台湾で発売中のエッセイ集『妙台灣』の宣伝活動中、どうしても見たかった映画<陽光普照 A Sun>(邦題:ひとつの太陽)を見てきました。

 

この映画は、 釜山国際映画祭やトロント国際映画祭、2019年・第32回東京国際映画祭「ワールド・フォーカス」部門で上演されました。

今年の金馬奨の作品賞や監督賞、最優秀主演女優賞、最優秀主演男優賞など、11部門にノミネートされており、本年度の台湾映画大ヒット作「返校」と並び、大本命とされている作品です。

 

私は、2010年に上映された《第四張畫》を見て以来、本作品の監督・鍾孟宏(チョン・モンホン)さんの大ファンとなりました。その後上映された《失魂》や《一路順風》はもちろんですが、過去の《停車》に《醫生》もビデオを購入し、見てきました。

 

樹木、湖、海、山、雨、風、木の葉、昆虫……。

鍾孟宏監督の作品は、とにかく光が生み出す「陰影」が美しく、一度その映像を見れば、心のどこかに焼き付けられ、残像を忘れることができません。

また、「生」と「死」の象徴となる「血」も、美しく表現されてしまう不思議さがあります。

切り取ってくる自然界の一コマ一コマを、限りなく暗く深い闇に落とし込む技が素晴らしく、そこに果てしない恐怖と不安感が重ねられ、物語はより一層厚みを増して大スクリーンに放出される気がします。

多くのCMを撮られてきた経験によるものかもしれませんが、監督の心の奥底にある、太い幹が、全ての作品を貫いているのだと思います。

 

 

 

 

<陽光普照 A Sun>の主人公は、どこにでもあるごく普通の4人家族。

次男が事件を起こし、少年院に入ったところから、物語は始まり、家族が崩れ始めていく過程が、丁寧に丁寧に描かれ、展開されていきます。

 

優等生の長男が抱える苦痛。

教習所の教官として、数々の生徒たちを指導してきたけれども、自分の子供に対しては、“親”としての接し方を見失い、戸惑っている頑固な家長。

唯一、真人間として家族を守ろうとする母親の葛藤。

 

それぞれが、「家族」という概念の中で、必死に生きようとすればするほど、わがままや狂気が飛び出し、他者を襲うことに繋がります。

絶望だけが残る家族に、どのような結末が訪れるのか。

 

—— 把握時間掌握方向

幾度となく出てくる言葉の意味するところは……。

 

家族に、社会が抱えている「悪」が加わることで、台湾社会の縮図が浮かび上がり、普遍性のある物語として、見るものの心に響くのでしょう。

台湾社会を理解できるヒントが散りばめられている作品です。

 

誰の心にも、明と暗があると思います。

自分を演じている自分がいると思います。

生きていく上で、自分を守ってくれるは果たして光なのか、影なのか。

きっとどちらも必要なのかもしれません。

 

<陽光普照>——陽の光は、いついかなる時も、公平に、同じように降り注がれる。映画のタイトルが物語の最後に響きます。

 

個人的には、どこか是枝裕和監督の『万引き家族』や、園子温監督が描く歪んだ社会、歪んだ人間と通じるものを感じました。

 

約160分の長編にも関わらず、1分足りとも目をそらせる場面がないほど、緊張感に包まれた作品です。

 

鍾孟宏監督の作品では、大事な場面で、日本の曲が効果的に使われていることに気がつくかもしれません。

本作品では、少年院を退院することが決まった場面で、収監されている仲間たちがアカペラで歌う「花〜すべての人の心に花を〜」(中文タイトル「花心」)が美しい音色となって、涙を誘います。

 

登場人物の全てが負の闇を持っているにも関わらず、見終わった感想は、なぜか木漏れ日の中にいるような温かみが残る映画。

これが鍾孟宏監督のすごいところに違いありません。

 

 

ラストに流れる主題歌は、鍾孟宏監督自身による作詞。

ここにも、監督が伝えたい家族の思いが込められており、映画を盛り上げます。

 

11月23日の金馬奨の行方も気になりますが、結果関係なく、ぜひ、ご覧いただきたい作品です。