先週台湾で金馬奨の授賞式が行われました。
今年51回目となる金馬奨は、中国語を主体とした映画に贈られる映画賞で、中華圏のアカデミー賞とも呼ばれています。

会場は台北•国父記念館。レッドカーペットの周囲には多くのファンが集まっていて、滅多に見ることのできない大スターが通るたびに、歓喜の声があがっていました。

助演女優賞や新人賞、美術賞、ショートフィルム賞、主演女優賞、監督賞などを選び出すのですが、全て終わるのに4時間以上。
テレビ中継のため、私は途中のCM放送時にトイレ休憩ができるのだけれども、ずっと座っているのもなかなか辛い。館内の冷房は効果抜群で、後半は修行のようになっている気がしないでもありませんでした。それでも、前方に座っている受賞候補者たちは背筋をピンと伸ばし、格好良さと美しさを保っていたのに感動。ノースリーブのパーティードレスで寒くないのか、と余計な心配は無用でした。

今年は中国映画が大半を占め、台湾映画のKANOや軍中楽園がどれくらい頑張れるかが注目されているなか、ロウ•イエ(婁燁)監督の「推拿 Blind Massage」が6部門を制覇しました。
ロウ•イエは天安門事件を描いた「天安門、恋人たち」で中国当局から5年間の映画製作禁止処分を受けた監督。2011年禁止令が解け、中国本土で撮ったのが「二重生活」(原題: 浮城謎事 Mystery)(2015年1月下旬より日本公開決定)。「推拿 Blind Massage」は最新作となります。
原作は中国の最高長編文学賞の一つである茅盾文学賞を受賞した畢飛宇の同名小説《推拿》。
中国社会で働く盲人のマッサージ師たちの生活、夢、愛情から彼らの心の葛藤を描いた作品となっています。
映画には実際の盲人も多く出演しているため、点字版の台本制作や、撮影前に現場を入念に歩いて慣れてもらうなど、普段の撮影とは異なる手順が多かったとか。
ちなみに、推拿に出演した張磊は盲人で、本作で新人賞を受賞していました。

授賞式の途中途中には歌やダンスが入ったのですが、なかでも一番の歌唱力で会場を魅了したのがJacky Cheung (張學友)の「用餘生去愛/The Rest Of Time 」。世界初披露となったJacky Cheung の新曲は中国語の歌詞で、MVは台湾の陽明山で撮影されたものです。



Jacky Cheung と並んで観客を感動させたのが、「 平凡之路」を歌った中国人歌手の朴樹。この歌で最優秀オリジナル映画歌曲賞を受賞。
中国映画「 後会無期」の主題歌であり、監督は中国で絶大な人気を誇る韓寒。
1982年生まれの韓寒は若干32歳のベストセラー作家。2010年には雑誌「タイム」で世界で最も影響力のある100人の芸術部門に選出されています。
「 後会無期」は初監督作品にもかかわらず、今年の7月に中国大陸で公開され、上映20日間で6億人民元を売り上げる大ヒット作となりました。
内容はチェン・ボーリンを始めとした若者3人が大陸を横断するロードムービー。

この現象、台湾の大人気作家ギデンズ・コー(九把刀)が初監督を務めた「あの頃、君を追いかけた」(原題:那些年,我們一起追的女孩、You Are the Apple of My Eye)とよく似ているのではないでしょうか。
最近はこのように、中国大陸でも若手の作家が映画を撮り始め、それがヒットするということも少なくないそうです。

台湾映画は長い間低迷していましたが、2008年に公開された「海角七号」で二度目の黄金期を迎え、以来、若手の監督や俳優が多く活躍しています。
毎年数十本にのぼる国片と呼ばれる台湾映画が制作され、ジャンルもアクション、恋愛、ドキュメンタリーなど多岐にわたり、芸術性の高い物から商業的なものまでと多彩なラインアップで発展し続けています。
ただ個人的には、発展すべきところは今年で一段落したのではないかと感じています。
7年目を迎える来年は円熟期に入り、ベテランの侯孝賢監督や蔡明亮監督と新人のギデンズ・コー監督らがどのように化学反応を起こすのか楽しみです。

来年の金馬奨にもっと多くの台湾映画がノミネートされるよう期待しつつ、日本でも金馬奨に注目する人が多くなるよう、日台合作映画が制作され、ノミネートされることを願いたいです。