デジタルリマスター版として日本での上映が間もなく始まろうとしている。

 

 

風兒吹呀吹〜(風は吹く吹く)♪雲兒飛呀飛〜(雲は飛ぶ飛ぶ)♪

 

冒頭、澎湖島をバックに、80年代の人気歌手・寶玲の歌う軽やかなテーマソングが流れる。

主役の女性カメラマン・幸慧と、CM監督・羅仔は台北で同棲している恋人同士だ。香港出身の羅仔の話す中国語には特徴がある。

CM撮影で澎湖島を訪れている一行は、盲目の医師・金台を見つけ、彼にCM出演を依頼したことから、三人の運命が動き始める。

台北で、偶然、金台と再開する幸慧。

金台の失明の原因は、救急車を運転していた時の事故によるもので、角膜移植を受ければ治ることを知り、運良く手術の機会が巡ってくる。

目が見えるようになった金台は、故郷の南投県にある鹿谷で臨時教員となっている幸慧に会いに行き、彼女への気持ちを再確認し、プロポーズする。

一方、羅仔は幸慧との婚約を進めながら、一緒にヨーロッパ旅行の準備もしている。

ヨローッパ旅行は幸慧の夢だ。

羅仔よりもまっすぐで一途な金台に心を寄せながら、ヨローッパに旅立つことを諦められない幸慧。

ラストシーンの空港には、彼女を待つことを決心した金台が現れ、彼女を温かく送り出す。バックには、再び冒頭に流れていた歌声が聞こえてくる。

 

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澎湖島の素朴な風景に、緑深い鹿谷、人混みの台北など、映し出される約40年前の台湾の景色はどこも懐かしさで満ち溢れていた。

ドロドロになりがちな三角関係だが、本作は気持ちいいほどスッキリとしていて、爽やかだ。

2・28事件を扱った『悲情城市』を代表作に持つホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督のイメージとは違い、大分軽やかで、身近な恋愛物語ではないだろうか。

懐メロのように、台湾の歌が次々と挿入されているのも楽しい。

個人的には、当時、台湾社会が大きく変化しようとしているさなかの若者たちに対して「仕事も恋も夢も、ワガママに全てを手に入れなさい」、という監督からのエールのように感じられた。

 

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また、鹿谷の学校の子供たちがかわいい。

私は、1970年から80年にかけ、台湾の学校に通っていたが、映画の中の子供たちと制服や髪型までがほとんど同じで、とても懐かしく思い出された。

 

青青校樹 芭樂蓮霧 鳳梨西瓜攏有♪

(木々は青々と茂り グアバもレンブーも パイナップルもスイカもなった)

 

子供たちが合唱していた歌は、日本の仰げば尊しの中文版だ。ただし、台湾のフルーツや豚足や香腸といった食べ物を歌詞とした替え歌となっている。同世代なら、一度は聞いたことがあるので、これも懐かしい。

 

 

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ちなみに、私にとって、主役の女性カメラマン・幸慧を演じた鳳飛飛の印象は、歌手であり、人気テレビ番組の司会者として、テレビで見かけない日はないほどの大スターだった。

テレサテンと並んで国民的歌手として評価されてきたものの、日本で歌うことがなかったため、日本での知名度はテレサテンより大分低いように思える。

それでも、コンサートなどでは、日本語で最初に覚えた歌は美空ひばりの「花笠道中」だと話し、正確で綺麗な日本語で披露していたという。

衣装に帽子を取り入れることが多く、彼女のトレードマークになっていたが、2012年、癌を患い、58歳という若さで逝去した。

ホウ・シャオシェン監督の映画を通し、思いがけず、私の記憶に残っていた鳳飛飛の姿を見ることができ、あれこれと思いを巡らせた一作である。

 

 

台湾巨匠傑作選2021では、ホウ・シャオシェン監督の『悲情城市』や劇場初上映となる『フラワーズ・オブ・シャンハイ』、『童年往事 時の流れ』『黒衣の刺客』だけでなく、『天空からの招待状』『軍中楽園』『大仏+』などの話題作も上映される予定だ。

 

詳細

台湾巨匠傑作選2021  監督デビュー40周年記念

2021年4月17日〜6月11日 新宿K's cinema他順次上映