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樋口了一/手紙~親愛なる子供たちへ~
今日から、母はデイサービスに行きました。
とうとう、この日が来たか……という気持ちです。
これまで母のことは、ほとんど僕一人で見てきました。
食事のこと、家のこと、病院のこと、薬のこと、その他にも
母が一人では出来なくなったことを、僕が一つ一つやって
きました。
もちろん、母は僕の母親ですから、出来ることはやって
あげたいと思っています。
でも、最近は母の出来ることが少なくなってきました。
それに伴って、僕の負担も少しずつ、いや、かなり大きく
なってきました。
そんな中で始まったのが、今日からのデイサービスです。
正直なところ、僕は母のことが心配です。
母は、僕以外の人に対して、とても人見知りをする人です。
そして、かなりの小心者でもあります。
初めて会う人。
初めて行く場所。
知らない環境。
そういうものが苦手な母です。
だから今日も、どうしているのだろうと僕は気になって仕方
がありませんでした。
「ちゃんと馴染めているかな」
「緊張していないかな」
「一人で寂しくしていないかな」
そんなことを考えていました。
僕も母の様子を見に行きました。
やはり、母は緊張していました。
それを見た時には、「やっぱりそうだよな……」
と思いました。
いきなり知らない人ばかりのところへ行くのですから、緊張
するのは当たり前です。
僕だって、もし自分が同じ立場だったら、最初は緊張すると
思います。
だから、今日の母を見て、「駄目だった」とは思いません。
むしろ、初日にそこへ行けたこと自体が大きな一歩だったの
だと思います。
今日は、まだ母から詳しい話を聞いていません。
「どうだった?」
と聞けば、もしかしたら簡単に答えてくれるかもしれません。
でも、本当のところは、母自身にしか分からないでしょう。
楽しかったのか。
疲れたのか。
緊張したのか。
誰かと話をしたのか。
食事は美味しかったのか。
職員の方は優しかったのか。
いろいろと聞いてみたいことがあります。
でも、僕が一番聞きたいのは、「また行きたい」
という言葉です。
もし母が、「楽しかったよ」「また行きたい」「友達が出来た」
そんなことを言ってくれたら、僕はどれだけ嬉しいでしょう。
それが僕の一番の願いです。
最初は週に一度です。
いきなり何度も行くのではなく、まずは週一回から始めます。
母にとっては、それくらいがちょうどいいのかもしれません。
新しい環境に慣れるには時間が必要です。
最初は緊張していても、何度か通っているうちに顔見知りが
出来るかもしれません。
そして、いつか、
「あの人と話すのが楽しい」
「今日は誰が来るかな」
そんな気持ちになってくれたらいい。
友達が一人でも出来れば、母にとってデイサービスは「行か
される場所」ではなく、「行きたい場所」に変わるかもしれ
ません。
僕は、それを心から願っています。
そして、もし母自身が、「もっと行きたい」
と言ってくれるようになったら、それほど嬉しいことはあり
ません。
今利用している施設のデイサービスは、週に一度から三度
まで増やすことが出来ます。
僕としては、将来的には週に三度くらい利用出来ればいいと
思っています。
もちろん、最初から週三回にすればいいという話ではありま
せん。
まずは週一回。
それで母がどんな様子なのかを見る。
少しずつ慣れてきたら、本人の気持ちを聞きながら回数を増
やしていく。
それが一番いいのだと思います。
そして最終的に週三回になれば、僕自身にとっても大きな
助けになります。
決して、母を施設に預けて楽をしたいというだけではあり
ません。
僕自身も身体のことでいろいろと抱えています。
家事もあります。
母の介護もあります。
自分の病院もあります。
母の病院もあります。
薬の管理など、やらなければならないこともたくさんあり
ます。
その全てを僕一人で背負い続けていけば、いつか僕自身が倒
れてしまうかもしれません。
それでは、母を支えることも出来なくなります。
だから、デイサービスを利用することは、母のためであると
同時に、僕自身のためでもあります。
そして結果的には、母と僕の二人が共倒れしないために必要
なことなのだと思っています。
でも、僕が一番大切だと思っているのは、回数ではありま
せん。
母が幸せかどうかです。
週に三回行っていても、母が毎回嫌な思いをしているのなら
それでは意味がありません。
反対に、週一回でも、
「今日は楽しかった」
と笑って帰って来るのなら、それは素晴らしいことです。
だから僕は、母が楽しく施設へ行けることを一番に考えたい
と思っています。
介護する側の都合だけで考えてはいけない。
もちろん、僕の負担を減らすことも大切です。
でも、それ以上に母が安心して過ごせること、誰かと話をす
ること、笑うこと、そして自分の時間を持つこと。
そういうことが大切なのだと思います。
母にも、母の人生があります。
これまでは僕が母の生活を支えることばかり考えていまし
たが、これからは母自身が少しでも楽しく過ごせる時間を作
ってあげたいと思っています。今日の準備も、全て僕がやり
ました。
忘れ物がないように準備をして、必要なものを揃えて、母が
ちゃんとデイサービスへ行けるようにしました。
こういう準備一つをとっても、介護には手間が掛かります。
でも、それも今日から始まった新しい生活の一部です。
施設の方とも、これからいろいろ相談していくつもりです。
母がどんな様子だったのか。
何か困ったことはなかったのか。
どうすれば母がもっと安心して通えるのか。
そして、どのくらいの頻度が母にとって適切なのか。
そういうことを施設の方と相談しながら、一つ一つ決めて
いきたいと思っています。
また、社協とも密に連絡を取り合いながら、母にとって一番
良い方法を探していきたいと思っています。
僕一人の考えだけで決めるのではなく、専門の方々の力も借
りながら、母にとって一番幸せな方法を見つけていきたい。
それが今の僕の願いです。そして、ふと思います。
いずれは僕も、誰かのお世話にならなければならない日が来
るのでしょう。
今は母を介護する側にいます。
でも、僕だって永遠に元気でいられるわけではありません。
年齢を重ねれば、身体が思うように動かなくなることもある
でしょう。
今だって両膝痛が前の痛みにプラスされ注射や電気療法を受
けています。
幾ら痛くても歩くのが辛くても家事は休む事を許しません。
だから僕も通院しながら何とか痛みを堪えて頑張ってい
ます。
いずれは、僕自身も介護サービスのお世話になるかもしれ
ません。
だからこそ、今のうちに学んでおきたいと思っています。
介護サービスとは、どういうものなのか。
デイサービスでは、どんなことをしているのか。
介護を受ける側は、どんな気持ちになるのか。
そして、介護する側はどうやって負担を減らしていけばいい
のか。
母を通して、僕自身もいろいろなことを学んでいきたいと思
います。
今日から始まった、母の新しい生活。
まだ一日目です。
最初から何もかも上手くいくとは思っていません。
緊張する日もあるでしょう。
「行きたくない」と言う日もあるかもしれません。
それでも、少しずつ慣れてくれればいい。
一人でも二人でも、気の合う人が出来ればいい。
職員の方と笑って話せるようになればいい。
そして、いつか母が、
「明日はデイサービスの日だね」
と、自分から言ってくれるようになったら最高です。
そうなったら、僕も安心して送り出せます。
そして、その間に僕も少し身体を休める。
家のことを片付ける。
自分の病院のことを考える。
あるいは、何もせずに少しだけ自分の時間を持つ。
それでいいのだと思います。
介護する人にも、休む時間は必要です。
介護される人にも、自分の世界が必要です。
どちらか一方だけが我慢し続けるのではなく、二人が無理
なく生活を続けていける方法を探していく。
それが、これからの僕たちに必要なのだと思います。
母のデイサービス初日。
今日はまだ、始まったばかりです。
母にとっても、僕にとっても、新しい一歩です。
僕は、母が少しでも楽しく過ごせることを願っています。
そして、いつか友達が出来て、
「もっと行きたい」
と言ってくれる日を楽しみにしています。
その時には、僕もきっと笑顔で、
「じゃあ、もう一日増やそうか」
と言えるでしょう。
母が幸せに過ごせること。
そして僕も倒れずに母を支えていけること。
その二つは、決して相反するものではありません。
二人がこれからも一緒に暮らしていくためには、二人が無理
をし過ぎないことが大切なのだと思います。
今日から始まった母の新しい一歩。
どうか、この一歩が母にとって良い方向へ向かいますように。
そして、いつか母に新しい友達が出来て、笑顔でデイサービ
スから帰って来ますように。
僕は心から、そう願っています。
May Be The Best Year Of My Life.







