(4/29掲載 北國新聞より)

 

北國新聞にて連載中の「人生妙なり」。

歯科医師として、『食べる楽しみ失わせない〜コロナ時代の歯科医』と題してエッセイを寄稿しました。

 

様々な施設で心配される新型コロナウィルスへの感染。

歯科医院も例外ではありません。

しかし、もともと歯科は、唾液や血液などを伴った環境での治療が前提となっているので、新型コロナウィルスの流行前から、しっかりと「標準予防策(スタンダードプレコーション)」(すべての人は伝播する病原体を保有していると考え、患者および周囲の環境に接触する前後には手指衛生を行い、血液・体液・粘膜などに曝露するおそれのあるときは個人防護具を用いる)を行い、器具・器材も使い捨て材料を使用し、消毒、滅菌を実施している医院ばかりです。

 

また、新型コロナウィルスの特徴を考え、換気を十分に行っている先生も多いので、必要以上に恐れないでください。

 

歯は健康の源です。

美味しいものを食べることで免疫力も向上します。

口腔ケアを怠れば、様々な病原体に感染しやすくもなります。

 

どうぞ担当の歯科医と相談の上、定期検診やこれからの治療を決めていただければと思います。

特に現在歯科医院に通院中のみなさま。せっかく治療している歯がダメになってしまう恐れがありますので、決して、自己判断で中断しないでください。どうか担当医とご相談の上、最良の方法を選択してください。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

以下、エッセイ原文

 

 

新型コロナウィルスの感染が広がるなか、いま最も心配されているのが「医療崩壊」を含めた病院の対応である。感染症や呼吸器とは違う専門の医師たちも、非常に悩ましい状況に面している。私のような歯科医も例外ではない。

最近、米紙ニューヨーク・タイムズにちょっと怖くなる記事が掲載されていた。各職業別の感染リスクを表したグラフで、最高位が歯科医となっていたことだ。人との距離が近く、感染し易いことが理由である。

私自身、歯科医としてここ15年ほど、介護施設での往診を主に行っている。施設では、入居者の健康を守り、感染を防ぐため、家族の面会を全面禁止にしているほか、施設見学や新規入居を自粛するなど、緊張感は高まっている。ただ、入居者にとって歯の健康は大切だ。食事を摂るための歯の治療や義歯の調整、誤嚥性肺炎を予防するため口腔ケアは欠かせないので訪問診療は不可欠だ。診療所の方へも「治療に行っても大丈夫でしょうか」といった問い合わせが相次いでいる。

私の知り合いの開業医の間でも、休業を選ぶ人と選ばない人に分かれており、どちらが正しいとも言い難い。患者の需要があれば、診療を行うことは医療従事者としての責務だ。

しかし、万が一、スタッフや来院者に感染者が出てしまうと、多くの人に迷惑をかけることになってしまうリスクは無視できない。

台湾やアメリカでは、歯科医師に対し、定期検診や歯石除去など、緊急性を要しない歯科治療をしばらく見合わせるような要請を行っている。歯科医院のクラスターが滋賀県で発生したため、日本でも同様の動きが広がっている。

私も、まだ結論は出ていない。正直、感染への恐怖心がないわけではない。しかし、こうした時だからこそ、求められる治療は続けたい使命感もある。

はっきり言えるのは、新型コロナ対策上、口腔ケアはとても重要だという点だ。

日本歯科医学連合会の新型コロナウイルス感染症対策チームは、「ウィルス感染に対抗する歯科の重要性」という呼びかけで、口の中を清潔に保つ口腔ケアは、ウィルス感染への水際対策になると指摘している。

口腔ケアをおろそかにすることで、腸内細菌のバランスが乱れ、免疫力の低下につながる。新型コロナによるウィルス性肺炎と、口腔内の細菌による細菌性肺炎のダブルパンチとなれば、命を落とす危険性がより高くなる。

日本を含め、世界における新型コロナの広がりを見る限り、残念ながら、1、2ヶ月という短期間で収束するとは考えにくい。感染力の強さや未発症の感染者がいること、ワクチンの開発にかかる時間、今後の流行再発なども念頭に入れると、残念ながら、新型コロナとは年単位の長さで付き合っていくことが前提になりそうだ。

いくら緊急事態宣言が出されてるとはいえ、歯の痛みを我慢して食べる楽しみをまったく失ってしまえばストレスがたまる。必要な歯科での治療を受けつつ、うがいや歯磨きで家庭でも十分な口腔ケアを心がけ、免疫力アップにつなげて欲しい。

歯科医の側も、慎重に患者さんと向き合いたい。院内感染を防ぐため、マスクやグローブ、ゴーグルを着用し、治療器具の滅菌、消毒液による待合室の清掃、定期的な換気など、感染対策を通常より強化し、安心して通院できる環境を整えながら診療を行うことが大切になる。