5月25日、台湾の俳優・呉朋奉さんが55歳という若さで急逝されました。
死因は出血性脳卒中だそうです。
前日までFBで近況をアップしていた呉朋奉さん。
知らせを受け、悲しみよりも先に——どうして?なぜ?、という思いばかりが先行し、昨日は一日中心落ち着かず、呆然としていました。
(台南での撮影、衣装チェックする呉朋奉さん)(写真:AMuy Talus Mayaw)
映画《ママ、ごはんまだ?》(白羽弥仁監督・2017年/中文タイトル《媽媽,晚餐吃什麼?》)の中で、台湾人であった私の父・顔惠民を演じてくださったのが、呉朋奉さんです。
最初、呉朋奉さんが父の役に決まったと監督から伺った際——大丈夫かしら?、と正直思いました。
何故ならば、父は丸顔で頭の毛が薄く、呉朋奉さんの外見とは全く違っていたからです。
ところが、心配は杞憂に終わりました。
(台南での撮影、アイデンティティーに思い悩む重要なワンシーンを前に)(写真:AMuy Talus Mayaw)
初めてお会いしたのは台湾の撮影現場です。
父が日本人と台湾人のアイデンティティーに悩み、その思いを吐き出す重要なシーンの撮影前にこう言ってくださいました。
「我理解妳爸爸當時的心情」(あなたのお父さんの当時の気持ちを理解しました)
そして、「你爸爸很會喝酒,抽煙」(お父さん大酒飲みのヘビースモーカだな)と言いながら、タバコの持ち方の癖やお酒について色々と尋ねられました。
ご自身もお酒が好きで、タバコを吸うことから、自然に役に入られ、実際には見たことのない“若かりし日の父”が、本当に眼前に現れた、と感動したことを覚えています。
また、「看了妳的書,寫說你爸爸一直躲在房間裡不出來,是真的嗎?妳怎麼看妳的父親」(あなたの書いた本を読み、お父さんが部屋に閉じ籠って出てこないとあったが、本当ですか?あなたはお父さんをどう思っていましたか)などと、終始私の父について理解を深めようとして下さった役者魂に心打たれました。
(寒波の中、台南での戸外撮影)(写真:AMuy Talus Mayaw)
台南での撮影は大寒波に襲われました。
暖を取りながら、日本語のセリフを何度も、何度も繰り返しつぶやいていたことも印象に残っています。
打包記憶的人生之味┃ 一青妙 × 吳朋奉 ┃(写真:小日子)
後日、映画のご縁で、台湾のカルチャー誌『小日子』(No.62)で対談の機会がありました。
映画のイメージとは180度異なる、個性的なファッションで現れた呉朋奉さん。
対談内容は、家族と料理についてでしたが、実は呉朋奉さん自身が料理を作るのが得意で、人に振る舞うのが大好きなのだとか。
私にも、「今度食べにきなよ」と誘って下さいました。
数々の作品に出演していらっしゃる呉朋奉さんですが、個人的に大好きなのが《父後七日》(2010年/邦題:《父の初七日》)。葬儀を扱った映画で、道士役の呉朋奉さんはコミカルな演技からシリアスな演技まで披露されていて、とても印象深かったです。
(プライベート旅行で石川県を訪れていた呉朋奉さんと偶然の再会!)
舞台からテレビ、映画と、演じることを心から愛した呉朋奉さん。
台湾での報道を読み、呉朋奉さんが外省人の家庭で育ちながらも、台湾人にとっての台湾語を大切に思い、社会運動にも関心を持たれていたことを知りました。
まだまだやりたいことはたくさんあったと思います。
日本でも役者として試してみたいと話していらしたのに、本当に残念でなりません。
ありがとうございました。
あなたの父の演技は忘れません。
私にとって、若き日の父は、あなたと今でも重なっています。
心より御冥福をお祈り申し上げます。