11月22日は台北で金馬奨の発表の日。
趙德胤 Midi Z監督の作品《冰毒 Ice Poison》は最優秀監督賞にノミネートされています。

台湾とミャンマー合作のこの映画は、ベルリン国際映画祭を始め数々の映画祭に出品され、高い評価を得ています。
なかでも、KANO、郊遊 ピクニック、軍中楽園などそうそうたるラインアップの中から、2015年度のアカデミー賞の外国語映画部門へ、台湾映画の代表作として出品されることも決まり、ますます注目度が高まっています。

今年31歳の趙德胤監督はミャンマー•ラーショー市に生まれ、16歳で台湾に渡り、大学から映画を始めた華裔。侯孝賢監督のもとで勉強をしてきました。
これまで短編•長編を合ると20作近くにもなりますが、ほとんどの作品が監督自身の故郷•ミャンマーをテーマとした内容となっていて、いまの台湾映画界の中で貴重な存在として高く評価されています。

映画《冰毒 Ice Poison》はミャンマーと中国の国境近くに住む貧しい青年が、バイクタクシーとして働き始め、中国帰りの女性と知り合い覚せい剤に溺れて行く……といったストーリー展開だけれども、物語の背後に描かれているメッセージがこれでもかと突き刺さってきました。

この映画を見るまで、わたしはミャンマーという国の現状をあまり知りませんでした。

交通手段も仕事もなにもない荒寥とした山村に住む人々。
道一本隔てた中国との落差。
自分の意志とは関係なく、お金のために、家族のために外国人と結婚しなければならない女性。
生きる目的を見いだせず生活して行かなければならない日々。

大きな社会のうねりとドラッグに溺れて行く心の機微がミャンマーの風景と混ざり合い、新しい台湾映画の風を感じることができる90分でした。

この映画を見終わったあと、タイ北部、ミャンマー国境近くの村に越境して不法滞在するビルマ人を描いた監督の前作 ''POOR FOLK'' 《窮人。榴槤。麻藥。偷渡客》も是非見てみたいと思いました。

きっとこれからもこの監督は、混沌とした東南アジアの姿を鋭く切り取って作品にし続けて行くに違いないでしょう。

ちなみに昨年の金馬奨での最優秀作品賞を始め、4部門もの賞を獲得した「爸媽不在家 Ilo Ilo」は30歳のアンソニー•チェン(陳哲藝)監督のシンガポール映画でした。
アン•リー監督の強力推薦でこれからが期待される新人監督ですが、12月13日より邦題「イロイロ ぬくもりの記憶」として新宿K’sシネマほか全国順次公開される予定です。
(この映画もとっても素敵な作品でした!)

今年の金馬奨では《冰毒 Ice Poison》がなにか起こしてくれるかもしれません。
そして日本での公開を期待したいです。


趙德胤 Midi Z監督自身によるYou Tube画像