この間の台湾滞在期間中、映画を結構見た。

なかでも記憶に残っているのは、

『老大人(Dad's Suit)』と『一念(A Decision)』の2本だ。

 

2作品ともテーマは「死」。

いまの台湾社会が深く反映されており、考えさせられた。

 

 

『老大人』の主人公は、80歳を越え、妻に先立たれて平渓で独居している金茂。

金茂には、台北に住む息子と娘がいるが、ケガを機に、娘から誘われた同居を拒み、老人ホームに入所することになる。

高齢者ばかりに囲まれた老人ホームでの暮らしから、人生の最後を考えるようになった金茂。

孫の結婚が決まり、一家団欒のあとに決断したこととは……。

 

金茂を演じるのは、台湾のベテラン俳優・小戽斗だ。

口数少ない、頑固一徹な一家の長は、家族みんなから疎まれ、厄介者扱い。

”こんなおじいちゃんいるねー”と頷く場面ばかりが続くが、亡き妻が大好きだった「含笑花」を手に、墓参りに行く姿に、家族への愛情をうまく表現できないもどかしさが感じられ、目頭が熱くなった。

撮影地が平渓ということで、空に舞い上がる天燈(ランタン)と、かつて石炭を採掘していた坑道跡が印象深く映し出されていた。

 

親の介護、老人施設、独居老人……。日本より少子高齢化が進む台湾社会には、様々な問題が山積している。このようなテーマを正面から扱った数少ない台湾映画として、とても見応えのある作品だった。

 

最後に、小戽斗のデビュー作は、主演・千葉真一、監督・深作欣二の『カミカゼ野郎 真昼の決斗』と知り、気になっている。

 

 

 

一方、『一念(A Decision)』は尊厳死を扱ったドキュメンタリー映画だ。

 

主人公は、台湾で無駄な医療の廃止を唱えている医師・呉育政医師。

彼のもとには、全身を管でつながれ、自由も意識も奪われながら、生き続けている患者が大勢いる。

 

「清楚的人可憐,還是不清楚的人可憐(意識のある人が可哀想なのか、意識のない人が可哀想なのか)」

 

常にこのことを自問自答しながら、日々の診療に当たっている彼は何を思うのか。

終末期医療の現場から見えてくる、現代医療のあり方を鋭く問う作品だ。

 

今年の1月、台湾ではアジア初の患者を主体とした尊厳死法である「病人自主権法(病主法)」が施行された。病主とは本人ことだ。

末期患者、不可逆性昏睡、植物人間、重篤な認知症、政府が指定する疾病の5つのケースに限り、延命治療を受けるかどうかを、自ら決めることができる。

適用対象に末期患者以外が含まれるところに意味がある。

日本では、1976年に尊厳死協会が結成されたが、反対意見も根強く、尊厳死の法制化はいまだ実現の目処が立っていない。

介護職への外国人労働者の登用や同性婚、終末期医療法制化など、台湾から日本は学べることが多く、勉強になる。

 

ちなみに、外国人労働者の介護職については、香港在住の一人暮らしの老人と、フィリピン人のヘルパーとの友情を描いた香港映画『淪落人(Still Human・みじめな人)』がある。

台湾でも、車椅子を押す外国人ヘルパーの姿をよく見かけるが、香港でも同じ状況だ。

主演の黄秋生は演技派俳優で知られており、うまいのは当たり前だが、ヘルパー役のフィリピン人女優・姫素・孔尚治がとにかくチャーミングで素敵だ。

悲惨になりがちなテーマを、軽いテンポで明るく描いており、最後は夢と勇気をもらった上に、ほろっとさせられる最高な作品だった。