「深い……。」
映画のラストシーンで、思わず口にした言葉だ。

現在も台湾で絶賛上映中の中台合作映画「六弄咖啡館」を見た。
台湾の人気小説家•藤井樹の同名小説を映画化したものだが、藤井樹自身の監督デビュー作でもある。

ジャ・ジャンクー監督の《山河故人(邦題:山河ノスタルジア)》で好演した中国の俳優•董子健(ドン・ズージェン)と初主演作「狂舞派」で大ブレークした香港の女優•顏卓靈(チェリー・ガン)、日本で「金田一少年の事件簿 獄門塾殺人事件」に出演したことがある台湾の俳優•林柏宏(リン・ボーホン)と歐陽菲菲(オーヤン・フィーフィー)の姪でもある台湾の女優• 歐陽妮妮(オウヤン・ニーニー)などが出演していて、今夏最も注目されている映画だ。

一言で言えば、”高校生の青春映画”。これまで話題となってきた台湾の1980年代から1990年代の高校生を描く《那些年,我們一起追的女孩(邦題:あの頃、君を追いかけた)》、《我的少女時代(邦題:私の少女時代)》や《五月一号(邦題:若葉のころ)》と似ている。

時代は現代と1996年。
關閔綠(董子健)と蕭柏智(林柏宏)は大の仲良し。關閔綠は同じクラスの李心蕊(顏卓靈)に片思いしているが、大学受験を控え、なかなか言い出せない。蕭柏智も李心蕊の親友•蔡心怡(歐陽妮妮)に恋している。ようやくお互いの気持ちを確かめ合うことができたが、4人は卒業を迎え、異なる大学でそれぞれの大学生活を始める。
遠距離恋愛を始めた關閔綠と蕭柏智の関係はどうなるのか。


片思い、ケンカ、親への反抗、いたずら、友情……。
誰もが学生時代に経験し、どこかに深く共感し、感情移入できるストーリーだ。
一見単純な青春映画と思ったが、とにかくラストが切ない。映画館で号泣する人が続出したほど、悲しい。
もちろん、私もハンカチを手放すことが出来なかった。

誰にでも同じような青春がある……
……だけれども、人生は一人一人全く違う


映画のセリフだ。
学生から大人へ。社会を意識し始め、将来を考え始めたときに初めて見えてくるものがある。
それは必ずしも輝かしい希望に満ちたものではない。
台湾だけでなく、日本の社会でも感じられる問題が、この映画の根底にあることに、ラストでやっと気がつくことができた。

だから「深い」という感想になったのだ。


本作は、上映されてから結構いろいろな話題を引き起こしている。
まず、台湾、香港、中国の人気若手俳優を起用したのが裏目に出た。というのも、香港や中国なまりの「北京語」に、台湾の観客がいま一つ馴染めず、物語に入っていけない、という反響が寄せられたからだ。
そして物語のキーパーソンとなっている戴立忍(レオン•ダイ)は、先日、中国で主演映画《没有別的愛》を撮影後、台湾独立を指示していると疑われ、降板させれらるという事件が起きた。このため、本作の中国上映では、戴立忍の出演シーンが全てカットされると言われている。
また、主演女優の親友を演じた歐陽妮妮は、大学の試験に替え玉を使ったことが発覚し、批判を浴びた。

最後に流れるテーマソング「半句再見」(孫燕姿)がいい。映画の完成度の高さや、内容の良さが受け入れられたのはもちろんだけれども、一連の事件もこの映画を注目させる話題となり、相乗効果で大ヒット中だ。
日本でも是非上映してほしい。




クリック→六弄咖啡館の最も泣けるシーンVTR(かなりネタバレします)