4月上旬、台湾で映画 《白米炸彈客》(The Rice Bomber)を見た。
観客は私を含め2人。
ひまわり学生運動の影響で、書店や映画館へ足を運ぶ人が減っていると聞いていたので驚きはしなかったけれども、ちょっぴり心細くなった。
正直どんな内容かもあまりわからないまま、その時上映されていた台湾映画の一つとして選んだ作品だが、始まった途端、物語にぐいぐいと引き込まれた。


2003年から2004年の間に、台北の公園や公衆トイレ、電話ボックス、駅のような公共施設にて17回もの爆発物が設置され、連続爆発事件が起きていた。
幸いにも、いずれの事件における被害者は出なかったが、爆発物と一緒に
「不要進口稻米,政府要照顧人民(米を輸入するな、政府は人民の面倒をみろ)」
という書き置きがあった。

誰が?何故?

ということで警察は必死に捜索したけれども、結局捕まえることができず、2004年の11月に犯人自らが出頭して事件解決となった。

この事件の犯人•楊儒門が映画の主人公であり、映画タイトルにもなっている「白米炸彈客」だ。
1978年彰化生まれの楊儒門は、2002年に台湾がWTOの加盟国となり、米の輸入自由化が行なわれた結果、稲作をメインとする台湾農家は大打撃を受け、農民の生活が迫害されることに憂いを持ち、たった一人で、政府に対して農民が苦しんでいる現状に目を向けて欲しいと言う「意志」表示をし始めた。
最初は正攻法でお役所機関に陳情しに行ったけれども、なんの肩書きも持たない一市民が相手にされるはずがない。
何度もトライしたが、一切回答を得られなかったので、民衆と公的機関の注意を引くつけるための手段として、ある方法を思いついた。
—「爆発物」製作。

爆発することにより、人々の注目を集められるところに発想を得た作戦は大成功し、各メディアで大々的に取り上げられ始め、社会現象となった。

犯罪者は当然見つかりたくないという気持ちで行なう場合が多いが、楊儒門は違った。
なんとか見つけて欲しく、常に目立つ場所に爆発物を設置した。にも関わらず、なかなか捕まらない。
後半では、わざわざ街頭の監視カメラに映るように歩いたが、やはり発見されない。
最終的に2004年11月弟に付き添われ、自ら警察に出頭し、5年10ヶ月という実刑判決が下った形で事件は解決された。

本作品を通し感じたことはたくさんある。
爆発物を作り、社会不安を誘ったことは決して許されることではない。
だとしたら、弱者の声が届かない社会に対してどのような行動が取れるのか。

楊儒門は投獄中の2005年のWTO会議期間中、144時間に及ぶハンガーストライキを行い、2007年に特赦を受け社会復帰し、現在は様々な農業団体の声を聞きながら、社会貢献活動を行なっている。

奇しくもひまわり学生運動の期間中に公開されたこの映画。
25歳の楊儒門が引き起こした《白米炸彈客》事件から10年経った台湾で、また20代の若者たちが声を上げていた。
今度は一人ではなく、多くの人たちの声だ。
大きな声となったひまわり学生運動は、政府から要求していた譲歩を引き出した。

そんないまの台湾社会を楊儒門はどういう思いで見ているのか、直接話す機会があったら聞いてみたいと思った。


ノンフィクションものが好きということもあるが、この映画、本当に素晴らしかった。
旧正月後、大々的に宣伝されてきたKANO以外にあまり目立った台湾映画がない中の大収穫。
ここ数年でみた台湾映画の中で、一番印象に残り、トップ3に入るクオリティーの作品だろう。

因に映画には謝欣穎が演じる女性革命家が登場している。
彼女は候孝賢監督が発掘した女優さんで、その存在感と演技がまた素晴らしい。
そして楊儒門の著作に「白米不是炸彈」があり、いつか読んでみたい。